『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第85話  妖怪制作⑤ 鶴女房 ~風を選ぶ者~ 後編

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 風は止まった。
 風が止まった瞬間、影が胸を貫いた。
 羽根は散り、命は沈んだ。

 そして、静かに羽根を広げた。
 彼女の魔法『銀鶴』が、彼女の悔いと執着を抱いて形を持った。

 それで、終幕。
 すべて終わったはずだった。
 命の終わり、未来の終わり。

 なのに、続きがある。
 終わらせてもらえなかった。
 呼び戻された。

 未だ形を与えられない朧な存在。
 なのに、記憶はしっかりしていた。
 自分のしてきたことを見せつけられる。

「やめて! わたしは、そんなふうに生きたかったんじゃない!」
 呼び出された魂は、まだ死の痛みを覚えている。

 仲間を見捨てた記憶。
 風を盾にした罪。
 それでも生きたかったという執着。

 その魂に、鶴が語りかける。

「あなたは、風が吹く方向を選んだ。わたしは、その選択の形」
 鶴は、彼女の魔法スキルの具現。

 感情はない。
 知性も、本来はない。
 けれど、彼女のすべてを記憶している。
 彼女の意志を、汲み取るためだ。

 戦場での動き。
 常に思考を働かせていては間に合わなくなる場面。
 細かな動きの調整を魔法スキルが、彼女の意思を記憶したスキルが代行していた。

 彼女の望みを誰よりも知る存在。
 彼女自身よりも知る存在。

「わたしは間違ってた。助けるべきだった!」
「それでも、風を操ったのはあなた。わたしは、あなたの『願い』そのもの」
 魂は震える。
 鶴は静かに羽根を広げる。
 その羽根は、仲間の声をなぞるように風を揺らす。

 失っていた『体』が再構築される。
 目的が明確になっていく。
 自分が何になろうとしているのかを自覚する。

「この体を、『妖怪』にする? 誰が? なんのため?」
「あなたは、誰かに愛されたかった。だから、吹かせる風を選んだ。選ばれた者が、そうとは気が付かないほど、弱かったけれど」
 否定できず、魂は泣く。
 肯定するように、鶴は寄り添う。

「私は、そこまでして『生きたい』の?」
『妖怪』になることを受け入れてまで?
 魂は問う。

「もう一度選んで。誰かのために舞うか、自分のために沈むかを」
 強い言葉で鶴が迫る。

「選べるの?」
「・・・・・・」
 問いに鶴は答えない。
 別のモノが答えた。

    ◇転換◇

「お前は、あの時。オレを見捨てた」
 その声は、聞き覚えがあった。

 だけど・・・何か違う気がする。
 本人ではないのかもしれない。
 声も現実ではない。

 形を伴わない意識。
 そこへ吹きこんでくる意志ある風。
 そんなところだろう。

 小夜は、かつて『彼』を見送った。
 その人は、風に舞う羽のように消えた。
 彼女の魔法が届かなかった、届けなかった。
 最初の後悔。

『みんな』の総意で選ばれた犠牲。
『爆弾』となった仲間。
 始まりの裏切り、その人の声。
 自分が、『誰』によって呼び戻されたかを理解した。

 魂は震える。
 銀鶴が、静かに羽根を閉じる。
 空気が重くなる。
 風が、彼女の罪をなぞるように沈黙する。

「お前は自分の利益のために、人を殺せる女だ」
 魂は言葉を失う。
 その存在——かつての仲間——は、死を越えて、妖怪を作る者になった。
 そして今、彼女を『妖怪』にしようとしている。

「お前は生きたかったのだろう? 生かしてやろう。お前を作り直す。それはお前が望んだこと。『わたしの隣に立つがいい』、だろ?」
 かつて自分が口にした言葉がなぞられた。

 空気を切り裂いて、魂は叫ぶ。
「それは違う! それは、わたしじゃない!」

 銀鶴がささやく。
「でも、それはあなたの『願い』だった。誰かに必要とされること。誰かに愛されること」

 魂は泣く。
 それは後悔か、赦しを求める涙か。
 羽は、彼女の涙を包むように、静かに舞った。

「お前は、自分に優しすぎた。だから死んだ」
 彼女の魂は、風の中で震えていた。

 助けたかった。
 でも、生きたかった。
 その矛盾が、羽根を濁らせ、仲間を殺し、自分も死に至らせた。

「だから、作り直して完成させる」
 かつての仲間——今は妖怪を作る者——は、彼女の遺体に手を伸ばす。

 羽根を裂き、銀鶴を縫い合わせ、魂を引きずり出す。

「お前は、踏みつけられることを恐れていた。でも、風は選ぶ。誰を守り、誰を切り捨てるか。その選択に迷いは要らない」
 彼女の目が開く。
 銀鶴が静かに舞う。

 その羽根は、かつての仲間の声をなぞらない。
 代わりに、命令を待つように空気を裂く。

「わたしは、誰かのために生きたかった。」
「なら、誰かを踏みつけてでも、生きろ。それが、お前の『完成』だ」

 彼女は、風を呼ぶ。
 その風は、もう優しくない。
 鋭く、冷たく、選別する風。
 そして、彼女は笑う。

「わたしは、完璧になる。誰かのために、誰かを捨てることを、恐れない」
 風は、彼女のことを忘れたように吹き抜けた。
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