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(R18)ファタール用改稿版
第5話 揺れる心、そして体
しおりを挟むアモールから少し離れた場所に座り直したはずなのに、
その距離は妙に遠く感じた。
ほんの腕一本ぶん。
けれど、胸の奥がひどく寒くなる。
(……どうして?)
祈りのときは、もっと近かった。
肌を合わせるのが当然の行為。
村の男たちとも、もっと近かった。
普通に歩いていても誰かに抱きしめられる。
部屋に二人になれば、『祈り』が行われる。
距離を取られることなんて、ほとんどなかった。
だからこそ、アモールがわざわざ距離を置いた理由がわからなかった。
「……あの、アモール」
「ん?」
「どうして……離れたほうがいいの?」
アモールは一瞬、言葉に詰まった。
その沈黙が、逆に胸をざわつかせる。
「……理由なんて、ないよ。ただ……」
言いかけて、彼は視線をそらした。
その横顔が、どこか落ち着かない。
シレーネは、胸の奥がきゅっと縮まるのを感じた。
(嫌われた……?)
そんな不安が、静かに広がる。
概念としては知っているが、男性から嫌われたことなんてない。
どうしたらいいかわからない。
不安を埋めるように、気づけば身体が少しずつアモールのほうへ寄っていた。
ほんのわずか。
けれど、確かに近づいている。
◇
アモールは気づいた。
そして、息を呑んだ。
(……また近づいてきてる)
彼女は無自覚だ。
その距離がどう見えるかも、
どんな意味を持つかも、
まるで理解していない。
「……シレーネ」
「なに?」
見上げてくる瞳は、無垢そのものだった。
けれど、その奥にある柔らかい光が、
アモールの胸をざわつかせる。
「近いって……言っただろ」
「でも……寒いから」
その言葉は、ただの事実のはずだった。
けれど、アモールには違う意味に聞こえた。
(……誘ってるみたいじゃねえか)
そんなつもりはないとわかっている。
距離感と視線の妙な熱っぽさ以外は普通。
発情しているわけではない。
わかっているのに、
胸の奥が妙に熱くなる。
シレーネはさらに少しだけ寄った。
肩が触れるか触れないかの距離。
その瞬間、胸の奥がふわりと浮いた。
◇
(……なに、これ)
初めて感じる感覚。
祈りのときには決して生まれなかった、胸の奥が温かくなるような、
息が浅くなるような、名前のない『鼓動』。
アモールはその変化に気づいた。
シレーネの表情が、
ほんの少しだけ柔らかくなったことに。
(……危ない)
そう思ったのに、
視線を逸らせなかった。
シレーネの瞳は、無垢で、なのにどこか艶を帯びていて、アモールの理性を静かに揺らした。
「……シレーネ」
「なに?」
「……ほんと、危ない女だな」
その言葉の意味を、シレーネは理解できなかった。
けれど、胸の奥がまたきゅっと縮まり、
同時に温かくなる。
「少し離れろって」
アモールの声が少し低くなる。
その低さが、胸の奥をふわりと揺らした。
(……なに、これ)
初めて感じる感覚。
祈りのときには決して生まれなかった、
胸の奥が温かくなるような、
息が浅くなるような、『気持ちの揺れ』。
もっと近づきたい。
もっとそばにいたい。
その気持ちが、静かに、確かに高まっていく。
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