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全年齢対応・表現マイルドバージョン
第54話 サブリーダーの独白 ~微笑みの毒~
しおりを挟む一葉の名前が出た瞬間、胸の奥がざわり、と波打った。
ずっとこの時を待ち焦がれていた。
あの善人ぶった女に泥を投げつける日を。
誰も気づかない。
誰も見ていない。
でも、彼女の存在はずっと『水面の光』だった。
手が届きそうで届かない、水面に揺れる光のような存在だった。
自分より少しだけ上にいて、少しだけ綺麗で、少しだけ『聖女』に近い。
その『少し』が、積もり積もって、今や手が届かないほど遠い。
彼女は『作れる』。
自分には『作れない』。
彼女は『選ばれる』。
自分は『支える』だけ。
それが、ずっと悔しかった。
でも、悔しいと言えなかった。
だって、彼女は世間が認める『善人』だから。
誰もが信じてる『聖女一歩前』だから。
でも──今なら、違う。
カルマの件。
エリクサーの件。
『渡さなかった』という一点だけで、彼女は沈む。
自分が沈めなくても、周囲が勝手に引きずり下ろす。
なら、少しだけ『流れ』を整えてあげよう。
直接潰したりはしない。
噓だって流さない。
ただ、疑念を一滴。
不信を一滴。
それで、彼女の光は濁る。
そして──その濁った水面を私は見下ろす。
愛する人の隣に立って。
濁った水面の下で、あの女はどんな顔をするかしら?
「ふふふ・・・」
「お、おい。どうした?」
笑う場面か?
戸惑う顔が近い。
困惑顔もいいわね。
愛してるわ。
「大丈夫。心配しないで。彼女にはきっと、誰もが納得する理由があるに違いないのですもの。そうでしょう?」
そっと胸に手を当てて念を押した。
「あ、ああ。そうだとも、そうに決まっているさ・・・・たぶんな」
目を逸らして歯切れの悪いお返事。
他人は『頼りない』ということもあるけれど、私は好き。
そこがいいの。
私の大好きな坊や。
可愛い坊や。
いっぱい愛してあげる。
いっぱい甘えさせてあげる。
だから、私の胸の中でお眠りなさい。
いつまでも。
いつまでも・・・。
あなたは、私なしでは生きられないのよ。
◇リーダーのおそれ◆
サブリーダーの笑顔は、いつも通りだった。
柔らかくて、優しくて、どこか甘ったるい。
でも──今は、少しだけ違って見えた。
胸に手を当てて微笑む彼女の姿が、まるで『舞台の上の聖女』のようだった。
完璧すぎる。
整いすぎている。
そして、どこか『冷たい』。
「そうに決まっているさ・・・たぶんな」。自分の言葉が、空気に溶けずに残った。
彼女の笑顔に吸い込まれず、ただ、浮いていた。
その違和感が、喉の奥に引っかかった。
何かが、違う。
何かが、濁っている。
彼女の手が自分の腕に触れた瞬間、。
ほんの半歩だけ、足が後ろに動いた。
無意識だった。
でも、確かに動いた。
彼女は気づいていない。
・・・いや、気づいていないふりをしている?
それでも、彼の中には確かに一滴。
冷たい水が流れ始めていた。
◇サブリーダー◇
彼の足が、ほんの半歩だけ後ろに動いた。
その瞬間、空気が揺れた。
彼は気づいていないふりをしている。
でも、私は知っている。
彼は、確かに『感じた』のだ。
私の笑顔の奥にあるものを。
私の言葉の温度に潜む冷たさを。
そして──私の『意図』を。
でも、それでいい。
気づいても、動けない。
気づいても、逃げられない。
だって、彼は『私の坊や』だから。
だから、毒の種類を変えよう。
彼を傷つけないために。
強すぎると、彼まで傷つく。
弱すぎると、一葉が沈まない。
必要なのは、『彼が納得できる濁り』。
彼が「仕方ない」と思える程度の毒。
それでいて、確実に、一葉の光を曇らせるもの。
例えば、「彼女は迷っていた」「彼女は判断を誤った」「彼女は、誰かに止められていた」。
そういう『理解できる罪』を流す。
それなら、彼は私を責めない。
むしろ、私を頼る。
そして、私の隣に立つ。
ふふ。
この流れは、私のもの。
彼も、彼女も、みんな私の支配する海の中。
私は、ただ『曇らせる』だけ。
静かに。
確実に。
その時、ふと目に入った。
個人チャットの通知。
『城野敦』──誰だったかしら?
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