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第1部 双子の恋愛感情
第1夜
しおりを挟む『南星高校の赤髪ヤンキーには手を出すな』
それはこの町に住む不良界の暗黙のルールだった。
手を出したら最後、再起不能にまで追いやられる、病院送りは当たり前、とまことしやかに囁かれていた。
けれどいつの時代も手を出すなと言われたものに対し、我慢できない輩はいるものだ。
仲間を集めチームを作り、そして無謀にも鬼に挑むのである。
一騎当千とまで謳われる赤髪の彼に。
当の本人にはその気がまったく無いが、着実にその悪名は轟いていた。
やがて密かにこの町のトップへと祭り上げられるのだが、それも彼自身が与り知るところではない。
そして今日も意図せず争いに巻き込まれるのだ。
「おら、どうしたよ?かかってきや……がっ!?」
安い挑発をする男の腹に、重たい蹴りを一撃与える。それだけで男は簡単にのびた。
残りは二人。
ギロリと睨めば「お、覚えておけ!」とお決まりのセリフを吐きながら逃げていく。
「さすがは彗。鮮やかな不良撃退劇だね」
その様子を陰ながらに見ていた彗の友人、もとい腐れ縁の諏訪部 蓮が軽口を叩きながら姿を現せる。
「お前はまた隠れていたのか」
「だって彗と違って俺、不良じゃないし」
「俺だってちげぇよ」
そんなお決まりのやり取りをしながら、今までいた裏通りから抜け出した。
桐生 彗。
さきほどのようによく不良に絡まれはするが、決して彼自身が不良という訳ではない。
ただ、185センチの長身と鋭いつり目が手伝って喧嘩を売られているだけだ。
……もしかしたらこの真っ赤に染めた髪のせいもあるかもしれないがーー。
と、彗は己の姿を省みる。
彗の姿は良くも悪くも目立つ。
鼻梁は高く顔は整っており黙っていればそれなりなのだが、性格的な問題なのか、売られた喧嘩は全て買ってしまうのだ。
そんなこんなで、自分から喧嘩を売ることはなくとも周囲からは「不良」と認識されていた。
「ところで、彗。今日ヒマなら遊ばない?」
今は放課後。特に予定もないし、まぁいいかと了承の頷きを返す。
「それで、何がしたいんだ?」
「うーん、じゃあとりあえずナンパしよ!」
「却下。それなら俺は帰る」
即座に切り捨て、蓮を置いて歩き出す。
すると彼は慌てたように小走りで追ってきた。
「待ってごめん、ごめん。彗はナンパとか嫌いだもんね」
「分かってるなら言うな!」
彗よりも1センチ高い身長に、耳には複数のピアス。肩まで伸ばした金髪は一つにまとめられてはいるが、見るからにチャラい。
そしてその見た目に反しない性格の蓮は、大の女好きだ。事あるごとにナンパをしては週一くらいのペースで彼女がかわる。
酷い時には一日で別れていたこともあった。
色ごとにあまり興味のない彗には理解しがたいが、それが蓮なのだと思い諦めている。
「……結局どうすんだ?」
「とりあえず彗の家に行っていい?ついでに夕飯も所望する!」
「お前は相変わらず図々しいな」
呆れ半分、諦め半分で俺は蓮を見遣る。
「まぁまぁ、良いではないか!」
カラッとした笑顔で彼は彗の肩を叩き、そして前を歩き出す。仕方ないなとため息を吐いてその後に続くのだった。
「たっだいまぁ~」
人の家だというのに我が物顔で蓮が中に入る。
「お前の家じゃねぇぞ」
「気にしない、気にしない」
慣れた足取りで蓮はリビングに向かい、そして直ぐに驚いたような声が響いた。
「あれ、爽いたんだ!」
「いらっしゃい、諏訪部くん」
蓮に続いてリビングに入ると、確かにソファの上には俺の双子の弟、桐生 爽がいた。
(珍しいな、爽が俺より早く帰るなんて滅多にないのに)
ついでにその隣には女顔負けの美少年が陣取っており、爽の腕を掴みぴったりとくっついている。
「彗も、お帰り」
爽は蓮に声をかけた時より幾分素っ気ない態度で兄に声をかけた。
「……ああ」
「ねぇ、爽くん。お兄さんもその友達も来ちゃったしさ、爽くんのお部屋に行きたいな」
と、ここで爽の隣に座る少年が甘い声と、これまた甘えた態度で訴える。
「邪魔されたくないし、いいでしょ?」
ちらり、よりはギラリという効果音が似合う瞳でこちらを睨みつつ、爽には甘い笑顔を向ける高等技術をご丁寧に披露してくれる。
(俺らが邪魔ってか。まったくどいつもこいつも我が物顔でいやがる)
舌打ちをしそうになるが、いつもの事だと彗は自分に言い聞かせた。
いつだって邪魔者扱いされるのは己の方だと痛いほどに理解していたからだ。
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