商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男

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【セザール編】

第3話 二年という歳月

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 王立学院――その名が示す通り、カロスタークの国は王政を敷いている。
 国名は『血塗られた武器と腕(サンアルムブラ)』王国。
 血の赤を下地に、白い槍の穂先が描かれた国旗が、武の歴史を物語っていた。

 侵略で国土を広げた過去。
 今は均衡の上に成り立つ平和。
 だが、周辺国の視線は鋭く、『西大陸の火薬庫』と呼ばれるのも無理はない。

 そんな国が、次代の人材育成のために設立したのが王立学院だ。
 貴族、富裕商家、あるいは特別な才能を持つ者だけが通える全寮制の学び舎。
 敷地は広大で、都市と呼んでも差し支えない。
 自治は学生に任され、統治の訓練の場でもある。

 その学院都市を、カロスタークは速足で歩いていた。
 誰にも会いたくなかった。
 特に、同年代の生徒には。

 なのに――

「おやおや? 歩いてるじゃない」

 幽霊でも見たかのような声に、思わず頭を抱える。

 クレール・ド・トルネソル。
 栗色の猫っ毛に、陽光のような緑の瞳。
 伯爵家の令嬢で、昔馴染みの友人だ。
 父の商売相手の娘でもあり、なぜか昔からオレを弟扱いしてくる。

「ちょ、やめてやれよ!」

 慌てて止めに入るのは、ギョーム・ド・オセアメール。
 南の海で名を馳せた海賊の末裔らしい、子爵家の次男。
 筋骨隆々の体格に似合わず、性格は穏やかすぎる。

「なんでー?」

 クレールの無邪気な問いに、ギョームは絶句。
 オレは頭を抱えたまま、ため息をついた。

 変わらない。
 この二人は、何も変わらない。

「どうかしたのか?」

「別にー」

 くすくす笑うクレールに、オレとギョームは首を傾げる。
 その様子がツボに入ったのか、クレールは声を上げて笑った。

 そのまま喫茶店に連れ込まれる。
 学院内にある学生経営の店。
 注文を取りに来た女子生徒は、オレの顔を見るなり唇を歪めた。

 噴き出しそうになったのを、ぎりぎりで堪えたらしい。
 拳を膝に置き、震えを抑える。
 平静を装って、注文だけは済ませた。

「……大変だったよな。いろいろと」

 ギョームが気遣うように口を開く。
 クレールはパフェが待ちきれない様子で店内を見回していた。

「ああ。まぁな」

 気のない返事を返すと、クレールが顔を覗き込んでくる。

「なにか、企んでる?」

「ぶっ……!」

 冷茶を吹きかけそうになった。
 “占い師”と呼ばれることもある彼女の勘は、やっぱり鋭い。

「あー、やっぱりそうなんだ。なにする気?」

「……言うと思うか?」

「思わないよ。ただね。なにをするにしても、タークは私の友達だよって言っときたいだけ」

 ふざけた声色が、急に真剣なものに変わる。
 ギョームも、静かに頷いた。

 ――チッ。

 舌打ちが、心の中で響く。
 なのに、視界が滲んだ。

「……ありがとう」

 それしか、言えなかった。

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