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第1部 双子の恋愛感情
第3夜
しおりを挟むその後、蓮とはリビングに置いてあるテレビゲームで対戦をし、時計の針が午後七時半を指した頃ようやく爽とその連れが下りてきた。
連れの美少年は頬を赤らめ、生まれたての仔鹿のように力が入らないのか、爽に支えられていた。
(ったく、どんだけヤんだよ)
毎回、毎回、呆れを通り越して尊敬する。
「ごめんね。もう上に行ってもいいよ。僕はこの子を送ってくるから」
リビングの入り口でそう声をかけ、相変わらずの爽やか笑顔をみせる爽。
今まで激しい運動をしていた奴には到底見えない振る舞いだったが、どれだけ激しかったかは美少年を見れば一目瞭然だった。
「了解!」
俺の代わりに蓮が返事をする。
「ほら、大丈夫?ゆっくり行こうか」
しばらくすると二人は出て行き、家には俺と蓮だけが残された。
「お前、今日は何時に帰るんだ?」
「そうだね。夕飯食べたら帰ろうかな」
(飯をたかる気は満々かよっ!)
蓮の家は直ぐ隣だ。
母子家庭でしかも親の帰りは遅く、比較的自由な蓮は女子と遊ばない日はうちでご飯を食べる習慣になっている。
「仕方ねぇな。今日の夕飯はどうすっか……牛乳に卵、野菜もほとんどないのか」
これは買い出しに行かないとな、と冷蔵庫を確認しながら考えていると、
「彗はホント見た目に似合わずしっかりしてるよね。家事が得意な男子とか貴重だし、しかもそれが不良男子とかレアすぎでしょ」
笑いを含んだ声音で蓮が言い、俺の背中へともたれかかってくる。
「蓮、重い。あと、俺は不良じゃねぇ」
「はいはい。それで買い出しに行くの?俺も手伝うよ」
「そうだな。近くの店にでも行くか」
そうと決まれば行動あるのみ。
素早く買う物リストを頭の中で整理し、さっそく蓮を連れ立って外に出た。
その数分後。
(こんなことなら帰りに買い物を済ましておくんだったな)
今さら後悔しても遅い。
ここから店までは徒歩五分くらいだ。辺りはすでに暗いが大丈夫だろう、と踏んでいた俺は甘かった。眩い看板が見え始めた所で十人ほどの男グレープに囲まれたのだ。
「……俺に何か用か?」
静かに問う。
隣にいる蓮は、またか、と肩をすくめていた。
「忘れたとは言わせねーぞ!さっきの借りを返してやる」
定番のセリフを吐いた男はなるほど、見覚えがあった。ついさっき、学校からの帰り道で返り討ちにした奴だ。
(こいつら暇人かよ)
「言っとくが、あれは正当防衛だ。勝手に逆恨みすんな」
「何だとっ!?」
「てめぇがガンつけて来たんだろうがっ!!」
そう言って今まで絡まれてきた彗にとっては実に不本意である。
「誰がてめぇらの顔を睨むかよ。むしろ視界にすら入れたくないわ」
「ちょっと、彗!もう少し言い方を考えよう?それじゃあ喧嘩売っているもんだよ」
慌てて蓮が俺を窘める。
「そうか?じゃあ、誰がてめぇらの顔をわざわざ見るか。俺はそんな無駄な事をした覚えはない」
「彗ぃぃ!!」
言い直した俺に対し、蓮が悲痛の叫びをあげる。周りの男共もピクリと反応を示し、各々「上等だ、ゴラァ!!」と喧嘩腰だ。
何がいけなかったと言うのだろうか。あいにくとあれが精一杯の無実を伝えた言葉だった。
本音だった、とも言うが。
ここまできては仕方がない。
店が閉まる前にさっさと片付けるか。
腹をくくり、俺も戦闘態勢に入った。相手が武器を持っていない事が唯一の救いだ。
「やっちまえ!!」
リーダーらしき人物の掛け声と共に一斉に俺に、俺たちに殴りかかってくる。
「ちょっと!俺は無関係だってば!」
蓮が叫ぶが、相手は聞く耳を持たない。毎度の如く彼も巻き込まれていた。
数の上では圧倒的に不利ではあったが、統制の取れてない動きに緩い攻撃。彗にとっては敵ではなかった。
片っ端から華麗に気絶させていく。
「ぐぇっ……!」
「……おっふ」
「うぉぉぉーー…っ!?」
ある者は手刀をくらい、ある者は強い蹴りを貰い、またある者は背負い投げをされる。
ものの数分で事態は解決した。
その後、途中から姿を消していた蓮が、口笛を吹きながら物陰から現れた。
「惚れ惚れするお手並みでした。さっすが彗!」
「お前こそ、呆れるくらいの逃げ足の速さだな」
「いやぁ、俺はこうゆーの苦手だから。それに、これくらいなら彗だけで十分かなって」
ぬけぬけと言ってみせるが、元々蓮は巻き込まれただけだ。無事ならいいかと思い直し、男共を放置して目的地に向かう。
昼夜関係なく喧嘩を売られる、残念ながらそれが彗の日常の一部だった。
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