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第2話:甘いパフェと、甘くない違和感
しおりを挟む「おっ、シンちゃんもやるねぇ。どこでそんな可愛い子を口説き落としてきたんだい?」
店に入るなり、カウンターの奥から声が飛んできた。
マスター――オレの叔父さんだ。
この時間は客も少なくて、ヒマしてたんだろう。
「そんなんじゃないって」
苦笑いしながら、オレは彼女と一緒に一番奥のテーブルへ。
彼女はキョロキョロと店内を見回してて、ちょっと落ち着かない様子。
「なんにする?」
メニューを手渡しながら聞いてみた。
「なんじゃ?」
……え?
オレの聞き方が悪かったのか、それとも文化の違いか。
彼女、質問の意味がわかってないっぽい。
「えっと、つまりさ。飲み物とか食べ物、何がいい?ってこと」
ポンッ!
彼女は手を打って、したり顔。
「なるほど、ここは食事をする場所だったのだな。そうか、そうか」
何度もうなずく彼女。
……やっぱり、ちょっと普通じゃない。
世間知らずっていうか、どこかズレてる。
お嬢様っぽいけど、それだけじゃない気がする。
「わたしは、案内をすべてお主に任せておる。これも、お主に委ねよう」
そう言われて、オレは財布の中身を頭の中でざっと確認。
で、オーダーを取りに来たバイトのウェイトレスに言った。
「特大チョコレートパフェ、ふたつください」
この店の名物。
ちょっと奮発だけど、まあいいか。
この特大チョコパフェは、オレの大好物でもある。
甘党にはたまらない一品だ。
注文してすぐ、パフェが運ばれてきた。
たぶんマスター、オレが何を頼むか最初からわかってたんだろうな。
「甘い!」
オレの食べ方をじーっと観察してた彼女が、自分でもひと口食べた瞬間、小さく叫んだ。
それは、驚きと感動の入り混じった声だった。
隣の席のカップルが、くすっと笑う。
「舌触りはシャリムに似ておるが、この甘さは比較にならぬ」
「口に合わなかった?」
「いや。わたしの国には、これほど甘いものはないのでな。ただ驚いただけじゃ。……このほかにも、甘いものはあるのか?」
今どき、ここまで甘さに反応する人も珍しい。
でも、それはオレが日本でぬくぬく暮らしてるから思うことなんだろう。
世界には、砂糖すら貴重な場所だってある。
「う、うん。甘いものってだけなら、数えきれないくらいあるよ」
「そうか……ここは、良いところだな」
彼女はそう言って、もうひと口パフェをすくった。
その笑顔が、なんだかやけにまぶしく見えた。
「そういえばさ、名前……まだ聞いてなかったよね」
オレがそう言うと、彼女はスプーンを止めて、ちょっとだけ考えるような顔をした。
「名か……わたしは、アミルナという」
「アミルナ……なんか、響きがきれいだな。意味とか、あるの?」
「『夜明けの風』という意味じゃ。わたしの国の言葉でな」
「へぇ……カッコいい。オレは殿村真一。シンって呼んでくれていいよ」
「では、シン。よろしく頼むぞ」
名前を呼ばれただけなのに、なんか胸がドキッとした。
その声が、またやたらと心地いいんだよな。
「それにしても、甘いものって、いいよね。なんか、幸せになるっていうか」
「『幸せ』……か。わたしの国では、食事はただの栄養補給じゃ。味を楽しむという習慣は、あまりない」
「マジで? じゃあ、こういうの食べるときって、どんな感じ?」
アミルナは少し考えてから、もうひと口パフェをすくって、ゆっくり口に運んだ。
「……心が、ふわっとする。あたたかくなる。……これが、『幸せ』か?」
「うん、それたぶん『美味しい』ってやつだよ」
「『美味しい』……良い言葉じゃな」
アミルナはそう言って、ふわっと笑った。
その笑顔が、パフェより甘くて、オレはまたドキッとした。
アミルナのつぶらな瞳が、ふっと細められる。
なにかを思い出すような、遠くを見るような表情だった。
……けど、それも一瞬だった。
彼女の視線が窓の外に向いた瞬間、顔がピクリと引きつった。
「しまった。もう嗅ぎつけてきおったか……」
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