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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第3話 そして今 ~踏まれる者の現在地~
しおりを挟むそして今、全校生徒合同のレイド戦が始まっている。
全校生266人総出で、最深部を目指していた。
「これ、絶対ふざけてるよね!?」
憤慨した様子の女子が、何かを放り投げた。
「なんだったの?」
近くにいた他の女子が確認した。
「ゴミよ。ゴミ!」
「内容は?」
返答も投げやりな相手に、再度確認の問いがぶつけられた。
ダンジョン内でのことだ。
所持しているモノは『外』から持ってきた物か、『中』で手に入れたモノ。
普通に手に入る日用品か、モンスターを倒して得られるドロップアイテムもしくは宝箱から出たモノとなる。
『外』から持ち込んだもので憤慨はしないだろうから、たぶん『中』で手に入れたモノ。
ならば、投げた女子には役に立たなくても、別の者には有用かもしれない。
たとえば、憤慨女子が剣士だとして、魔職用のステッキを手に入れたということならどうか?
パーティメンバーも近接職ばかりだったら「いらない」となりえる。
この場合、確認しようとしている女子が魔職であれば使えるモノだ。
ゴミではない。
投げる——棄てる——のならよこせとなる。
「『虫傘』ですって。虫除けの傘よ!」
バカにしてるわ! と地団太を踏んでいる。
もっといいものが入っていると思ったのに肩透かしだったのだ。
「ふーん」
確認女子も、興味を失くしたようだ。
整理途中のドロップアイテムから、不要なものを選び出しては投げる作業に戻った。
ここはダンジョン『カネヤマ・バグ・ドーム』の9階層にあるセーフティーエリアだ。
ダンジョン内に存在するモンスターが出ない空間である。
広さは教室二つ分くらい。
なので、現在は『オレ』のいる1年B組と、先導役の二年と三年の混合パーティが休憩をとっていた。
探索中に負った傷をいやし、体力を回復、消耗した武器・防具をメンテナンス。
手に入れた採取物やドロップアイテムなどを整理。
調薬他の生産に勤しむ。
そんな光景が随所で見られた。
パシン、コン、ドガッ!
『オレ』の周辺は賑やかだ。
汚れたり、壊れたりした装備品。
使わない! 価値がない!
そう判断されたアイテム。
雑多なものが投げつけられ、頭の上に落とされ、無造作に目の前に置いて行かれる。
無料のコインランドリー兼ゴミステーションの扱いだった。
ただし、使えないと投げつけられたものでも『ゴミ』とはならない。
『外』へ持って行けば安くはあるが売り物には違いないのだ。
これを売った金は共有財産となり、あとで平等に分配される。
高額で取引できるものを得る術がない者への救済措置だ。
まぁ、誰も『救いだ』などとは思っていなかったが。
なので、『ゴミ』ではない。
ゴミ捨て場じゃない。
低価値の物資集積所。
そう呼ぶべきだろう。
投げつけられた和傘が地面に突き刺さっているのが不穏ではある。
だが、気にしてはならない。
学校の備品である大型アイテムボックスへと収める。
これで、あの傘は正式に『共有』となるのだ。
高額品などは発見者または取得者に所有権があり、原則個人での管理が義務付けられる。
逆に言えば、管理できない者に所有権は認められないということ。
管理できる者に保管を頼むか、所有権を譲り渡すかだ。
「ねぇ? ちゃんとやってる?」
「や、やってます!」
オレは、必死になって返事をした。
クラス全員分プラス誰のものかよくわからない装備品の手入れをしている最中なのだ。
補助系スキルの中には装備品のメンテナンスに使えるモノもあったからである。
「うるさっ! 声デカいよ!」
声をかけてきたのとは違う女子の足がわき腹に入った。
華奢な女の子だが、当然に戦闘職。
それも近接職の足だ。
本気ではないとはいえ、非戦闘員には充分脅威となる。
「ごへぇっ!」
胸がつかえて、すっぱい感じが上がってくるのが分かった。
口から出してしまう。
意識するより早かったので、耐えることができなかった。
「きたねぇ―よ!」
別の誰かの声。
同時に頭を、足で押さえつけられた。
顔が地面に擦れて、酸っぱい臭いがまとわりついた
「とっとときれいにしろ!」
「く、『洗浄』」
補助スキルの『洗浄』で、消えはする。
だけど、足で突かれた現実は変わらない。
「まったく、これしか能がないんだからちゃんとしなさいよ」
「まったくだぜ」
「ほらほら、頑張れ—。心の底から応援してるぞ」
「ギャハハハハハッ!」
戦闘もできないお荷物め、そんな侮蔑が降り注ぐ。
「そうそう。それ終わったら、私のアイテム磨きもよ?」
一番威張ってる女生徒がついでとばかりに仕事を増やした。
いつものことだ。
「一葉様のアイテムだからって、舐めたり股に挟んだりしないようにね!」
「うわっ、それはキモイ!」
「一葉様は最高位のヒーラーで薬師でもあらせられるの。薬瓶も貴重なんだから、絶対に汚すんじゃないわよ!」
「お前には使わせられないような高級品ばかりだからな!」
口々に言って去っていく。
去っていくときには、当然のように足で突かれ、地面に付けた手が踏まれた。
去っていくとき、そう。
誰も監視はしていない。
薬瓶なんてそうそう汚れはしない。
手を抜くこともできた。
でも、オレはちゃんと全部を拭いた。
それは、誰かのためじゃなかった。
ただ、そうすることで、『自分がまだ人間である』と信じたかっただけだ。
元あった場所に戻したかは、定かではなくなっていたけれど。
それでも、あの薬瓶は、 ほんの少しだけ、オレの手の温度を覚えているかもしれない。
◇
『オレ』は、女性陣には特に嫌われている。
より正確に言えば『女性の魔職』に、だ。
理由は『オレ』が持つスキルの中で唯一、役に立つと認められた能力のせい、またはおかげだった。
『無限魔力』。
簡単に言えば魔力がバカみたいに多い・・・というわけではない。
魔力回復が早いのだ。
通常の魔職が、消費したMPを1回復するのに7分かかるところ『オレ』は3秒で回復することができる。
どれだけ使っても、すぐに元通り満タンになるというわけだ。
基礎となる魔力量も、実はそこそこ高い。
校内トップが16000のところ11000はある。
平均より上ってとこだ。
ただし、『オレ』自身に魔法適性はなし。
なのに、『他人』に譲渡は可能という謎仕様。
ついたあだ名が『携帯充電池』。
ようは、何かで魔力を使った魔職に自分の魔力を補充できるってこと。
問題は、この補充方法だ。
皮膚と皮膚が接していなくてはならない。
布地越しでもダメだ。
当然、金属の装備品をつけていてはダメ。服もだ。
ダンジョン素材で作られた制服は、魔力の干渉を遮断する性質がある。
だから、補充にはどうしても素肌が必要だった。
これだけで、嫌がられるには充分な条件だが、触れないといけない場所がまたシビアだ。
手足のような末端部ではなく、体の中心に近いことが望ましい。
腹から腰にかけて、ということだ。
医者か彼氏でないと触れない場所である。
だったら、魔力を消費しても自然回復に任せるかポーション飲めばいいだろうに。
なぜか、ある程度減ると補充に来るのだ。
引率の教師に言われているらしい。
「常に魔力は満タンにしておけ」と。
自然回復を待つと怒られる。
かといってMP回復ポーションは高い。
可愛い装備やブランド物が欲しい女子連中にしたら、そんなものを買うのに金は使いたくないわけで。
嫌々ながら『オレ』の所に来ることになる。
これのためにイライラが募っての暴言と暴行だ。
理由としては理解できなくはない。
まぁ、もちろん。
そんな奴ばかりじゃない。
「大丈夫か?」
「しっかり、ね?」
優しく声をかけてくれる者はいる。
階層ごとに行われる討伐報酬の分配時には、『オレ』がマジックパックを持っていないと知っていて、代わりに運ぶと言ってくれる者もいた。
そんなに悪くない、はずだ。
ただ、やはり『オレ』には気を緩める暇はない。
「いい気になるなよ?」
女子との接触が高いからと、男子からも嫌われているからだ。
洗濯などを押し付けられるのは当たり前。
挨拶代わりに小突かれるのも日常だ。
それでも、以前はまだ遠慮があった。
手加減されていた。
保護者にチクられると面倒だと思っていたようだ。
だが、その保護者が、偶然殴られている息子を見て笑ったことで変わった。
チクられても面倒にならないと知って遠慮がなくなったからだ。
それからは地獄が続いている。
夕方。
もうお定まりとなった習慣で、『オレ』はある場所へ移動した。
「あー、ちょっと待って一葉」
「なに?」
「お風呂行く前にもあいつんとこ行かないと」
「あー、そうね。せっかく洗った体にあいつの手垢がつくとかありえないわ」
わざわざ、『オレ』の目の前で小芝居が始まる。
「ほら、触れることを許してあげる。魔力の補充って理由がなかったら、絶対にできないことよ? 泣いて感謝するがいいわ!」
本来、人前には出られない姿の一葉が言わなくてもいいことを言う。
「あ、変な誤解をされると一葉様の品が落ちて困るから、予防しないと」
「?」
近付いてきた女子に、何事かと思っていると・・・『ドン!』。
「・・・・・・」
声も出なかった。
足の付け根辺りに衝撃が走った。
予防というのは男性的な高まりのことを言っていたらしい。
「さっちゃん、えげつな!」
「ってか、変な顔になってるけど大丈夫?」
「うはっ! よかったなクズ男。手間が省けて」
「そうそう。どうせこのあと、気持ち悪い妄想でもするんでしょ?」
「お下品! 笹川さん、お下品!」
「きゃハハハハハ!」
黄色い声が、朦朧とする頭の上を吹き抜けていく。
「ほら、さっさとする!」
「・・・・・・」
『オレ』はもう、無言で作業した。
『オレ』の手が触れ、魔力が流れ込む。
けれど、誰もその温度を感じようとはしなかった。
・・・この手は、母に撫でられたことのある手だった。
これから誰かを支え、助けるはずの手でもある。
それが今、誰かの腰に触れている。
魔力が流れる。
でも、温度は伝わらない。
それでも、オレは『生きている』と言えるのか?
◇
そして・・・今。
『オレ』は死に瀕していた。
目の前には、この『カネヤマ・バグ・ドーム』の最深部ボス。
通称『ダンジョンマスター』と呼ばれる存在がいる。
やたらと『虫』ばかりがモンスターとして出現する『ダンジョン』だけに、角が二本あるカブトムシだ。
南国のでっかい奴を二足歩行にして3メートル台に拡大したようなモンスター。
これが、全校生総出レイドの討伐対象だ。
なのに。
現場に25人いる主力メンバー全員が、遠巻きにして・・・避難を始めている。
その足取りは、まるで『予定通り』のようだった。
オレが死ぬことは、最初から決まっていた。
ただ、誰もそれを口にしなかっただけだ。
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