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第6話:泥沼に沈む者たち
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「くそっ! くそっ! くそぉっ!」
安酒場の薄汚れたテーブルを、勇者ガイは何度も拳で叩きつけた。その拳は、かつての輝きを失い、ささくれだらけになっている。
ベルクを追放してから、俺たちのパーティーは何もかもうまくいかなくなった。
最初は、ほんの些細なことだった。
「おいガイ、この剣、なんだか最近切れ味が悪いんだが」
ゴードンが不満を漏らす。
「私のローブもよ。ちょっとした魔物の攻撃で、すぐにほつれちゃう」
リナも不機嫌そうに言う。
ベルクがいた頃は、装備の性能が落ちるなんてことはなかった。夜の間に、いつの間にか完璧に手入れされていたからだ。だが、そんなことなど、当時の俺たちは気にも留めていなかった。
次に問題になったのは、ポーションだった。
「なんだこのポーションは!? 全然効きが悪いじゃない!」
高難易度ダンジョンでの戦闘中、リナが叫ぶ。市販の高級ポーションを使っているはずなのに、回復量が明らかに足りない。ベルクが調合していたポーションが、いかに高品質なものだったか、俺たちはこの時になってようやく思い知った。
探索の効率は、日に日に落ちていった。装備は傷み、回復薬は足りず、食料の管理もずさんになった。夜の見張りも、荷物の整理も、誰もやりたがらない。些細なことで言い争いが絶えなくなり、パーティーの雰囲気は最悪だった。
「そもそも、あんたが荷物持ちを追い出すからこうなったんじゃないの!」
「なんだとリナ! お前も賛成しただろうが!」
「ゴードン! お前も何とか言え!」
「俺に言うな! 勇者様の決定だ!」
醜い責任のなすりつけ合い。かつての栄光など、見る影もなかった。
そして、決定的な失敗が訪れる。王都からの期待を背負って挑んだ、新たな高難易度ダンジョン。俺たちは準備不足と連携の乱れから、中層のボスにも勝てずに大敗を喫した。命からがら逃げ帰った俺たちを待っていたのは、王都中の人々からの嘲笑だった。
「おい、見ろよ。落ち目の勇者様御一行だぜ」
「荷物持ち一人いなくなっただけで、このザマかよ」
「結局、あいつらも大したことなかったんだな」
名声は地に落ち、貴族からの支援も打ち切られた。金に困った俺たちは、装備を売り払い、借金を重ねるようになった。
そんな時だった。ある噂を耳にしたのは。
「辺境の町アークライトに、『神の手』を持つ職人がいるらしい」
「なんでも、折れた伝説の剣を元以上に修復したり、ただの石ころから伝説級の金属を作り出したりするそうだ」
その話を聞いた瞬間、俺の目に光が宿った。
「そいつだ……! そいつに俺たちの装備を新調してもらえば、俺たちはまた返り咲ける!」
藁にもすがる思いだった。俺たちはなけなしの金をかき集め、その職人がいるという辺境の町アークライトへと向かった。
惨めな旅だった。馬車を雇う金もなく、ボロボロの装備で何日も歩き続けた。
そして、ようやくたどり着いたアークライトで、俺たちは信じられない光景を目にすることになる。町の中心にそびえ立つ、巨大で豪華な屋敷。その門には、「ベルク工房」という看板が掲げられていた。
ベルク……? まさか。同姓同名の別人だろう。あの役立たずの荷物持ちが、こんな豪邸に住んでいるはずがない。
だが、門から出てきた人物を見て、俺たちは言葉を失った。
上質な服を身にまとい、自信に満ちた表情で歩くその男は、間違いなく、俺たちがダンジョンに捨てたあのベルクだったのだ。
なぜ? どうしてあいつがここに? そして、なぜこんな成功を収めている?
俺の頭は、混乱で真っ白になった。
安酒場の薄汚れたテーブルを、勇者ガイは何度も拳で叩きつけた。その拳は、かつての輝きを失い、ささくれだらけになっている。
ベルクを追放してから、俺たちのパーティーは何もかもうまくいかなくなった。
最初は、ほんの些細なことだった。
「おいガイ、この剣、なんだか最近切れ味が悪いんだが」
ゴードンが不満を漏らす。
「私のローブもよ。ちょっとした魔物の攻撃で、すぐにほつれちゃう」
リナも不機嫌そうに言う。
ベルクがいた頃は、装備の性能が落ちるなんてことはなかった。夜の間に、いつの間にか完璧に手入れされていたからだ。だが、そんなことなど、当時の俺たちは気にも留めていなかった。
次に問題になったのは、ポーションだった。
「なんだこのポーションは!? 全然効きが悪いじゃない!」
高難易度ダンジョンでの戦闘中、リナが叫ぶ。市販の高級ポーションを使っているはずなのに、回復量が明らかに足りない。ベルクが調合していたポーションが、いかに高品質なものだったか、俺たちはこの時になってようやく思い知った。
探索の効率は、日に日に落ちていった。装備は傷み、回復薬は足りず、食料の管理もずさんになった。夜の見張りも、荷物の整理も、誰もやりたがらない。些細なことで言い争いが絶えなくなり、パーティーの雰囲気は最悪だった。
「そもそも、あんたが荷物持ちを追い出すからこうなったんじゃないの!」
「なんだとリナ! お前も賛成しただろうが!」
「ゴードン! お前も何とか言え!」
「俺に言うな! 勇者様の決定だ!」
醜い責任のなすりつけ合い。かつての栄光など、見る影もなかった。
そして、決定的な失敗が訪れる。王都からの期待を背負って挑んだ、新たな高難易度ダンジョン。俺たちは準備不足と連携の乱れから、中層のボスにも勝てずに大敗を喫した。命からがら逃げ帰った俺たちを待っていたのは、王都中の人々からの嘲笑だった。
「おい、見ろよ。落ち目の勇者様御一行だぜ」
「荷物持ち一人いなくなっただけで、このザマかよ」
「結局、あいつらも大したことなかったんだな」
名声は地に落ち、貴族からの支援も打ち切られた。金に困った俺たちは、装備を売り払い、借金を重ねるようになった。
そんな時だった。ある噂を耳にしたのは。
「辺境の町アークライトに、『神の手』を持つ職人がいるらしい」
「なんでも、折れた伝説の剣を元以上に修復したり、ただの石ころから伝説級の金属を作り出したりするそうだ」
その話を聞いた瞬間、俺の目に光が宿った。
「そいつだ……! そいつに俺たちの装備を新調してもらえば、俺たちはまた返り咲ける!」
藁にもすがる思いだった。俺たちはなけなしの金をかき集め、その職人がいるという辺境の町アークライトへと向かった。
惨めな旅だった。馬車を雇う金もなく、ボロボロの装備で何日も歩き続けた。
そして、ようやくたどり着いたアークライトで、俺たちは信じられない光景を目にすることになる。町の中心にそびえ立つ、巨大で豪華な屋敷。その門には、「ベルク工房」という看板が掲げられていた。
ベルク……? まさか。同姓同名の別人だろう。あの役立たずの荷物持ちが、こんな豪邸に住んでいるはずがない。
だが、門から出てきた人物を見て、俺たちは言葉を失った。
上質な服を身にまとい、自信に満ちた表情で歩くその男は、間違いなく、俺たちがダンジョンに捨てたあのベルクだったのだ。
なぜ? どうしてあいつがここに? そして、なぜこんな成功を収めている?
俺の頭は、混乱で真っ白になった。
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