『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第98話 最下層の討伐者たち⑥ 前編

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 後詰の無力化は、予定通り終了した。
 残るは、先駆け5パーティと本隊のみ。

 最高戦力である本隊と相対する前に、彼らをできるだけ『丸裸』にしておきたい。
 だから次に狙うのは、先駆けだ。

 ただし、狙うのは『主役』ではない。
 メインルートを進む者たちではなく、その左右を進み、モンスターを面制圧する『舞台袖の者たち』。

 カルマは、ひとり呟く。

「右——右翼から潰すとしよう」

 向かわせるのは、64階層在来のモンスター(改)。
『改』の意味は、言うまでもない。
 カエル女を生み出した『再生虫』を、残りのモンスターすべてに仕込んだ。
 それを、ぶつける。

 どのくらいのダメージまで耐えられるかは、わからない。
 だが、これまでと違うことは確実だ。

「舞台は整えた。役者もやる気十分。さあ、開演だ」

 カルマの声は、どこか楽しげだった。
 それは、誰かの悲鳴を『演出』と呼ぶ者の声。
 こうして、『レイド失敗』という舞台の、何幕目かが始まった。

   ◇

「属性がコロコロ変わりやがる・・・!」

 先駆け右翼のリーダーが、忌々しげに吐き捨てた。
 その声には、怒りよりも、疲労と焦燥が滲んでいた。

 最初に遭遇した敵は、昨日と『逆』の属性を持っていた。
 彼のパーティでは怪我人が出ただけで済んだが、メインルートの露払いを請け負っていた別の部隊では、死者が出たという。

 その報せが届いたのは、戦闘が終わって間もなくのことだった。

 そして次に現れた敵は、昨日と『同じ』属性だった。
 また怪我人を出しながらも、なんとか撃破。
 だが直後、露払いの二陣が壊滅したとの一報が入る。

 先陣は全滅したらしい、と。

『らしい』——その曖昧な言葉が、何よりも苛立たしかった。
 誰も確かめに行けない。
 誰も戻ってこない。
 情報は、ただ『噂』としてしか届かない。

 そして今。
 階層の終盤に差し掛かったあたりから、敵の属性が、完全に“デタラメ”になっていた。

 昨日と同じでも、逆でもない。
 最初は、誰かの見間違いかと思った。
 だが、違った。

 何度か戦って、ようやく理解した。
 これは、偶然ではない。
 本当に、バラバラなのだ。
 属性が、戦うたびに変わっている。
 規則性も、傾向も、何もない。

 毎回、敵の属性を探りながら戦わなければならない。
 そのことが、じわじわと精神を蝕んでいく。
『次は何が来るのか』という不安が、『何を信じていいのか』という疑念に変わっていく。

 仲間の呼吸が乱れている。
 誰かが、呟いた。

「・・・これ、ほんとに『うまくいっている』か?」

 誰も答えなかった。


「敵!『ミヤマ』!」

 索敵担当の声が響く。
 パーティは即座に歩調を緩め、『受け』の陣形を取った。
 後方では、魔職のメンバーが詠唱に入る。

 打ち合わせ通りの動きだ。
 各々が異なる属性の初級魔法を準備し、実際に当てて『反応』を見る。

 まどろっこしいが、堅実な戦略。
 この慎重さこそが、このパーティリーダーの持ち味だった。
 そのおかげで、他のパーティが軒並み死人を出している中、彼らだけは、まだ一人も欠けていない。

「接敵!」

 黒い体が、薄暗い通路の奥から現れる。
『ミヤマクワガタ』。
 その名の通り、硬質な殻を持つ虫型の敵。
 視認は難しい。
 だが、あの羽音だけは、嫌でも耳に残る。

「魔法、いきます!」

 魔職女——カナエの合図で、魔法が放たれる。
 炎、風、土、水——順に、慎重に、確実に。

「属性確認! 風!」

 索敵の報告に、風属性の魔法持ちが一斉に詠唱へ。
 他のメンバーは、ただ耐える。
 詠唱が終わるまで、ひたすらに。

「魔法、撃ちます!」

 魔職の合図で、盾役が敵を押し返す。
 その隙間を縫うように、魔法が飛ぶ。

 属性確認済み。
 弱点属性。
 しかも、連続で。

 一撃ではない。
 外れもない。 全弾、命中。

『ミヤマ』は、ひっくり返った。
 脚をばたつかせることもなく、沈黙する。

『仕留めた』。
 また一戦、片が付いた。

 リーダーが、静かに息を吐いた。
 胸の奥に、わずかな安堵が灯る。
 誰も死ななかった。
 また一戦、生き延びた。
 その事実だけが、彼を支えていた。

 ——ザシュ。

「ぐ、ぐは・・・!?」

 その音は、あまりにも唐突だった。
 リーダーの体が、くの字に折れた。
 目が、驚愕に見開かれる。

 視線の先。
 そこには、倒れたはずの『ミヤマ』の頭部があった。
 だが、何かがおかしい。

「ぼか、な・・・」

 彼の声は、途中で途切れた。
 胸から下が、数メートル先に転がっていた。

 誰もが凍りついた。
 何が起きたのか、理解できなかった。

『ミヤマ』の頭部に、首があった。
 本来、存在しないはずの『首』。
 白く、ねじれた筋繊維の束が、まるで『糸』のように頭部と胴体を繋いでいた。

 それは、急ごしらえの構造だった。
 不格好で、不自然で、異様なほどに『生々しい』。

 そして、その感想は正しかった。

『ミヤマクワガタ』は、確かに倒されていた。
 だが、消滅するよりも早く——『再生虫』が、活動を開始していた。

 落ちかけていた頭部を、繋ぎ止める。
 筋肉繊維を伸ばし、無理やり『首』を作り出す。
 そして、頭部は再び動き出す。
 敵を認識し、攻撃を再開する。

 その結果が、今だった。

 リーダーの体は、まだ温かい。
 だが、彼の目は、もう何も映していない。

 それは、死を終わりにしないための演出だった。
 誰かが、そう仕込んでいた。

 “死んだ”という安心を、『倒した』という達成感を、 『終わった』という判断を、 すべて、裏切るために。

 それが、『再生虫』の本質だった。

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