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(R18)ファタール用改稿版
第46話 屈しない心
しおりを挟む「絶対に……屈しない!」
シレーネは震える声で叫んだ。
涙が頬を伝っても、心だけは折れまいと必死に耐えていた。
ダルトンは歪んだ笑みを浮かべながら姿を消す。
さらに恐ろしい存在を呼びに行ったのだろう。
残されたシレーネは、
初めて心の底から助けを求めた。
「……アモール……助けて……」
その声は、静寂の中に吸い込まれるように響いた。
そして——。
「ハァ、ハァ……」
アモールは怒りと焦りに満ちた表情で駆け込んできた。
目の前の光景に、言葉を失う。
怪物はシレーネの身体に絡みつき、
精神を侵食するような冷たい魔力を流し込んでいた。
「てめぇだけは……絶対に許さねぇ!」
怒りに燃える瞳でダルトンを睨みつける。
その背後には、本人も知らぬまま、真紅のオーラが立ち昇っていた。
だがその怒りは、ダルトンへの憎悪だけではなかった。
(……俺は……また守れなかったのか……)
胸の奥で、自分自身への怒りが燃え上がっていた。
「あなたの怒りはもっともです。ですが、わたくしを殺す前に少し話を聞いていただいた方がよろしいかと。さもないと、あなたの大切なものを……あなた自身の手で壊してしまうことになりますよ」
「時間稼ぎのつもりか? そんな手には乗らねぇ!」
叫びながらも、アモールは悟っていた。
ダルトンの言葉がただのハッタリではないことを。
「今、あの娘に取り付いているのは、わたくしの最高傑作でしてね。
攻撃を受けると反応し、獲物の『精神』を喰らうように仕込んであるのです。
……それでも、よろしいのですか?」
シレーネは怪物の中心に囚われていた。
無数の触手が彼女の精神を縛り、意識を曇らせている。
「アモ……た、助けて……」
その声は、苦しみと希望が入り混じっていた。
「……汚ねぇ野郎だな。てめぇは人間のクズだ!」
「誉め言葉として受け取っておきましょう。で、その『クズ』に対して、あなたはどう対処するおつもりですかな?」
アモールは怒りに震えながらも動けなかった。
シレーネの心を危険にさらすわけにはいかない。
(……俺が……弱いから……)
胸の奥で、自分への怒りがさらに燃え上がる。
「どうしました? 右手の剣は飾りですか? その剣、振る覚悟はあるのですか? さぁ、斬り殺すのです」
挑発を続けるダルトン。
それができないことを知っているからこそ、言葉を重ねる。
アモールは耐えていた。
怒りが、悔しさが、胸の奥で煮えたぎっていた。
「愚かな……しょせん闘牛は、闘牛士の引き立て役にしかなれぬということが理解できぬのでしょうか?」
ダルトンが左手を払うように動かすと、
その掌圧だけでアモールは吹き飛ばされた。
「アモール!」
シレーネが叫ぶ。
だがすぐに、その声は安堵に変わる。
石台の陰で、アモールは静かに笑みを浮かべていた。
「いいか、シレーネ。俺は今から奴に斬りかかる。
もし奴の言っていたことが本当なら、怪物の動きに変化が出るはずだ。
そのときは、声でも息遣いでもいいから、俺に知らせてくれ。
もちろん、奴には気づかれないようにな」
囁くような声に、シレーネは無言で頷く。
アモールは再びダルトンの前に立つ。
「諦めの悪いのだけが俺の欠点でね」
剣を握り直し、間合いを詰める。
「そんじゃ、いくぜ」
通常の半分の速度で斬りかかる。
慎重に、慎重に。
逆袈裟の一閃。
ダルトンは上体を反らして避ける。
その瞬間——
「っ……!」
苦悶の声が漏れた。
だがそれはダルトンではなく、シレーネだった。
怪物が反応し、精神への締め付けが強まったのだ。
「き、貴様ぁ! 自身の勝利のために女を見殺しにする気か!! 恥を知れっ、恥を!!」
怒りに満ちたダルトンの叫び。
だが、それはあまりにも身勝手な言葉だった。
「寝言は寝てから言え、ゲスめが!」
アモールは斬撃を続ける。
致命傷には至らないが、確実にダルトンを追い詰めていく。
「ヒッ……ヒィィィ!」
ダルトンは床を転がりながら逃げようとする。
だがアモールの剣は容赦なく追いかける。
「ぐっ……ぎゃぁぁ!!」
偶然にも剣先が足を貫いた。
「シレーネ!」
振り返ると——
無表情で、うつろな瞳のシレーネ。
怪物の精神侵食が限界に達していた。
「シ、シレーネ!!」
アモールの声が震える。
まさか、もう——。
だがその瞬間、シレーネの瞳にふっと生気が戻った。
「……今のに、怪物は反応しなかったわ」
かすれた声だったが、確かな意志があった。
アモールの脳内で、久しぶりに『考える』という機能が動き出す。
そして——
最後の一撃との『決定的な違い』に気づく。
「……これだっ!!」
狙ったのは、ダルトンの胸元の大きなメダル。
剣がそれを断ち切った瞬間、マントは宙に舞い、怪物へと吸い寄せられた。
「なっ……!」
怪物はシレーネを放り出し、マントに絡みつくようにしがみついた。
「シレーネ! 無事か!!」
アモールが駆け寄る。
シレーネはゆっくりと目を開けた。
その瞳には、恐怖の残滓と、確かな希望が宿っていた。
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