ユビラーテの夜に ~クレッシェンド・オブ・スターズ~

葉月奈津・男

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第1話:理想の7割と現実の100%

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 オレ、殿村真一。
 どこにでもいる、ただの中学生——だった。

 理想の7割くらいの彼女がいて、受験さえ乗り切れればOK。
 そんな小さな夢を抱いてた。
 親に言わせりゃ「夢が小さすぎる」らしいけど、オレにはちょうどよかったんだ。

 ……なのに。

「お、女の子って……なんなんだよ……」

 現実ってやつは、そんなささやかな夢すら、あっさりぶち壊してくる。

 理想って、夢とか願望とか、幻とか。
 そんなもんと同じカテゴリだ。
 見た目が100点でも、性格や趣味まで完璧なんて、まずない。
 大抵は幻滅して終わる。

 仮に、万が一、理想の女の子に出会えたとしても――付き合えるとは限らないし、付き合い続けられる保証もない。

「友達でいましょう」なんてテンプレ台詞でフラれるか、「飽きた」って一言でポイされるのがオチだ。

「何だと言われても困るが……我々男と対をなす生物で、触角や羽根は今のところ発見されていない……」

 勝手にオレの部屋に上がり込んで、自分で持ってきたマンガを読みふける。悪友がバカなことをほざいている。
 普段ならエルボーの一発でも食らわせるところだけど、今はそんな気分じゃない。

 怒鳴りたくもなったけど、口に出したら止まらなくなりそうで、ぐっとこらえた。

 オレ、ケンカってしたことない。
 頭に血がのぼると、何も見えなくなるタイプだから、できるだけ感情は表に出さないようにしてる。

「……ちょっと、頭冷やしてくる」

 このままじゃ一人になれない。
 だから、街に出ることにした。

 街ってさ、完全に一人にはなれないけど、『独り』にはなれる場所なんだよな。
 人の流れに紛れて、自分を見つめ直す。
 オレなりのリセット方法ってやつ。

「いってらっさ~い」

 嫌なことも、嫌なやつも、存在ごとスルーする。
 それがオレの平和主義。
 存在しないものに怒る必要なんて、ないだろ?


 時刻は、16時をちょっと過ぎたころ。
 街は春休みを満喫する中高生でごった返してた。
 天気は快晴、宿題ゼロ。
 浮かれるなってほうがムリってもんだ。

「もう二度と、女の子なんか好きにならなきゃいい」
 そんなふうに思えば、こんなツラい気持ちにならずにすむ。
 ――フラれるたびに、何度もそう思ってきた。
 シンプルで、わかりやすくて、でも実行はほぼムリ。
 何回目の決意だったかも忘れたけど、今度こそはって思って、家に戻ろうとした――その瞬間。

「キャッ!」

 反転したオレの体に、後ろから歩いてきた誰かがぶつかった。

「あっ、ごめん!」

 反射的に謝って、顔を上げたオレは――運命ってやつの悪ノリを、心の底から呪った。

 そこにいたのは、オレの『100%』だった。

 たぶんそのときのオレ、相当マヌケな顔してたと思う。
 口はポカン、目もまんまる。
 完全にフリーズ。

「……なにを、じろじろと見ておる」

 目の前の彼女がそう言った。
 形のいい唇が動いて、鈴みたいに澄んだ声が響く。
 その声すら、オレの理想を超えてた。
 鼓膜が震えて、胸までドクンと鳴った。

 なにか、なにか返さなきゃ――焦る気持ちに頭がついていかなくて、いろんなセリフが脳内をぐるぐる回る。
 このまま別れたら、もう二度と会えない。
 その焦りが、オレの体をガチガチに縛って、呼吸すらまともにできなかった。

「い、いい天気ですね」

 ……言った瞬間、後悔した。
 なんだそのセリフ。
 しかも、全然いい天気じゃない。
 空はどんより、今にも降りそうな雲。
 朝の天気予報、夕方からの降水確率40%だったぞ。

「おかしな奴じゃな。わたしはこのほ…国に来たのは初めてでな。もし、お主が暇であるなら案内を頼みたいのだが、どうじゃ?」

 ……え? 今、なんて言った?
 彼女のほうから、オレを誘ってる……?

「だめなのか?」

 一瞬だけ、彼女の顔が曇る。

「とんでもない! 暇です! 超ヒマです! どこでも案内します!ええ、あなたの行くところなら、銀河の果てまででも!」

 テンション上がりすぎて、口から出たセリフはどこかで聞いたようなやつだったけど、気持ちはガチだった。
 まさか本当に銀河の果てまで行くことになるなんて、このときのオレは知るよしもなかったけど。

「で、どこから案内しましょう?」

 正直、オレにはわからなかった。
 親戚の子以外の女の子と、ちゃんと出かけたことなんてないし。
 彼女ができても、デートする前にフラれてばっかだったし。

「どこでもよい。お主に任す。そうじゃな、若い男と女が行くような場所を案内してくれれば、それで良い」

 その言い方に、ちょっとだけ違和感を覚えた。
 でも、彼女の顔を見た瞬間、そんな違和感はどこかに吹っ飛んだ。
 この美しさの前じゃ、多少の不自然さなんて誤差だ。

 何をしたいのか、何を求めてるのか、正直よくわからなかったけど――とにかく、道の真ん中で立ち話を続けるわけにもいかない。

「じゃ、とりあえず……オレの行きつけの喫茶店、行こうか」

 本当は中学生が喫茶店なんてアウトなんだけど、そこは抜け道がある。
 その店、オレの叔父さんがマスターやってて、言い訳くらいはできるのだ。
「喫茶店じゃなくて、叔父の家に寄っただけです」ってね。

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