【BL】クレッシェンド

花夜

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第1部 双子の恋愛感情

第18夜 蓮side

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 おかしい。さっきから彗の姿が見えないのだ。今は体育の時間。
 彗がもっとも好きな授業で、不良と言われていようが体育だけは真面目に受けていた。

 そんな彗の姿が、授業が始まってそろそろ後半戦というのに見えない。
 どうかしたのだろうか?
 俺の不安を見透かしたように秋斗は、苦笑しながら俺の肩を叩いた。

「スイちゃんなら大丈夫だよ。爽くんと大事な話があるって言っていたから予定より時間がかかっているだけかも」

「それにしたって、爽が授業サボるのも珍しいし話しなら家でも出来るだろ」

 最近の彗に対する爽の態度も気になる。

 彗は気にするなと言っていたが、爽の爆弾発言以来、俺や秋斗との行動時間はめっきり減っていた。

 その事についてはまだ良い。兄弟で仲がいいのは好ましいことだ。しかし、それにも限度があるだろう。

(彗が素直に従っているのも気になるしな)

 あの爽の事だ。
 何か裏があるのではないかと、幼い頃から二人を見ていた俺としては疑ってしまう。

「レンちゃん?」

「わりぃ、秋斗。俺やっぱ気になるから、早めに戻るわ」

 授業終了まで残り十分。これくらいならサボっても問題はないだろう。

「まったく、しょうがないな。先生には上手く言っておくよ」

 困ったように笑いながらも秋斗は許可を出し、蓮は「サンキュ」とその場を離れた。

 急ぎ足で教室に向かい、中を確認せずにそのドアを開ける。
 すると、酷く驚いた様子で中に居た人物がこちらを振り返った。

「……なんだ、蓮か」

「彗が体育をサボるなんて珍しいと思って様子を見にきたんだよ。と言うか爽は?」

 確か秋斗の話では彗と爽は一緒のはずだ。
 俺が首を傾げると、彗はあからさまに顔をしかめ「知らねぇ」と応えた。

(……これは何かあったな)

 即座に察知し、制服へと着替える彗の姿を眺める。すると「あれ?」と疑問が湧いてくる。

 丁度、彗がその上半身を露わにしており、その肌に目立つアトがあったのだ。先ほど着替える時には無かった。
 真っ赤な痕はそこらかしこに散っており、こんなに目立つなら直ぐに気づく。

(……爽とナニかあったのか…?)

 考えたくは無かったが、その可能性が一番高い。

「彗。お前、爽とナニしてたんだ?」

 俺の何気ない爆弾発言に彗は一瞬、動揺をあらわにした。が、「何言ってんだ」と否定をしてみせる。

 あいにく、俺はその手の事には勘がいい。
 彗が嘘を吐いているのくらいは直ぐに解ったーーついでに彗の相手が爽だという事も。

「ふーん」

 意味ありげに鼻をならせば、彼は居心地悪そうに「何だよ」と叫ぶ。
 その可愛くない反応に俺は少し困らせてやろうと悪戯心が芽生えた。

「ねぇ、彗」

「だから何だ」

 俺の煮え切らない態度が気に入らないのか、脱いだ体操着を丁寧に畳みながら視線を寄越す。

「ココにあるアトはなーんだ?」

「は?」

「だから、ココだよ」

 そう言って制服から覗く首筋を指差した。
 ボタンを上まで閉めなければ隠れない、際どい所に例の痕ーーキスマークが一つ。

 スマホの鏡機能でソレを確認した彗は面白いほどに顔を赤く染め、一人で恥ずかしがったかと思えば次は怒りを見せた。

「こ、これはアレだ、その…虫刺され!だから気にするなっ」

 説得力無いよ、と言いかけたが、さすがに可哀想になって「そっか」と納得したフリをする。

 恋愛に奥手な彗。俺がおふざけで首にキスした時も本気で怒っていた。その彗に大量のキスマーク。

 今すぐに問い質したい気持ちに駆られたがそこは遠慮する。俺は大人だからな、と自分に言い聞かせて。

「それで、次の授業には出るのか?」

「いや……ダルいからサボるわ」

 彗はため息を吐き、腰をさする。
 その姿がやけに色っぽく見えて焦った。

(……さっきから俺はナニを考えているんだ?我ながら思考回路がアヤしいだろ)

 即座に反省してはその想いを打ち消すように彗に近づき、いつものように気軽に肩を抱く。

「俺も付き合うぜ」

「いや、一人で……ンっ」

 瞬間、彗の口から信じられないほど艶っぽい声が漏れた。
 慌てて、口を押さえ「びっくりするだろ!いきなり近づくなっ」と俺に当たる。
 しかし、それよりも彗の声が気になって仕方が無かった。

(ヤベェ…うっかり勃ちそうだった)

 下品な考えをこのピュアな幼なじみに知られる訳にはいかない。理性をフルに活動させる。

「彗ったら、エッチな声出しちゃってレンちゃん恥ずかしい」

 わざとらしくおちゃらけてみせれば、少しホッとした様子で眉を吊り上げる。

「うるせぇ。今のは幻聴だ、忘れろ」

「えぇー、可愛いのに」

「殴られたいか?」

 絶対零度の視線を向けられれば素直に謝るしかない。

「とりあえず、俺はサボるから。付いて来んじゃねぇぞ」

 彗は俺に釘を刺すと教室を出て行ってしまった。残された俺は独り悶々とする。

(今日の俺、確実にオカシイ)


 ここにも嵐の予感である。
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