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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第42話 片翼の焦がれ ~迷いと選択の双翼~
しおりを挟む(魂の彼女の視点)
彼女は見ていた。
自分の遺体が銀鶴と融合し、『彼』の手によって『完璧』に仕立て上げられていく様を。
その姿は美しかった。
羽根は乱れず、風は迷わず、命令に忠実。
誰かを守るために、誰かを切り捨てることを躊躇わない。
その笑みは冷たく、でも確信に満ちていた。
美しく、そして冷たい風が吹いている。
「これが・・・わたし?」
魂の彼女は、風の中で震えた。
その姿は、かつて夢見た『強さ』だった。
誰にも怯えず、誰にも縋らず、自分の選択に迷わない存在。
でも、胸の奥が痛んだ。
それは、仲間の声を聞いた時の痛み。
助けたいと思った瞬間の痛み。
それを切り捨てた『完成形』が、目の前に立っていた。
「わたしは・・・こんなふうになりたかったの?」
風は答えない。
銀鶴は、ただ時を待っている。
その羽根は、もう彼女の心を映していない。
魂の彼女は、風に触れようとする。
でも、風は彼女を通り抜けるだけだった。
まるで、もう彼女を必要としていないかのように。
「わたしは、わたしを失った」
その言葉は、風に溶けて消えた。
そして、完璧な彼女は、振り返ることなく歩き出した。
羽根の音が、彼女の痛みをなぞるように響いた。
それは、魂の削られる音。
彼女の魂は、銀鶴の影に漂っていた。
誰にも見えず、誰にも触れられず、ただ『完成された自分』の背を見つめていた。
完ぺきな彼女は、迷わない。
風は鋭く、羽根は整い、命令に忠実。
誰かを守るために、誰かを切り捨てることを躊躇わない。
魂は、そこに混ざれなかった。
銀鶴は、彼女の『願い』だけを受け入れ、『迷い』と『痛み』は、切り捨てられた。
だから、魂は不完全なまま残った。
風に触れるたび、羽根に近づくたび、その存在が拒まれる。
「わたしは、わたしの中に入れない」
その言葉は、風に溶けず消えた。
空気が、彼女の存在を避けるように流れていった。
痛みは、静かだった。
誰かに責められるわけでもなく、誰かに慰められるわけでもなく、ただ、存在しているだけで、魂が削れていく。
記憶が薄れる。
仲間の声が遠ざかる。
風の詠唱が、意味を持たなくなる。
それでも、魂は消えない。
なぜなら、『完成された彼女』が存在する限り、その影として、痛みを抱え続ける役割があるから。
「わたしは、わたしの罪の形」
風が吹く。
羽根が舞う。
魂は、また少し、削れた。
完璧な彼女は、風を纏い、羽根を揺らし、誰にも迷わず進む。
その背後に、半歩だけ遅れてついていく影がある。
それは、かつての彼女の魂。
助けたいと願いながら、踏みつけることを選べなかった『弱さ』の成れの果て。
その姿は、ボロボロだった。
制服は裂け、髪は風に引きちぎられ、顔はもう、誰かを見つめる力を持っていない。
風が吹くたび、羽根の欠片が、彼女の痛みをなぞるように通り過ぎた。
それでも、影はついてくる。
完ぺきな彼女が振り返ることはない。
でも、影はそれを望んでいない。
ただ、ついてくる。
それが、自分に残された唯一の意味だから。
この妖怪は、言葉を持たない。
ただ、風の音に合わせて呻く。
それは、かつての詠唱の残響。
「まもりたい」
「いきたい」
でも、その声は誰にも届かない。
完璧な彼女は、前だけを見ている。
その背後に、腐り落ちた良心が、風に削られながら付き従う。
前を歩くのは、完璧な彼女。
風を操り、羽根を揃え、なにも迷わず進む。
その背後に、半歩遅れてついてくるのは、不完全な亡霊。
裂けた制服、濁った瞳、削られ続ける存在。
二つは、同じ魂から生まれた。
一方は『選択』を受け入れ、一方は『迷い』に囚われた。
互いに言葉は交わさない。
でも、風が吹くたび、羽根が揺れるたび、二つの存在は、同じ詠唱をなぞる。
「わたしは、わたしを捨てた」
「わたしは、わたしを守った」
その矛盾が、風を強くする。
完璧な彼女の魔法は、不完全な亡霊の痛みを燃料にしている。
亡霊は、完璧な彼女の影として存在することで、風を支えている。
二つの存在は、比翼連理。
片翼ずつを持ち、同じ風に乗る。
どちらかが欠ければ、風は崩れる。
でも、どちらかが前に出れば、風は濁る。
だから、二つは並ばない。
常に半歩の距離を保ち、互いに触れず、互いに支え合う。
それは、愛ではない。
赦しでもない。
ただ、『生き損ねた魂』が、風の中で形を保つための、もっとも近くて遠い関係。
◇
「完成だ」
笑みを含む声が聞こえた。
いつかの対比。
構図は変わらない。
ただ、立場が逆転している。
『彼』が見下ろし、『私』は見上げる
強く存在する『彼』、消えそうな『私』。
でも?
『彼』の手が、髪に触れた。
いつかのように。
「まだ、触ってくれるの?」
細く小さな呟き。
ほんの些細な風にでも掻き消されてしまう。
そんな声。
なのに『彼』は拾い上げた。
気付いてくれた。
「君は、オレのものだ」
所有の宣言。
『私』は『私の居場所』を得た。
もう、伸ばす手を躊躇わなくていい。
なぜなら、この手もまた『彼』のものなのだから。
きっと一番の望み。
誰かに必要とされたい自分になりたい。
それが叶ったのだと悟る。
「ああ、私は『こう』なりたかったのだ」
強く美しい『自分』の影として、安全に守られる。
拒絶でも無視でもなく、必要としてくれる人の側に立つ。
後ろめたくはある。
だから顔は上げられない。
でも、そうだ。
目は開こう。
過去を未来に紡ぎ、彼と生きる未来を編む。
風の翼が、きっと役に立つ。
私は『彼』の役に立つ風となる。
風に削られながら、彼の背に手を伸ばす。
それは、赦しではなく、役に立ちたいという願いだった。
私たちの名前は『比翼ふげん』、そして『比翼みれん』。
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