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【フィオーレ編】
第4話 魚心あれば水心 ①
しおりを挟むリューイン州の発展が加速している。
北王国関係者の流入が止まらないのだ。
身一つで駆けつけてくるというわけではない。
祖国が滅びて9年。
王国内で成功している者も多いらしい。
本店はそのままに、こちらへ支店を作って映って来たなんて話をよく聞くようになっていた。
急な発展は治安が不安になるが、『ロチェスとその手下たち』がいい感じに抑えを利かせてくれている。
「しっかりしろ! なんだ? そのへっぴり腰は?」
「ひぃ、しぬぅぅぅぅぅぅぅ」
手下の一人にチンピラを抑えさせようとしているようだが、ひょろひょろとした手下は押さえるというより縋りついているだけという体たらくで罵声を浴びていた。
まぁそれでもマシになったと言える。
前はチンピラに片手で振り回されていたからな。
「今、報せが来たんだけど・・・」
州内の巡視をしていたカロスタークの耳元に、セザールが口を寄せた。
「フィオーレ姫が?」
北王国の姫君が、再訪したという知らせだった。
以前は王都にいたから来やすかっただろうが、こんな端っこまで何の用があってきたのやら。
来訪の目的はわからないが、無視はできない。
予定を早めに切り上げて、カロスタークは領主館へと向かった。
領主館はこのところ改築が進められている。
非公式ながら、対帝国の軍事拠点となるのだ。
いつまでも『館』では格好がつかないからと、『城』にすべく手をかけている。
高い塀を巡らし、物見櫓を兼ねる塔や、兵を収容するための兵舎などが併設されていた。
その分、内装は武骨なものとなっている。
元からあった調度品などを全て運び出しているから殺風景とすら言えた。
とてもじゃないが、王族を招くことのできる状態じゃないな。
背中に汗を掻きながら、二階へと上がる。
城主の私室や重要なお客用の談話室は二階にあるのだ。
セザールがノックをして扉を開ける。
事前に先触れが来ているはずなので、形式的なものだ。
先方は待ち侘びているだろうし。
「お待たせしました」
部屋へ入ると、明らかに待ち受けていましたという姿勢のフィオーレが立っていた。
罵声が来る前にと、食い気味に謝罪して頭を下げた。
これで尖り具合が少しでも緩めばもうけもの。
カロスタークはそう願いながら、顔を上げた。
「え?」
カロスタークの目が見開かれた。
思わず二度見したほどの衝撃的な光景がある。
王家の血筋だけにフィオーレは上品な顔立ちの美人だ。
目鼻立ちが整っていて、理知的な雰囲気を漂わせている。
それは以前と違わない。
なのだが——。
服装がぶっ飛んでいた。
赤いドレスの襟元が深く切れ込んでいる。
へそまで繋がる勢いで、胸元も大胆にカットされていた。
乳房の谷間も——なんなら乳首以外は全部——露出している。
知性と幼さを残した風貌と、大胆に見せつけてくる女の体付き。
アンバランスなのに妙にしっくりくる色気があった。
「お久しぶりね」
フィオーレはゆっくりと歩み寄り、自分からカロスタークの手を握った。
今日は騎士の挨拶を望まないらしい。
「お久しぶりです」
望まれてはいないようだが、この服装でこれをやられては無様に立ち尽くすことはできない。
上級貴族の沽券にかかわる。
握られた手をそっと持ち上げ、軽く腰を落として手に口付けを落とした。
ふと見上げると、フィオーレは満足そうにうっすらと笑みを浮かべている。
今日は機嫌がいいようだ。
朱の入った頬は愛らしいし、キラキラ輝く瞳も魅力的だった。
天使の微笑が降ってくる。
「北王国ゆかりの商人がディナーパーティーを企画しているんですって。招待されているのだけど・・・エスコートしてくださる?」
その体勢のまま、そんな言葉を掛けられた。
祖国のすぐ近くの土地に気軽に来れるようになった。
そのことが嬉しいらしく、北王国出身の人々がリューイン州に流入していることは知っている。
集まってきた商人の誰かが、ここぞと王族を招待したようだ。
「それは大変名誉なことですね」
事情は理解できる。
北王国が滅びたとき、王族の正統派や大貴族は粛清の嵐に見舞われた。
上流階級は壊滅的と聞いているほどだ。
つまり、招待に応じるのはいいが、姫の相手を務める者がいないのだ。
姫の方から立ち位置を下げるしかない。
その点、カロスタークは辺境伯だ。
ギリギリではあるが、王族の権威を下げないで済むのである。
それで、このドレスなのか。
合点がいった。
このままパーティー会場へ行ける服装というわけだ。
「このサプライズは、先日の件に対する仕返し、ですか?」
パーティーへの誘いが当日と言うのは、そういう意味だとしか思えない。
「あら? 仕返しされるようなことをした覚えでもありますの?」
正解、と言う顔ではぐらかしてくる。
わかりやすいのはありがたいが、対応には気が抜けない。
「辺境伯ともあろうお方が、パーティーの用意もないとは申しませんでしょう?」
「もちろんですとも」
曖昧に微笑みながら、リュゼに社交界用の服を用意するよう合図をした。
アイコンタクト一つで理解してくれるからありがたい。
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