『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
79 / 327
全年齢対応・表現マイルドバージョン

第78話 呼び声 ~本音の紳士たち~

しおりを挟む
  

 中央部にいた者たちで、未だ無事でいられたものは男が二人。
 
 「チッ! どうせばらけるなら、女子と二人きりがよかったぜ」
 「悪かったな、野郎で。つか、お互い様だろ!」
 「野郎相手じゃ、その気にならねぇや」
 「なられても困るが、まぁ女子ほど気合が入らんのは同感だ」
 守り甲斐がない。
 守りたいと思えない。
 女性が見ていてくれればこそ、男は紳士になれるのだ。

 それなのに・・・。
 仲は悪くない二人だったが、今回ばかりは恨めし気に顔を見合わせていた。

 「こんな辛気臭いとこさっさと出ようぜ」
 「女子もいないしな。てか、なんで誰もいねぇの? そろそろ誰かと出会えていていいはずなんだがな」
 「・・・なんか、静かすぎねぇか?」
 彼らはかなり歩き回ったあとだった。
 誰か一人くらい見つかりそうなものなのに誰も見つかっていない。

 「——が——」
 風が音を運んできた。

 「誰か呼んでる?」
 「こっちだ、急げ」
 二人が呼び声を目当てに走り出す。

 「——いねがー」
 声がだんだんとはっきりしてくる。

 「——こは、いねが—」
 言葉もハッキリ聞き取れるようになってきた。

 「女の声だな?」
 「ああ。でもなんで、こんななまってんだ?」
 『いねが―』、とは「いないか?」という意味だ。
 「無事な者はいないか、誰か近くにいないか」と、そう呼び掛けている。

 「あの角の先だ!」
 「おい。抜け駆けするな!」
 誰かはわからないが女子がいる。
 いいところを見せようというのだろう。
 二人は競うように加速して、角を曲がった。

 彼らが、その先で見たものは・・・。
 星と、永遠の闇。
 自らの沈黙、だった。
 彼らはもう、なにも見ることはなかったのだ。
 
 壁には二人の輪郭をなぞるようなシミが残っていた。
 床に積み重なった制服の上を、人影がまたいでいく。

 「わるいこは、いねがー」
 二人の上を、呼び声が通り過ぎて行った。

 彼らが求めた『女』は、そこにいた。
 ただし、それは——鬼だった。
 
 背中に棘付きの金棒(かなぼう)を背負って立つ。
 赤銅色の肌の鬼。
 

 残り、12人。

        ◆

 ダンジョンを『鬼』が歩いていた。
 彼女が配置され、現れた瞬間、空気が変わる。

 赤銅色の肌が、夕焼けのように燃えていた。
 筋肉の輪郭は、まるで戦場に刻まれた意志そのもの。
 短く刈り込まれた金髪が風に揺れ、黒く湾曲した角が空を裂くように伸びていた。

 その姿は、まるで『怒り』を纏った彫像。
 虎柄の衣装は、野性と誇りの象徴。
 肩に担いだ棘付きの金棒が、彼女の『裁き』を予告していた。

 花が舞っていた。
 淡い桃色の花弁が、彼女の周囲を漂っている。
 それは、かつての『優しさ』の記憶か。
 それとも、今から散る『命』の前触れか。

 彼女は、ただ立っていた。
 風も、音も、彼女の前では息を潜めた。

 建物の影を背に、緑がかった空を背負いながら。
 その瞳には、迷いも、憐れみもなかった。
 あるのは、ただ一つ——『終わらせる者』としての覚悟。

 童子丸らうら。
 かつて鈴谷涼香だった少女は、今や『鬼』として、戦場に立っている。
 その姿は、恐ろしくも美しく、そして——哀しかった。

     ◆童子丸らうら(鈴谷涼香)視点◆

 足音が、重い。
 でも、それは疲れじゃない。
 迷いでもない。

 ただ、踏みしめているだけだ。
『人間だった頃の道』を。

 焼け焦げた記憶が、まだ足元に残っている。
 仲間の声。
 魔法の光。
 叫び。
 そして、沈黙。

 あたしは、あの場で終わったはずだった。
 でも、終われなかった。
 終わらせてもらえなかった。

「・・・なら、やるしかないじゃん」

 誰かに言い訳するつもりはない。
 誰かに赦してもらうつもりもない。
 ただ、あたしは『鬼』になった。
 それが、今のあたし。

 金棒が背中で揺れる。
 その重さが、あたしの『罪』の重さだ。
 でも、背負える。
 もう、背負う覚悟はできてる。

「誰かが、やらなきゃいけないなら——あたしがやる」

 それだけだった。
 誰かを守るためじゃない。
 誰かに褒められるためでもない。

 ただ、『終わらせるため』に。
 あたし自身の、罪と罰と、命の続きを。
 この手で、終わらせるために。

「わるいこは、いねがー」

 その声は、もう『涼香』のものじゃない。
 でも、あたしの『意志』は、まだそこにある。

 だから、行く。
 誰も守れなかったあの日の続きを、今度こそ、あたしの手で終わらせるために。

「わるいこは、いねがー」

    ◇

 その声は、もう『涼香』のものじゃなかった。
 でも、どこか懐かしい響きが喉の奥に残っていた。
 それは、怒りでも、悲しみでもない。
 ただ、命令でもない。

『問いかけ』だった。

 ——誰か、まだ生きてるか?
 ——誰か、まだ抗ってるか?
 ——誰か、まだ、終わらずにいるか?
 誰か、あたしを見てくれる者は——いないか?

 足音が近づく。
 軽い
 浮ついている。
 その音だけで、わかる。
 この者たちは、まだ『死』を知らない。

 角を曲がる気配。
 らうらは、金棒を背に、ただ立っていた。
 何も言わない。
 何も構えない。
 ただ、そこに『在る』。

 そして—— 終わった。

 光も、音も、叫びもなかった。
 ただ、沈黙だけが残った。

 制服が静かに横たわっていた。
 その中に、かつて自分が守ろうとした誰かの色が混ざっていた気がした。
 でも、らうらは振り返らなかった。

「・・これで、いい」

 そう思った。
 何も感じなかったわけじゃない。
 でも、感じる必要がなかった。

 彼らは、戦場を知らなかった。
 誰かを守る覚悟も、誰かを背負う痛みも知らずに、 ただ『女』を求めて走った。

 それが、命を落とす理由になるのは、理不尽かもしれない。
 でも、ここは『ダンジョン』だ。
 理不尽が、理そのものだ。

「・・・あたしは、鬼だ」

 その言葉が、胸の奥で静かに響く。
 誰かを守るために、誰かを殺す。
 それが、あたしの『罰』であり、『役目』であり、『存在理由』。

「わるいこは、いねがー」

 もう一度、声を放つ。
 それは、警告でも、誘いでもない。
 ただの『確認』。

 ——まだ、あたしが裁くべき『命』は残っているか?
 誰か、もういい、充分だと言ってくれる者は、いないか?

 ——まだ、罪を知らない者はいるか?
 誰か、罪を乗り越える方法を教えてくれる者は、いないか?

 ——まだ、終わっていない者はいるか?
 誰か、あたしを止めてくれる者は、いないか?

 ほんの少しでも、あたしの手を引いてくれるなら——それだけで、救われる気がした。

 金棒が、背中で重く揺れた。
 それは、罪の重さであり、命の重さであり、あたしが背負った誓いの重さだった。
 それが、あたしの『答え』になる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...