風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第49話 最後の階へ

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 スラインローゼは、アモールとサラサに向き直る。

「アモール、サラサ。直接、上の階へ飛びます。わたしのそばに来てください」

 二人が女神の身体に触れるほど近づいた瞬間——白いもやが三人を包み込み、彼らの姿は消えた。

「・・・いってらっしゃい」

 シレーネの静かな声が、もやの中へと溶けていった。

     ◇

 辺りが白く霞み、甘い酩酊感に包まれる。
 まるで眠りに落ちる直前のような感覚——

 目を閉じ、しばらくして開けると、そこはまったく別の空間だった。

 黒大理石の床、白大理石の壁。
 まるで王宮の一室のような豪華な造り。

 だが、今の彼らに装飾を眺める余裕はなかった。

「今のゼナの力は、わたしにも計り知れません。これで最後にする覚悟が必要です。一度ゼナの前に出れば、後戻りはできませんよ」

 スラインローゼの言葉に、アモールとサラサは静かに頷く。
 もはや、迷う時は終わった。行動の刻なのだ。

「正直に言って、わたしはゼナと再びまみえるのが怖い。敗れるかもしれないという恐怖ではなく……怖いのです。ゼナに敗れることではなく……彼が、わたしをどう見るのかが」

「……わかるよ。どんなに強くても、会いたくない相手っているもんだ・・・なんなら、俺たちだけで行こうか?」

 《記憶》の記憶を見たことで、ゼナの暴走の原因が少しだけ見えた気がするアモールが言う。

 スラインローゼの気持ちも、ゼナの気持ちも——少しずつ、理解し始めていた。

「ごめんなさい。別に弱気になったわけではないのです。ただ・・・」

「ただ、神族といえど感情を完璧に制御できるわけじゃない。悟ったような存在じゃないって言いたいんだろ? そんなこと、わかってるよ。シレーネとの再会を見てれば、自然とね」

 不完全だからこそ、哀しみも喜びもある。
 それこそが、命ある者の証なのかもしれない。

「話してる暇はなさそうです。魔気が急激に増加しています。このままでは、本当に世界が破滅してしまいますよ」

 サラサは震える指先を背中に隠し、いつものように微笑んだ。
 彼らがいるのは広めの広間。
 両開きの扉が一つあるだけで、他に目立ったものはない。

「ゼナは扉の向こうにいます。
 扉を開けたら、すぐに対魔障壁を張ります。

 サラサ、あなたにはわたしのサポートをお願いします。
 今のわたしでは、ゼナの力を受け止めることはできません」

「承知。やって見せましょう」

「アモール、あなたはわたしの側を離れないでください。
 魔術師は同時に二つの魔法を使えません。

 わたしが攻撃するには、障壁を解かなければならない。
 でも、それはゼナも同じ。

 機会を待ってください」

「それはいいけど・・・俺にはゼナを殺すことはできても、正気に戻すことなんかできやしませんよ」

 アモールは慌てて言う。
 ゼナと向き合うのは女神の役目。
 自分は援護するだけ——そう思っていたから。


「心配には及びません。サラサ、わたしの意識を封じた宝珠をアモールに渡してください」

 スラインローゼの言葉に、サラサが頷く。

「この宝珠は……わたしの『影』」
 宝珠の表面を撫で、スラインローゼはかすかに息を吐いた。

「わたしが神であった頃の、冷たく澄んだ意識だけが封じられています。今のわたしよりも、神らしい存在です」
 自嘲だろうか、苦し気な笑みを浮かべている。

「これをゼナにぶつければ、正気に戻すことはできなくても、暴走に歯止めをかけることは可能になるはずです」
 絶対に止める。
 止められるはずだ!

「そうなれば、後はどうとでもなります」
 それは、どこか、自分に言い聞かせる響きを持っていた。

 スラインローゼが先頭に立ち、扉を開け放つ。
 アモールとサラサは黙って後に続いた。

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