風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第18話 氷の道

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 翌朝。
 太陽が東の空に顔を出す頃——シレーネ、アモール、マルコの三人は、半島の先端に立っていた。

 目の前には、遥か遠くの黒い大陸へと続く、白い氷の道が横たわっている。
 氷の道は、まるで空に浮かぶ橋のようだった。
 白い光が、足元から空へと吸い込まれていく。

 三人の足元には、無数の氷の破片が重なり合い、白く輝く道を形作っていた。
 踏みしめるたびに、パキッ、パキッと乾いた音が響く。
 その音が、どこまでも静まり返った氷原に吸い込まれていく。

「お兄さんたちが何を探してるのか知らないけど、遺跡に行くつもりなら・・・無駄足になるかもよ」

 先頭を歩きながら、マルコが顔だけ後ろに向けて言った。

「遺跡があるの!?」

 シレーネとアモールが同時に叫ぶ。

「うん。母さんが見たんだって。氷の海を渡って、大陸に足を踏み入れたとき——石造りの街を見つけたって。でも、厚い氷に囲まれてて、中には入れなかったらしい。氷を掘る道具を持ってなかったからね」

「その場所、わかってるの?」

 興奮気味にシレーネが尋ねる。

「もちろん。だから僕が案内してるんだよ」

 マルコは、何を今さらという顔で答える。
 そういえば、今朝マルコが用意した荷物の中に、ツルハシとスコップがあった。
 それが『探検』のための装備だと、気づくべきだったのだ。

 ◇
 冷えきった風が、遮るもののない氷の道を吹き抜ける。
 空気中の水分はほとんどが氷の粒となり、顔に叩きつけられる。
 潮の花も舞い、三人の服も顔も、塩と霜にまみれて白く染まっていく。

 誰も言葉を発さない。
 この状況で話すことは、体力の無駄遣いだからだ。

 そして——その判断が正しかったことが、すぐに証明される。

 風が止んだ。  
 さっきまで吹き荒れていた冷気が、まるで何かを恐れて息を潜めたように、ぴたりと止まった。
 シレーネが思わず足を止める。

「・・・なんか、変じゃない?

 アモールが、広がる氷の道をゆっくりと見渡す。
 彼も感じていた。

 ・・・何かがおかしい。

 漠然とした違和感。
 背筋に冷たいものが走る。

「これは・・・殺気?」

 明確な敵意。
 だが、どこから?

「まさか・・・」

 アモールは自分の疑念を否定しようとする。
 けれど、狩りの旅で培った第六感が告げていた。

 ——殺気は、足元の氷の中から。

 その足元を気にしているのが、もう一人。
 マルコが立ち止まり、氷の地面を見つめている。

「・・・変だな。真ん中なのに・・・薄い? ・・・」

 厚みのバランスがおかしいと、首を傾げている。

「マルコ、この辺りで人を襲う生き物って、何か心当たりあるか?」

「うーん・・・雪影、氷走り、氷女グモくらいかな」

 アモールの記憶にも、それ以上はなかった。
 でも——この殺気は、明らかに異常だった。

「その程度の奴が、これほどの殺気を放つとは思えねぇが・・・」

 バキッ、と氷が割れる音が響いた。
 足元がわずかに揺れ、冷気が一層濃くなる。

 足元から、かすかな振動が伝わってきた。
 まるで、何かが目覚める音のように。

「ッ! シレーネ、マルコ! 気をつけろ、来るぞ!!」

 アモールの叫びと同時に——氷の道から、何かが飛び出した。

 それは、見たこともない異形の怪物だった。

 足はなく、蛇のような鱗に覆われた下半身。
 剥き出しの脳のような頭部から、ギョロリと飛び出した一つ目。
 長く細い腕の先には、刃のような鈎爪。

 この世のものとは思えない姿。

 怪物の鈎爪が、アモールに向かって伸びる。

 アモールは反射的に後方へ跳び、空振りした怪物の右腕に斬りかかった。
 バランスを崩した怪物に、容赦なく斬撃を浴びせる。
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