『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第130話 主力の到達 ~ようこそ、三途の川中学校へ~ 前編

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 苦闘しつつも、主力が64階層へと戻ってきた。
 昨日よりも装備の損耗が激しい。
 なにより、人数が減っている。

「……すごい」

 誰かが呟いた。

 昨日訪れたときには、『山の中の開けた空間』――そんな雰囲気だった。

 だが今、そこにあるのは――無機質な灰色の空間。

 色がない。
 音もない。
 空気すら、冷たく沈黙していた。

 しかも、その空間は、はっきりと歪んでいた。

 床には、巨大なクレーター。
 まるで、何かが地面を抉り取ったような深い窪み。

 四方の壁も、天井も、同じように歪んでいた。
 爆風に押し潰されたような凹み。
 焼け焦げた痕跡。
 剥がれ落ちた構造材。

 それは――カルマを消し飛ばした爆発の爪痕。
 空間そのものが、痛みを記憶しているかのようだった。

 ダンジョンの内部構造が変わるほどの爆発。
 ただの攻撃ではない。
『存在を否定する力』だった。

 主力たちが、言葉を失うのに十分な威力だった。

「ははは、こいつはすげぇや。これほどかよ」

「木っ端微塵だぜ。助かりようがねぇ! アイツも、『ダンジョンマスター』もな!」

 ここに来るまで、 カルマの自爆が本当にダメージを与えたのか――そんな疑念もあった。

 だが、目の前の光景がすべてを物語っていた。

 溶けたコンクリートのような床。
 すり鉢状に抉れた巨大なクレーター。
 焼け焦げた空気の匂いが、まだ残っている。

「ドロップアイテムよ!」

 誰かが叫ぶ。
 その声に、皆の視線が一点に集まった。

 クレーターの中心。
 黒く焦げた地面に、ぽつんと残された『甲虫の角』。

 それは、ダンジョンマスターの威容を象徴する遺物。

「待て!」

 急いで回収しようとする仲間を、 一人の男が制止した。

「『鑑定』」

 スキルが発動する。
 空気が一瞬、静まった。

「……間違いねぇ。ダンジョンマスターの討伐アイテムだ!」

「うぉぉぉぉ!」
「やったぁぁぁ!」

 歓声が上がる。
 世界初の快挙――その瞬間だった。

 あとは、あれを持ち帰るだけで英雄になれる。
 名誉。
 報酬。
 未来。
 すべてが手に入る。

 我先にと、雪崩を打って突進していく。

 だが―― 誰も気づいていなかった。

 その角の影が、わずかに揺れたことに。

「ぎゃあ!」

 先頭を走っていた戦士が、仰け反った。
 地中から突き出した土の槍が、腹を貫通している。

「な! まだ敵がいるのか?!」

 慌てて足を止め、戦闘態勢をとる。
 その瞬間――空気が変わった。

 静かすぎる。
 音が、消えたような感覚。
 誰かが、息を呑んだ。

「……いる」

 一葉が、呟いた。

 クレーターの縁に、影が立っていた。
 人間のような輪郭。
 だが、何かが異様だった。

 歪んだ制服のような布。
 白く、無表情な仮面。
 目の部分だけが、黒く塗り潰されている。

 その仮面の人影が、ドロップアイテムを抱え上げた。

 そして――舞台役者のような芝居がかった礼。

 誰に向けたのかもわからない、不気味な『演出』。

 そのまま、身を翻し、奥へと消えていった。

 残されたのは、沈黙と、血の匂い。

「人間みたいだったわ」

 女子が、青褪めて呟く。

 胸元の赤いリボン。
 自分たちと同じ制服に見えた。
 しかも――女性。

 仕草や動きに、既視感がある。
 だけど、確定するにはおぼろげすぎた。

 ただただ、『自分と同じ制服』かもしれないという事実が、不安を募らせていく。

「な、なんだ? あれ?!」

 呆然と立ち尽くす主力たち。

「『サブマスター』だとさ」

 静かに告げたのは、『鑑定』を使う男だった。

「サブマスだ?! んなもんいたのか!?」

「だから、モンスターもおかしくなっていたのね?」

「支配者が変わったからってことか?!」

 属性変更や、異常な挙動。
 謎だったことが、一気に説明可能になったように思えた。

 そういうことだったのか――と、騒ぎ始める。

 だが、それは――間違い。

 彼らには、知りようもない。

 仮面の女が『何者』なのか。
『誰』なのか。
『何のために』現れたのか。

 その答えは、まだ――舞台の奥に、隠されていた。

「ここは一度引くべきじゃない?」

 それでも、冷静な者はいた。
 仕切り直そうと、提案がされた。

「ダメだ。このまま進む!」

 リーダーは、それを即座に却下した。

「なんでよ?!」

「昨日までは犠牲0だった。今日はどうだ? 明日、もう一度ここに来るのに、何人死なせるつもりだ?」

「そ、それは、でも――!」

「見たところ、サブマスは『強さ』ってより『策を弄する』タイプだ。時間をやればやるほど、新しい罠を用意して待ち構えられる。今、追いかければ、ワンチャンある! どっちを選ぶかって話だ」

 ここで引けば――最悪、何もかもが水の泡。

『ダンジョンマスター』は討伐した。
 だが、討伐部位の持ち帰りに失敗したという報告しかできない。

 全校あげての大掛かりなレイド。
 犠牲も出した。
 ここは、多少のリスクを押してでも、追跡して、これっきりのチャンスに賭けるべき――!

 それが、リーダーの判断だった。

「……わかった。 だけど、私は命をかけてまで名誉って女じゃないの。 危険だと思ったら、逃げるわよ?」

「好きにしろ」

 主力は、再び前進を開始した。

 その背中に、『勝利』と『破滅』の両方が、静かに重なっていた。

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