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第12話「君という名の、たったひとつの真実」
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アルフォンス王子が現れた瞬間、地下書庫の空気は凍りついた。
衛兵たちは、誰が本当の敵なのか分からず、戸惑っている。ヴァルガス公爵は、顔面蒼白のまま、ただ震えていた。
「で、殿下……。これは、一体……」
かろうじて声を絞り出した公爵に、王子は冷たい視線を向けた。
「それは、こちらの台詞だ、公爵。図書館に不法侵入した反逆者を捕らえた、と報告があったから来てみれば……。私の知らぬところで、一体何をしていた?」
王子の言葉は、鋭い刃のような、厳しい銀色をしていた。
全ては、私の賭けだった。
アレンさんと王都へ向かう前、私は一通の手紙を書いていた。宛先は、アルフォンス王子。
手紙には、こう書いた。『数年前、アレン・クロフォードが貴方様に捧げた金色の言葉の真意を、今一度お確かめください。真実は、王立図書館の地下に眠っています』と。
言葉の色が見える私の能力のことも、正直に書き記した。信じてもらえるかは、賭けだった。でも、アレンさんの話に出てきた王子の姿から、彼はきっと真実を求める公正な君主であるはずだと、私は信じたのだ。
私の手紙は、無事に彼の元へ届いた。そして彼は、真実を確かめるために、自らここへ来てくれたのだ。
「……そこの娘、持っている水晶を、こちらへ」
王子が、私に手を差し伸べる。
私は、胸に抱いていた真実の音晶を、恭しく彼に差し出した。
王子がその水晶に触れた瞬間、彼の表情が険しく変わっていく。彼にもまた、あの日の光景が、そして言葉に込められた感情の色が、流れ込んでいるのだ。
燃えるような忠誠の金色。
どす黒い野心の紫色。
全てが、白日の下に晒されていく。
しばらくの沈黙の後、王子は、深く、深く息を吐いた。そして、その目に、確かな怒りの炎を宿して、ヴァルガス公爵を睨みつけた。
「……ヴァルガス。貴様、余を……この国を、欺いていたな」
その声は、地を這うような、静かな怒りに満ちていた。
「ひっ……! ち、違います、殿下! そ、それは、その小娘とクロフォードの魔法による幻覚です! どうか、お惑わしになられませぬよう!」
公爵は、見苦しい言い訳を並べ立てる。彼の言葉は、嘘で塗り固められた、汚い黄土色をしていた。
だが、王子の心はもう揺るがない。
「黙れ。余は、この目で真実を見た。アレンの、あの金色の言葉を……。そして、貴様の、あの醜い紫の言葉を!」
王子は、腰の剣を抜き放つと、その切っ先をヴァルガス公爵の喉元に突きつけた。
「貴様の反逆計画、隣国との密通の証拠も、既に掴んでいる。もはや、逃れられんぞ」
観念した公爵は、その場にへなへなと崩れ落ちた。彼の野望は、今、完全に潰えたのだ。
王子は、衛兵たちに公爵を捕縛するよう命じると、今度は、真っ直ぐにアレンさんの方へと向き直った。
その顔には、深い、深い後悔の色が浮かんでいた。
「……アレン」
王子の声が、震えている。
「……すまなかった。私は、お前の忠誠心を、信じることができなかった。友である、お前の言葉よりも、偽りの言葉を信じてしまった。この過ちは、一生かけても償えない」
王子の言葉は、心からの謝罪を示す、透き通るような水色だった。
アレンさんは、何も言わなかった。ただ、静かにその言葉を受け止めていた。彼の周りを、長い間の呪縛から解き放たれたような、穏やかな光が包んでいた。
全てが、終わったのだ。
***
数日後。
アレンさんの名誉は、完全に回復された。
ヴァルガス公爵の陰謀は全て暴かれ、彼の一派は一掃された。アレンさんには、再び宮廷魔術師として、以前以上の地位で復帰してほしいという、王子直々の願いが伝えられた。
誰もが、彼が宮廷に戻るものだと思っていた。私も、もちろん、そうだと思っていた。嬉しいことだけれど、辺境の図書館から彼がいなくなってしまうのは、少しだけ、寂しいな、なんて。
その日の夜、私たちは王城のバルコニーで、王都の夜景を見ていた。
「……宮廷に、戻られるのですね」
私が、少しだけ寂しさを滲ませた水色の言葉で言うと、アレンさんは静かに首を横に振った。
「いや、断った」
「え……? どうして、ですか? あなたの望みだったんじゃ……」
「昔は、そうだったかもしれないな」
彼は、夜景に目を向けたまま、静かに語り始めた。
「だが、一度全てを失って、分かったんだ。俺が本当に欲しかったものは、地位でも、名誉でも、魔法の力でもなかった」
彼は、ゆっくりとこちらを振り向いた。その真剣な瞳に、私の心臓が大きく跳ねる。
「俺が本当に欲しいのは、たった一つだ」
彼の言葉は、今まで見たどんな色よりも美しく、そして暖かい、愛情の色をしていた。それは、朝焼けの空のような、ピンクとオレンジと金色が溶け合った、優しい光。
「リリアナ。俺の言葉を、その奥にある本当の色を、信じてくれる、ただ一人の人間。……君が、欲しい」
それは、紛れもない、愛の告白だった。
私の目から、涙が溢れて止まらなくなった。でも、それは悲しい涙じゃない。嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいになる、暖かい涙だった。
「……私の言葉は、いつも穏やかな水色だって、思ってました」
私は、涙声で言った。
「でも、今、私の心から生まれている言葉は、きっと、あなたと同じ色をしています」
私の言葉が、彼と同じ、朝焼けの色になって、彼へと届くのが見えた。
アレンさんは、そっと私の涙を指で拭うと、優しく、優しく、私を抱きしめてくれた。
「リリアナ。俺と一緒に、あの町へ帰ろう。そして、これからは、俺の隣で、俺だけの司書になってくれないか」
「……はい。喜んで」
私たちは、どちらからともなく、唇を重ねた。
それは、たくさんの言葉よりも、ずっと雄弁に、私たちの心を伝えてくれる、甘くて優しい誓いのキスだった。
***
こうして、私の少し不思議な恋物語は、最高のハッピーエンドを迎えた。
追放された天才魔術師様は、もういない。
私の隣には今、世界で一番不器用で、世界で一番優しい、愛する人がいる。
彼の紡ぐ言葉は、時々まだ黒くて皮肉っぽいけれど。
その奥に隠された、暖かい金色の光を、私は誰よりも、知っているのだから。
衛兵たちは、誰が本当の敵なのか分からず、戸惑っている。ヴァルガス公爵は、顔面蒼白のまま、ただ震えていた。
「で、殿下……。これは、一体……」
かろうじて声を絞り出した公爵に、王子は冷たい視線を向けた。
「それは、こちらの台詞だ、公爵。図書館に不法侵入した反逆者を捕らえた、と報告があったから来てみれば……。私の知らぬところで、一体何をしていた?」
王子の言葉は、鋭い刃のような、厳しい銀色をしていた。
全ては、私の賭けだった。
アレンさんと王都へ向かう前、私は一通の手紙を書いていた。宛先は、アルフォンス王子。
手紙には、こう書いた。『数年前、アレン・クロフォードが貴方様に捧げた金色の言葉の真意を、今一度お確かめください。真実は、王立図書館の地下に眠っています』と。
言葉の色が見える私の能力のことも、正直に書き記した。信じてもらえるかは、賭けだった。でも、アレンさんの話に出てきた王子の姿から、彼はきっと真実を求める公正な君主であるはずだと、私は信じたのだ。
私の手紙は、無事に彼の元へ届いた。そして彼は、真実を確かめるために、自らここへ来てくれたのだ。
「……そこの娘、持っている水晶を、こちらへ」
王子が、私に手を差し伸べる。
私は、胸に抱いていた真実の音晶を、恭しく彼に差し出した。
王子がその水晶に触れた瞬間、彼の表情が険しく変わっていく。彼にもまた、あの日の光景が、そして言葉に込められた感情の色が、流れ込んでいるのだ。
燃えるような忠誠の金色。
どす黒い野心の紫色。
全てが、白日の下に晒されていく。
しばらくの沈黙の後、王子は、深く、深く息を吐いた。そして、その目に、確かな怒りの炎を宿して、ヴァルガス公爵を睨みつけた。
「……ヴァルガス。貴様、余を……この国を、欺いていたな」
その声は、地を這うような、静かな怒りに満ちていた。
「ひっ……! ち、違います、殿下! そ、それは、その小娘とクロフォードの魔法による幻覚です! どうか、お惑わしになられませぬよう!」
公爵は、見苦しい言い訳を並べ立てる。彼の言葉は、嘘で塗り固められた、汚い黄土色をしていた。
だが、王子の心はもう揺るがない。
「黙れ。余は、この目で真実を見た。アレンの、あの金色の言葉を……。そして、貴様の、あの醜い紫の言葉を!」
王子は、腰の剣を抜き放つと、その切っ先をヴァルガス公爵の喉元に突きつけた。
「貴様の反逆計画、隣国との密通の証拠も、既に掴んでいる。もはや、逃れられんぞ」
観念した公爵は、その場にへなへなと崩れ落ちた。彼の野望は、今、完全に潰えたのだ。
王子は、衛兵たちに公爵を捕縛するよう命じると、今度は、真っ直ぐにアレンさんの方へと向き直った。
その顔には、深い、深い後悔の色が浮かんでいた。
「……アレン」
王子の声が、震えている。
「……すまなかった。私は、お前の忠誠心を、信じることができなかった。友である、お前の言葉よりも、偽りの言葉を信じてしまった。この過ちは、一生かけても償えない」
王子の言葉は、心からの謝罪を示す、透き通るような水色だった。
アレンさんは、何も言わなかった。ただ、静かにその言葉を受け止めていた。彼の周りを、長い間の呪縛から解き放たれたような、穏やかな光が包んでいた。
全てが、終わったのだ。
***
数日後。
アレンさんの名誉は、完全に回復された。
ヴァルガス公爵の陰謀は全て暴かれ、彼の一派は一掃された。アレンさんには、再び宮廷魔術師として、以前以上の地位で復帰してほしいという、王子直々の願いが伝えられた。
誰もが、彼が宮廷に戻るものだと思っていた。私も、もちろん、そうだと思っていた。嬉しいことだけれど、辺境の図書館から彼がいなくなってしまうのは、少しだけ、寂しいな、なんて。
その日の夜、私たちは王城のバルコニーで、王都の夜景を見ていた。
「……宮廷に、戻られるのですね」
私が、少しだけ寂しさを滲ませた水色の言葉で言うと、アレンさんは静かに首を横に振った。
「いや、断った」
「え……? どうして、ですか? あなたの望みだったんじゃ……」
「昔は、そうだったかもしれないな」
彼は、夜景に目を向けたまま、静かに語り始めた。
「だが、一度全てを失って、分かったんだ。俺が本当に欲しかったものは、地位でも、名誉でも、魔法の力でもなかった」
彼は、ゆっくりとこちらを振り向いた。その真剣な瞳に、私の心臓が大きく跳ねる。
「俺が本当に欲しいのは、たった一つだ」
彼の言葉は、今まで見たどんな色よりも美しく、そして暖かい、愛情の色をしていた。それは、朝焼けの空のような、ピンクとオレンジと金色が溶け合った、優しい光。
「リリアナ。俺の言葉を、その奥にある本当の色を、信じてくれる、ただ一人の人間。……君が、欲しい」
それは、紛れもない、愛の告白だった。
私の目から、涙が溢れて止まらなくなった。でも、それは悲しい涙じゃない。嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいになる、暖かい涙だった。
「……私の言葉は、いつも穏やかな水色だって、思ってました」
私は、涙声で言った。
「でも、今、私の心から生まれている言葉は、きっと、あなたと同じ色をしています」
私の言葉が、彼と同じ、朝焼けの色になって、彼へと届くのが見えた。
アレンさんは、そっと私の涙を指で拭うと、優しく、優しく、私を抱きしめてくれた。
「リリアナ。俺と一緒に、あの町へ帰ろう。そして、これからは、俺の隣で、俺だけの司書になってくれないか」
「……はい。喜んで」
私たちは、どちらからともなく、唇を重ねた。
それは、たくさんの言葉よりも、ずっと雄弁に、私たちの心を伝えてくれる、甘くて優しい誓いのキスだった。
***
こうして、私の少し不思議な恋物語は、最高のハッピーエンドを迎えた。
追放された天才魔術師様は、もういない。
私の隣には今、世界で一番不器用で、世界で一番優しい、愛する人がいる。
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