『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第171話 妖怪制作 ~女郎蜘蛛(真梨華)~ 後編

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 ◇完成(女郎蜘蛛・真梨華)◇

 私は、ほどけた。
 肉も、心も、名も。
 けれど、愛だけが残った。

 それは、糸になった。
 細く、長く、しなやかに。
 絡めて、縛って、溺れさせるために。

 私の髪は、夜の闇。
 私の瞳は、獲物を射抜く鏡。
 私の声は、甘く湿った毒。

 この体は、あなたのために整えられた。
 艶やかに。
 妖しく。
 完璧に。

 私は、あなたの『幸福』。
 あなたの『罠』。
 あなたの『地獄』。

 命じて。
 私を使って。
 私を望んで。
 私を壊して。
 そして、また直して。

 私は、あなたの『悦び』でありたい。

 八本の脚で、舞い踊る。
 糸を張り、心を縛り、愛を餌にして、魂を喰らう。

 それが、私の『生』。
 それが、私の『愛』。
 それが、私の『女』のかたち。

 私は、あなたの『女郎蜘蛛』。
 逃げられない。
 抗えない。
 忘れられない。

 この糸は、誓い。
 この毒は、口づけ。
 この姿は、あなたの欲望が生んだ、私の真実。

 だから、もう一度言わせて。

 愛してる。
 愛してる。
 愛してる。

 ——さあ、私の糸に堕ちて。

     ◇

 変化の終わった真梨華——いや、『夜羽まゆり』を見て、カルマは思わず笑みを引きつらせた。

 そこに立っていたのは、人か、妖か、女か、怪物か。

 艶やかな黒髪は、腰まで流れ、その一房一房が、まるで生きた糸のように揺れていた。

 瞳は深紅。
 濡れたように潤み、見る者の心を覗き込むような艶を帯びている。
 まるで、愛と死を同時に囁くような眼差し。

 唇は薄紅に染まり、微笑むたびに、甘い毒を含んだような艶が走る。
 その口元から漏れる吐息は、熱ではなく、痺れをもたらす香気。

 衣装は、かつての制服の名残をわずかに残しながらも、蜘蛛の糸で編まれた漆黒のドレスへと変貌していた。
 布の隙間から覗く肌は、白磁のように滑らかで、どこか冷たく、どこか熱い。

 背中からは、透き通るような蜘蛛の脚が八本、しなやかに、艶やかに、空気を撫でていた。

 その姿は、戦うための武器ではなく、誘惑するための舞台衣装。

「……カルマ様」

 夜羽まゆりが、ゆっくりと歩み寄る。
 その一歩ごとに、糸が床に滴り、空気が甘く、重く、絡みついていく。

「ご命令を。この身、この毒、この愛、すべて、あなたのために」

 その声は、囁きのように柔らかく、耳元で触れるように甘い。

 カルマは、思わず目を逸らした。
 彼女の美しさが、あまりにも『完成されすぎていた』から。

「……やっぱり、ちょっとやりすぎたかもね」

「おはよう、世界。誰から絡めとってあげようかしら?」

 目を開けた瞬間、舞台の幕が上がった。

『夜羽まゆり』は、 艶やかに、妖しく、そして堂々と起き上がる。

「命令を。欲望を。罰でもいいわ。私を使って、壊して、愛して」

 両腕を広げて訴える姿は、 舞台女優のような華やかさと、毒を含んだ甘さが混ざり合っていた。

 右肩の蜘蛛が、同じ仕草で腕を広げる。
 右足をピンと上げ、命令を待つ姿勢。
 忠実な従者であり、彼女の一部。

「ふふ……ねえ、誰か私を見て。私に溺れて。私に食べられて」

 体をくねらせ、品を作る。
 視線を絡め取る動きは、計算された誘惑。

 左肩の蜘蛛が、くねくねと糸を出しながら、誘惑のリズムを刻む。

 一人と二匹は、セットだった。
 三つの人格。
 三つの欲望。
 三つの愛。
 時折、入れ替わる。

「私は『夜羽まゆり』。魂はあなたに焦がれ、欲望はあなたを喰らい、愛はあなたに縛られる。──さあ、始めましょう?」

 そのセリフは、舞台の中心に立つ者の確信。

 ダンサーのような身のこなし。
 女らしいラインを、二匹の蜘蛛が這う。
 それは、まるで『愛の証』のように。

「……いえ、これはカルマ様の演出を超えて、本人の意思が介入した結果です。むしろ、この程度で済んだなら良いほうですよ」

 しらゆきバージョンの友梨先輩が、制服をそっと着せながら答えた。
 丁寧に、しかし有無を言わさず蜘蛛を追い払う。

 いつの間にか、配下の妖怪たちが全員集まっていた。

『サブマスター』の誕生。
 それは、儀式であり、祝福であり、警戒でもあった。

「そうなのか」

 カルマは、冷静に切り替える。
 セクシーになりすぎたとはいえ、制服を着せれば、『戦場の女』としての輪郭が整う。

「使えるやつであることは確信を持っている。活躍に期待するよ」

「仰せのままに。我が主に勝利を」

 片膝をついたまゆりの頭を、カルマが優しく撫でた。

 その手は、支配者の手であり、かつての仲間への慰めでもあった。

「明日は、朝から『復路』になる。どんな場面に出くわすか、楽しもう」

 時は、深夜に入ろうとしていた。
 濃密な一日が、静かに幕を閉じる。

 妖怪たちは、無言で一礼し、カルマを見送った。

 人間のカルマには眠りが必要。
 だが、妖怪となった彼女たちに、眠る理由は、もうない。

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