286 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第171話 妖怪制作 ~女郎蜘蛛(真梨華)~ 後編
しおりを挟む◇完成(女郎蜘蛛・真梨華)◇
私は、ほどけた。
肉も、心も、名も。
けれど、愛だけが残った。
それは、糸になった。
細く、長く、しなやかに。
絡めて、縛って、溺れさせるために。
私の髪は、夜の闇。
私の瞳は、獲物を射抜く鏡。
私の声は、甘く湿った毒。
この体は、あなたのために整えられた。
艶やかに。
妖しく。
完璧に。
私は、あなたの『幸福』。
あなたの『罠』。
あなたの『地獄』。
命じて。
私を使って。
私を望んで。
私を壊して。
そして、また直して。
私は、あなたの『悦び』でありたい。
八本の脚で、舞い踊る。
糸を張り、心を縛り、愛を餌にして、魂を喰らう。
それが、私の『生』。
それが、私の『愛』。
それが、私の『女』のかたち。
私は、あなたの『女郎蜘蛛』。
逃げられない。
抗えない。
忘れられない。
この糸は、誓い。
この毒は、口づけ。
この姿は、あなたの欲望が生んだ、私の真実。
だから、もう一度言わせて。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
——さあ、私の糸に堕ちて。
◇
変化の終わった真梨華——いや、『夜羽まゆり』を見て、カルマは思わず笑みを引きつらせた。
そこに立っていたのは、人か、妖か、女か、怪物か。
艶やかな黒髪は、腰まで流れ、その一房一房が、まるで生きた糸のように揺れていた。
瞳は深紅。
濡れたように潤み、見る者の心を覗き込むような艶を帯びている。
まるで、愛と死を同時に囁くような眼差し。
唇は薄紅に染まり、微笑むたびに、甘い毒を含んだような艶が走る。
その口元から漏れる吐息は、熱ではなく、痺れをもたらす香気。
衣装は、かつての制服の名残をわずかに残しながらも、蜘蛛の糸で編まれた漆黒のドレスへと変貌していた。
布の隙間から覗く肌は、白磁のように滑らかで、どこか冷たく、どこか熱い。
背中からは、透き通るような蜘蛛の脚が八本、しなやかに、艶やかに、空気を撫でていた。
その姿は、戦うための武器ではなく、誘惑するための舞台衣装。
「……カルマ様」
夜羽まゆりが、ゆっくりと歩み寄る。
その一歩ごとに、糸が床に滴り、空気が甘く、重く、絡みついていく。
「ご命令を。この身、この毒、この愛、すべて、あなたのために」
その声は、囁きのように柔らかく、耳元で触れるように甘い。
カルマは、思わず目を逸らした。
彼女の美しさが、あまりにも『完成されすぎていた』から。
「……やっぱり、ちょっとやりすぎたかもね」
「おはよう、世界。誰から絡めとってあげようかしら?」
目を開けた瞬間、舞台の幕が上がった。
『夜羽まゆり』は、 艶やかに、妖しく、そして堂々と起き上がる。
「命令を。欲望を。罰でもいいわ。私を使って、壊して、愛して」
両腕を広げて訴える姿は、 舞台女優のような華やかさと、毒を含んだ甘さが混ざり合っていた。
右肩の蜘蛛が、同じ仕草で腕を広げる。
右足をピンと上げ、命令を待つ姿勢。
忠実な従者であり、彼女の一部。
「ふふ……ねえ、誰か私を見て。私に溺れて。私に食べられて」
体をくねらせ、品を作る。
視線を絡め取る動きは、計算された誘惑。
左肩の蜘蛛が、くねくねと糸を出しながら、誘惑のリズムを刻む。
一人と二匹は、セットだった。
三つの人格。
三つの欲望。
三つの愛。
時折、入れ替わる。
「私は『夜羽まゆり』。魂はあなたに焦がれ、欲望はあなたを喰らい、愛はあなたに縛られる。──さあ、始めましょう?」
そのセリフは、舞台の中心に立つ者の確信。
ダンサーのような身のこなし。
女らしいラインを、二匹の蜘蛛が這う。
それは、まるで『愛の証』のように。
「……いえ、これはカルマ様の演出を超えて、本人の意思が介入した結果です。むしろ、この程度で済んだなら良いほうですよ」
しらゆきバージョンの友梨先輩が、制服をそっと着せながら答えた。
丁寧に、しかし有無を言わさず蜘蛛を追い払う。
いつの間にか、配下の妖怪たちが全員集まっていた。
『サブマスター』の誕生。
それは、儀式であり、祝福であり、警戒でもあった。
「そうなのか」
カルマは、冷静に切り替える。
セクシーになりすぎたとはいえ、制服を着せれば、『戦場の女』としての輪郭が整う。
「使えるやつであることは確信を持っている。活躍に期待するよ」
「仰せのままに。我が主に勝利を」
片膝をついたまゆりの頭を、カルマが優しく撫でた。
その手は、支配者の手であり、かつての仲間への慰めでもあった。
「明日は、朝から『復路』になる。どんな場面に出くわすか、楽しもう」
時は、深夜に入ろうとしていた。
濃密な一日が、静かに幕を閉じる。
妖怪たちは、無言で一礼し、カルマを見送った。
人間のカルマには眠りが必要。
だが、妖怪となった彼女たちに、眠る理由は、もうない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる