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第3話 魔窟
しおりを挟むどれくらいそうしていただろうか。
所在がない私は注文していたコーヒーを飲み干し、それから仲が良いなと二人のやりとりを話し半分に聞いていた。
「ーーって九条さんごめんなさい!」
それに気づいた武内さんが慌てて謝り、気にしなくていいですよ、と笑顔で返す。
「とにかく、俺は受けないから。どうしてもって言うなら…」
悠月はそこで言葉を切り、不躾にこちらを見遣る。
(なんだろ?)
「お姉さんが家に来てくれたら考えるよ。素の俺を見てもまだインタビューしたいって言うなら、だけどね」
意味深な台詞を吐き、俺からは以上と言って彼は早々に立ち去った。
「本当ごめんなさい。まだまだワガママで、子供な面がありまして…」
「いえ。それで、その、私は彼の家にお邪魔しても大丈夫なんですか?」
一記者がいきなりそんなことをしてもいいのか。
疑問を武内さんに訊ねると途端に渋い顔になった。
「うーん、ダメではないんですけど…九条さんが大丈夫ですかね?」
なんとも煮え切らない反応にこちらは首をかしげるばかりだ。
「えっと、チャンスがあるならぜひ挑戦したいです!今回の仕事に命かけてますので」
それは何ら比喩ではなく、本音である。
どうやらその必死さは伝わったようで、彼の住所を教えてくれた上に、私が行く旨を連絡しておくと言ってくれた。
「ありがとうございます!」
「いえ、こんな事しか出来なくて逆に申し訳ないです。それで、その、もし悠月に何かされたら私に連絡下さい」
「?はい」
なぜそう言うのか理解は出来なかったが素直に頷く。
最初に交換した名刺に連絡先を書いて下さり、最後は申し訳なさそうな顔で去る武内さんを不思議に思いながら見送った。
さて、私は難攻不落な青年の家に突撃するとしますか!
(…何が待ち構えていても行くしかないよね)
手土産も必要だろうか、などと悩みながらカフェテリアを出て、真っ直ぐ高級高層マンションのあるエリアへ足を向けた。
教えて貰った住所は高校生が住むにはかなりリッチな所で、さらにそこに一人暮らしと聞いて驚きを隠せなかった。
(でも一宮くんのご両親も大物俳優と女優だったよね。それなら納得かも…)
あれこれ考えているとあっという間に目的の場所に到着する。
見上げれば首が痛くなるほどの高層マンション、その最上階に住んでいるらしい。
立派なエントランスを抜け、事前に武内さんが連絡してくれていたお陰で警備の人に怪しげな視線を送られることもなく、スムーズに部屋の前までやって来た。
(な、なんか緊張するぅ)
大きく深呼吸してチャイムを鳴らせば、どうぞと女性の声に案内されるままに中に入る。
シンプルな玄関を抜けて広いリビングに出るとーーその場の状況に私は目を見張った。
大きな皮のソファに悠々と座るのはテレビとの印象とはかけ離れた一宮悠月の姿で、その周りには数人の女性が侍っている。
さらに眼前の床には一人の少女が泣きじゃくりながら座り込んでおり、その子を庇うように眼鏡の青年が立ちはだかり悠月に対して怒っていた。
けれど、当の彼は聞く耳を持たないという感じで、まわりの女性に至っては何がおかしいのかずっと笑っている。
(……え?何この状況……)
どうやら私はとんでもない魔窟に迷い込んでしまったらしい。
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