『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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全年齢対応・表現マイルドバージョン

第9話 末路② ~誰も知らない叫び~

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    009  末路② ~誰も知らない叫び~

   <注意「この章には一部ショッキングな描写があります(全年齢対応内ではありますが、苦手な方にはキツイ部分もあるかもしれません)」>

      ◇声なき襲撃者◇

 「そういう、コトね。私たちは、その辺りを駆け下りてきたから、知らずに罠を回避できていたんだわ」
 戦士が、そう話をまとめた。

 いくつもの階層を初見で踏破して、駆け下りてきた自分たちを思い起こす。
 『ダンジョン』の観察を入念に行ったとはとても言い難い。
 気付かないうちに見過ごしたギミックが他にもありそうだ。

 そこで思い起こす。
 他の階層ボスは?
 『なにもいない』ボス部屋はあといくつあった?

 57、59、61。
 計算上は、あと三つあるはず。
 そう考えたとき、理由はわからないが全員同時に姿勢を変えた。

 本能だっただろうか?
 鍛えられた『探索者』の聴覚が何かを聞き取った?
 勘?

 ともかく、一点に6対の視線が向けられた。
 黒い地面が広がっている。

 焦げている?
 違う。

 炎の魔術は別の場所。
 しかも、まだ燃えている。
 
 「な、なに、あれ?」
 黒い地面から目を逸らせないまま、誰かが呟いた。
 声が掠れて震えも帯びている。

 疑問符をつけてはみたものの、すでに答えは知っていた。
 認める勇気が出なかっただけだ。

 黒い地面は揺れている。
 そして、『カサッ』という小さな音とともに移動を開始した。
 
 ザワリ。
 6人の周囲で空気が泡立つ。

 Gだった。
 一匹いてもパニックは避けきれないGがいる。
 黒いじゅうたんを形作るほど大量に!

「う、うわぅぁぁぁぁぁぁ!!」
 悲鳴を上げつつも戦士職の条件反射。
 前に出て剣を抜いた戦士。

 一歩踏み出す直前、戦士は小さく息を吸い込んだ。
 その音が、最後の覚悟のように響いた。
 その姿が、一瞬で黒いモノの集団に吞み込まれる。

「ひっひぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 服の中に入ったのだろう、布をこする音が聞こえる。
 喉も裂けよとばかりに叫び続ける戦士の服が、サワサワと揺れ動いた。
 中で、あの怪物が動き回っている。

「に、逃げるぞ!」
 正視に堪えない現実。

 剣士が声を上げた。
 誰も異議は唱えなかった。

 剣士を先頭にダンジョン通路へと逃げ込む。
 戦士は・・・捨て置かれた。

「追ってくる―!?」
「さっきのだ! 出口塞げ!」
 双子が魔法使いの襟をひっつかんで振り返させる。

「ひっ!」
 通路の闇の中でもわかる漆黒の群れ。
 喉を引くつかせつつも、魔法使いは杖を構えた。

「『ファイアウォール』!」
 通路の出口と、中央辺りに炎の壁が立ち上がる。
 彼女たちのあとを追っていたGは、通路内で焼かれていった。

「や、やったわ! 57階層ボスのGよ!」
 震えてはいるものの、片付けてやった!
 そんな暗い達成感が声にのる。

 「よくやった!」
 「Gにはやっぱ火よね!」
 双子がすかさず囃した。

 「ね、ねぇ。いなくなったんだけど?」
 そこへ、震えながら歩み寄ったのは回復役だ。

 いなくなった、というのは剣士のようだ。
 先頭切って走っていったはずなのに姿がない。

 「勢いづけて行き過ぎたとか?」
 「ありそうかも」
 Gの恐怖で、息が続く限り走ったというのはありそうだ。

 「仕方ない、わね。迎えに行ってあげようか?」
 Gの焼死体でいっぱいの通路から目を逸らして、魔法使いが提案した。
 いずれは水で洗い流さなくてはならない(風で飛ばすと灰が空気中に散って吸ってしまう)だろうが、今はやりたくなかった。

 「そう、だね」
 「しゃーないなー」
 「世話が焼けるわー」
 四人が、そろって62階層を進み始める。

 彼女たちは知らなかった。
 剣士もそこにいたことを。

 ただ、高さが違っただけだ。
 剣士は頭上にいた。
『オニグモ』さんによって、吊り上げられていたのだ。
 
 60階層ボス、『オニグモ』。
 蜘蛛のモンスターということで、誰が名付けたのか愛称はアルケミーだ。

 大きな体と強靭な糸を持つ蜘蛛。
 そのモンスターだ。

 剣士は全身を糸でグルグル巻きにされ、天井からの糸にぶら下げられていた。
 口も塞がれていたので声すら出せずに。

 糸の隙間には小さな蜘蛛がいた。
 背中の赤い蜘蛛だ。
 59階層ボス、『セアカゴケグモ』である。

 「ぐッ、ンググッ!」
 声も出せぬ状態で、剣士は手足の先からゆっくりと噛まれるのだ。
 手足の先から広がる痛みに、剣士は意識の境界をさまよっている。
 
 全身に広がる激痛、発熱などなど。
 いろんな症状があるらしいが・・・。
 
 「ゴフッ、ぐッ、ウゥゥゥゥ」
 糸の向こうで、何かが滲んでいた。
 痛みと熱に耐えきれず、生理的反応があったのかもしれない。

     ◇双子、一度やってみたかった◇
 
 「たくっ、どこまで行ったんだ?」
 「いないねぇ」
 剣士を探して、奥へと入っていく双子。

 太い通路に出た。
 直後。

 「へぶ!」
 「ぶへ!」
 二人の姿も消えた。

 「ひっ!」
 「ウソっ!」
 後ろをついていっていた回復役と魔法使いが、足を止めて壁に縋りついた。

 そこにあったのは焦げ茶色の大きな『球』。
 後ろ足で支えている体長2メートルの虫もいた。
 それも番い——カップルだ。

 迷宮名物『転がる巨石』の虫バージョン。
 探索者が『成して埋め棄てたモノ』——フンを固め集めたモノを転がしてフンコロガシさん(58階層ボス)が登場したのだった。

 「や、やだ」
 「くっさ!」
 二人ともが顔を背け、ついで全力ダッシュで逃げに入った。

 無駄なことだ。
 フンコロガシさんは、脇道に逸れてまで二人を追おうとはしない。
 大事な、大事な『糞球』を運ばなくてはならないのだから。
 
 ちょっと、余計なものがくっついちゃったけどね。
 
 双子を轢き倒してしまったのだ。
 二人を大切な『糞球』に埋め込ませてしまった。

 ゴロリ。
 フンコロガシさんが、ゆっくりと動く。
 半回転させて、下になっていた二人が外に出るようにした。

「ご、ゴベェェェェ!」
「ゲホ。ゲロロロロロ!」
 二人は、転がる球に巻き込まれ、泥のような塊にまみれた。
 息もできず、視界も奪われ、ただ苦しみの中で呻いた。
 それが何であるかを考える余裕すらなかった。

 ゴロ!
 糞球が再び転がる。

 べちゃ!

 二人のせいで湿った土に顔が押し付けられる。
 吐き出した糞が、再び顔に当たりくっついたようだ。
 転がる球が再び動き、双子の顔が泥のような塊に押し付けられた。
 何が付着しているかを考える余裕は、さすがの双子にもない。

 付着したモノのおかげで『異物感』が薄らいだのだろう。
 気を取り直したように糞球を転がして、フンコロガシさんはダンジョンの奥へと消えていった。


 後日。
 二人は発見される。
 球の中に埋もれ、頭だけを出した姿で。

   ◇遠のく意識◇

 「ひっ、ひぃっ・・・」
 わき目も振らず走った回復役。
 気が付くと一人で、細い通路を歩いていた。

 グサ!

「カハッ!」
 細い体が、宙に浮いた。
 右肩から何か、突起が突き出ている。

 ガン!
 突起の生えた体が、持ち上げられて天井に激突した。
 脳天が見事に天井に当たり、衝撃で星が飛んでいる。

「な、に?」
 無意識にだろう。
 自分に『ヒール』を使いながら振り返った。

「そ、んな・・・」
 絶望の呟きが漏れる。

 振り返った先にいたのは紅い甲殻類。
 しかも大きさが2メートル越えの、サソリだった。

「ぐッ、ぎぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ここで、ようやく毒が回ったらしい。
 全身を電流が走るような感覚にのたうった。

 幸運と言っていいのだろうか?
 のたうったことが功を奏して、毒針から抜け出せた。
 地面に落ちて、這おうとしている。

「ふ、ふぐっ・・・」
 毒に犯されながらも、何とか動こうと必死だ。
 でも、そうはいかない。
 今度はしびれが来たらしく、その場で動けなくなった。

「や、やぁだぁ!」
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を歪めて、いやいやと首を振る。

 その足元にはナメクジがいた。
 15センチくらいのが無数にだ。
 ふと見れば、体長が3メートルにはなりそうな大ナメクジがいて、背中から続々と小さなナメクジが下りて向かってきている。
 ナメクジたちは、足元から這い上がってきた。

 ナメクジの群れが彼女の体を覆い尽くし、冷たい感触が肌を這うたびに、彼女の意識は遠のいていった。
 毒のせいで現実感が歪み、何が起きているのかもわからない。
 ただ、身体が自分のものではないような感覚だけが残った。
 そのまま、彼女は静かに意識を手放した。

   ◇忘れていく◇

 そして、最後の魔法使い。
 彼女もまた、狭い通路にいた。
 それも行き止まりの通路だ。

「クソ! ついてない!」
 壁を殴りつけ、踵を返す。

 いや、返そうとした。
 動けなかったけど。

 だって、もう『踵』がなかったから。
 56階層ボス、ハサミムシさんに切り落とされたところだったのだ。

「ま、まほ、魔法を!」
 焦って撃った魔法はことごとく外れてしまう。
 いや、当たったものもあったがハサミムシさんの背中は魔法抵抗が強かったらしく、『無駄』だった。

『ギチッ、グチゃ、ジュジュ』
 尻尾の刃が、容赦なく彼女の体を分けていく。
 意識は朦朧としながらも、耳に響くのは、何かが砕ける音。
 それが自分自身だと気づいた瞬間、彼女の心は静かに沈んだ。

「わ、私の腕・・・足・・・ひぐっ。おかぁさぁぁぁぁん!」
 いや、母親呼んでどうにかなることじゃないよ?
 親にもらった体をモンスターの餌にされたのはショックかもしれないが、所詮は個別の人間だ。気にしなくてよろしい。

 砕ける音が止んだとき、彼女はもう痛みすら感じていなかった。
 ただ、暗闇の中で、自分が誰だったかを思い出せなかった。

 こうして、『63階層入り口側見張り所』の駐在人員は全滅した。

 ◇まとめ◇

 剣士は、痛みの中で『誰かに見つけてほしい』と願った。
 剣士は、幼き日、母に撫でられた髪の感触を思い出そうとした。
 けれど、痛みがそれを塗り潰した。
 見つけてくれるはずの人々の顔が、痛みのノイズでかすんで消えていく。

 双子は、『笑い声』を思い出そうとしたが、何も浮かばなかった。
 自分たちが何を笑っていたのかさえわからなくなっていた。
 肌の上を通り過ぎて行った思い出の数々が、埋もれるものに吸い尽くされていく。

 魔法使いは、『自分の名前』を思い出せなかった。
 自分を思い出すことは『今』を見ること。
 そんな勇気がなかったのだ。

 剣士の願いは、糸に絡め取られたまま、迷宮の天井に吸い込まれていった。
 双子の笑い声は、糞球の中で静かに潰れていった。
 魔法使いの名前は、ハサミムシの刃に刻まれることなく、ただ消えていった。

  ◇観察者◇

 カルマはただ見ていた。
 胸の奥で、何かが静かに沈んでいく。
 それは、かつて誰にも届かなかった『旧校舎の沈黙』だった。」

 ダンジョンはよくできている。
『駒』の配置さえ考えてやれば、その猛威を十分に発揮してくれた。

『手を出すまでもない』、と。

 でも、胸の奥で沈んだものが、いつか芽吹くかもしれないと。
 カルマは少しだけ、目を閉じた。

 闇の奥から、まだ名も知らぬ何かが、静かにこちらを見ている気がした。

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