『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第114話 崩れる戦場(鈴谷涼香視点)

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 涼香は、叫んでいた。
 喉が裂けるほどに。
 腕が千切れるほどに、大剣を振るっていた。

「立て! まだやれる! お前ら、死ぬなよ!!」

『扇動者』のスキルが発動していた。
 仲間たちは怒りに燃え、恐怖を忘れ、ただ前へと突き進んでいた。
 それが、彼女の『願い』だった。

 諦めるな。
 立ち尽くすな。
 運命に、死に、抗え!

 ──でも、どこかでわかっていた。
 これは、限界を超えた『延命』だと。
 勝ち目なんて、もうない。
 それでも、誰か一人でも生き延びてくれたら、それでいい。

 キアゲハが現れたとき、涼香は一瞬、息を呑んだ。
 あれは、勝てない。
 そう思った。
 でも、止まれなかった。

 魔法が飛ぶ。
 敵の能力など、考えてもいない。
 思考力を奪ったのは――私だ。

 恐れることなく飛びかかる者たち。
 下から石を投げる者までいた。
 戦う以外の死も、感情も、私が奪った。

「アレって、物理攻撃しないよな……?」
 呟いた瞬間、背筋が凍った。

「マズい!」
 叫んだ。
 でも、誰も止まらない。

 魔職たちが、体中の魔力をかき集めて放つ、最後の最大火力。
 それは、彼女の『扇動』によって導かれた、自滅の光だった。

 魔法の光が空を覆った。
 その瞬間、涼香は叫んだ。

「下がれ──っ!!」

 でも、誰も聞いていなかった。
 いや、聞こえていなかった。
 彼女が『扇動』したからだ。

 そして――自分たちの最大火力が、返された。

 空が、裂けた。
 光が、反転した。
 焼き尽くすような閃光が、戦場を飲み込んだ。

 逃げ場はない。
 抵抗も、意味をなさない。

 涼香は、脱力した。
 剣が、手から滑り落ちる。
 膝が崩れ、地面に落ちた。

 私は、みんなを殺した。

 その事実が、心臓を貫いた。
 熱いはずの戦場で、涼香の中だけが、凍りついていた。

 自分の力で、仲間を殺した。
 その事実が、胸を貫いた。
 焼き尽くされる光の中で、涼香の意識は光に呑まれていった。


 焼けた空気が、肺を焼く。
 視界は、赤と黒のまだら模様。
 耳鳴りの中で、誰かの断末魔が遠くに聞こえた気がした。


 熱と光。
 魔力と物質。
 ぶつかり合った力の残滓がたゆっている。

 涼香は、立ち上がった。
 身体が勝手に動いた。
 もう、何も守れない。
 誰も残っていない。
 それでも──

「まだ、終われるかよ・・・」

 声は、かすれていた。
 叫びというには弱すぎて、呟きというには、あまりに痛々しかった。

『終わり』を認めたくなかった。
『自分の力が、仲間の命を奪った』。
 その事実が、胸を貫いた。

 筋肉は、まだ熱を持っていた。
 でも、心はもう、どこにも向かっていなかった。

 棒立ちのまま、涼香は空を見上げた。
 そこに、影が差す。

『メガネウロ』。
 あの、奇妙な飛行モンスターが、彼女を回収しに来た。

 逃げることも、抗うこともできなかった。
 いや──する理由が、もうなかった。

 涼香は、ただ運ばれていく。
 焼け焦げた戦場を、仲間たちの亡骸を、何もかもを見下ろしながら。

 焦げた肉の匂いが、風に乗って鼻を刺す。
 砕けた武器。
 焼けた制服。
 崩れた顔。
 もう、誰が誰だったかもわからない。

「……ごめん」

 誰に向けた言葉かも、わからなかった。
 カルマかもしれない。
 仲間たちかもしれない。
 あるいは、自分自身かもしれない。

 その一言を最後に、涼香の意識は、静かに、深く、沈んでいった。
 まるで、水底に落ちていく石のように。

   ◆再生◆

 暗い。
 でも、怖くはない。
 音もない。
 でも、静かすぎるわけでもない。

 涼香は、浮かんでいた。
 何かに縛られている気がした。
 でも、それが何かはわからない。

 身体は、もうない。
 痛みも、重さも、熱もない。
 ・・・でも、『感情』だけが、まだそこにあった。

「・・・終わったんじゃなかったの?」
 誰に聞くでもなく、呟いた。

 戦場は焼けた。
 仲間は死んだ。
 自分も、死んだはずだった。

 なのに、まだ『ここ』にいる。
 夢なのか。
 現実なのか。
 それすら、もうわからない。

 でも、確かに『自分』はここにいる。
 何もできないまま、ただ、存在している。

「・・・あたし、何してたんだっけ」
 問いかけは、誰にも届かない。
 でも、自分自身には、刺さった。

 守るために、強くなった。
 怒られるために、前に出た。
 誰かの盾になることが、あたしの役割だった。

 でも── 最後は、誰も守れなかった。

「・・・ごめん」

 また、その言葉が浮かぶ。
 でも、今度は少し違った。

『生き返るかもしれない』という可能性が、どこかにある。
 それが、涼香の魂を『ここ』に縛っている。

 彼女はそれを知らない。
 でも、『終わりを許されない感覚』だけが、確かにそこにあった。

「……まだ、終わらせてもらえないのか」
 その言葉に、誰かが答えることはない。
 でも、涼香の魂は、ダンジョンの深層に――留め置かれていた。

 それは、蘇生魔術やアイテムによる『保険』のようなもの。
 誰かが彼女を呼び戻す可能性がある限り、魂は完全には消えない。

 涼香自身は、その仕組みを知らない。
 ただ、『終われない感覚』だけが、静かに、深く、染み渡っていた。

 まるで、水底に沈んだまま、誰かの手が差し伸べられるのを待っているような――

 その手が、救いなのか。
 それとも、さらなる地獄への導きなのか。
 今の彼女には、知る術もなかった。

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