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(R18)ファタール用改稿版
第4話 体と心の距離
しおりを挟むシレーネを抱き上げた瞬間、
アモールは思わず息を呑んだ。
体は確実に大人の女だ。
大人のはずなのに、腕の中の彼女は、どこか幼さを残した表情でこちらを見上げていた。
けれど、その瞳の奥には、無垢さとは別の、言葉にできない艶が宿っていた。
『・・・・・・なんだよ、その目』、思わず呟きそうになった。
胸の奥がざわつく。
戦いの最中でも感じたことのない種類のざわめき。
彼女は怯えているはずなのに、その瞳はどこか熱を帯びていて——
アモールの理性を、静かに揺らした。
「しっかり掴まってろよ」
声が少しだけ低くなる。
自分でも気づかないほどに。
腕の中の少女は軽く、温かく、
その温もりが、森の冷気よりも強くアモールの意識を奪った。
無意識に力が強くなる。
彼女を支える腕の位置が妙に気になった。
『危ないな』
そう思った。
雪影よりも、
この少女の瞳のほうがよほど危険だと。
山小屋の扉が閉まると、外の冷気が嘘のように消えた。
薪の匂いと、わずかな暖かさが室内に満ちている。
アモールはシレーネをそっと床に降ろした。
「ほら、座れよ。まだ足、震えてるだろ」
「……ありがとう」
シレーネは素直に頷き、アモールのすぐ隣に腰を下ろした。
距離は、触れれば肩が触れるほど近い。
アモールは一瞬、固まった。
(……近い)
普通なら、初対面の男の隣にこんな距離で座らない。
まして、森で命を落としかけた直後ならなおさらだ。
(いや、怖かったから…か?)
恐怖から、人に寄り添いたいというのならわかる。
だけど、どうもそうではないらしい。
シレーネはまるで、この距離を気にしていない。
むしろ、安心したようにアモールのほうへ身体を寄せてくる。
「……寒いね」
ぽつりと呟く声は、無垢そのものだった。
けれど、その仕草はどこか『女』の柔らかさを帯びていた。
アモールの喉が、かすかに鳴った。
(なんだよ……その顔)
怯えているわけでも、媚びているわけでもない。
ただ、無意識にこちらを見上げてくる。
まだ十代だと思うのに、幼さと艶っぽさが同居した、不思議な目。
その視線に、アモールの胸の奥がざわついた。
「……おまえ、怖くなかったのか?」
「怖かったよ。でも……あなたが来てくれたから」
そう言って微笑む。
その笑みが、妙に近い。
アモールは思わず視線を逸らした。
(やばいな……)
雪影の群れに囲まれたときより、
この距離のほうがよほど危険だと感じた。
彼女は無自覚だ。
この距離がどう見えるかも、
どんな意味を持つかも、
まるで理解していない。
だからこそ、アモールの理性が揺れた。
「……少し離れたほうがいい」
「え? どうして?」
シレーネは首を傾げる。
その仕草がまた、アモールの胸をざわつかせた。
(ほんと、危ない女だな……)
アモールは深く息を吸い、
自分の中に生まれた“何か”を押し込めた。
「……いいから。離れろって」
声が少しだけ低くなる。
自分でも抑えきれていないのがわかった。
シレーネは不思議そうにしながらも、
ほんの少しだけ距離を空けた。
けれど、そのわずかな距離でも、
アモールの胸のざわめきは消えなかった。
距離は離れた。
だが、別の何かが忍び寄る気配を感じていた。
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