『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
293 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第177話 狂騒曲 ~錯綜する反響~ 後編

しおりを挟む
 

「……」

 その時、空気がわずかに揺れた。
 誰も気づかない。
 いや、気づけない。
 教師陣の中でも小柄な男が、音もなく影の中を滑るように動いた。

 彼は『隠密』のスキルを持っていた。
 かつて探索者だった頃、数多の罠をすり抜け、獲物の背後を取ることに長けていた。

 今、その技術は——『証言者の口を封じる』ために使われようとしていた。

 標的は、生存者の一人。
 まだ若い、魔術師の少女。
 彼女は、記録を持っていた。
 そして、マリカの言葉に頷いた一人だった。

 刃が振るわれたのは、ほんの一瞬のことだった。
 だが、少女がわずかに身を引いたことで、刃は命の核を逸れ、肩口を裂いた。

「きゃっ……! せ、先生が……っ!」

 その声が、静まり返った空間に響いた。
 血が床に滴る。
 教師たちの顔が、凍りついた。

「な、何を……!」

 マリカが叫ぶより早く、少女は倒れながらも杖を掲げた。
 魔力が揺れる。
 警戒の光が走る。

「記録は……残ってる……! 私だけじゃない……!」

 その言葉に、教師たちの顔色が変わった。
 誰かが息を呑み、誰かが一歩後ずさる。

「……やったのか、先生」
 別の生徒が、震える声で言った。

「本当に……やったのか……!」

 小柄な男は、何も言わなかった。
 ただ、静かに刃を拭い、元いた場所に戻ろうとした。

 だが、もう『隠密』は通じなかった。
 全員の視線が、彼に向いていた。

「お、おい。さすがにそれは……」

 一人の教師が、震える声で言った。
 目の前で生徒が傷ついた。
 それを見て、ようやく『やりすぎ』だと口にした。

 だが、隠密スキルを持つ男は、振り返りもせずに答えた。

「九割まで損耗したんなら、『全滅』でも大して変わらん! 俺たちのクビの安全度以外はな!」

 その言葉が、空気を変えた。

 教師たちの目が、静かに、しかし確かに変わった。

「……確かに、全員いなくなっていれば、報告は書き換えられる」
「記録も、映像も、残っていなければ」
「生存者がいなければ、責任は問われない」

 誰かが呟き、誰かが頷いた。
 その目には、もはや教育者の光はなかった。

 生徒たちは、言葉を失った。
 だが、空気は確かに変わっていた。

 教師と生徒。
 その間に、見えない刃が生まれていた。

「……先生たち、何を言ってるの?」

 魔術師の少女——キョウコが、血を流しながらも声を絞り出す。

「私たち、帰ってきたんですよ。生きて……!」

 その声に、誰も答えなかった。
 ただ、教師たちの視線が、冷たく生徒たちを見下ろしていた。

 マリカは、前に出た。
 その瞳は、怒りでも悲しみでもなく、ただ静かだった。

「……なら、私たちも覚悟を決めるしかないわね」

 その言葉に、生徒たちが顔を上げる。
 誰かが杖を握り直し、誰かが剣の柄に手をかける。

 殺意は、教師だけのものではなかった。
 生き残った者たちの中にも、火が灯っていた。

「……みんな。生き延びて!」

 緊迫した空気の中、キョウコが叫んだ。

 その声は震えていた。
 けれど、確かに届いた。
 仲間たちの胸に、深く。

 彼女は走り出した。
 傷口から、黒い血が滴る。
 それは、ただの出血ではなかった。

 毒か、呪いか。
 体内で魔力が暴れ、皮膚の下で光が揺れていた。

「暗殺者か!?」

 誰かが叫ぶ。 ようやく、隠密スキルを持つ教師の正体に気づいた瞬間だった。

 だが、もう遅かった。

 キョウコの体から、魔力があふれ出す。
 それは、制御された魔法ではない。
 命の残り火を、力に変えた『最後の術』。

「ごめんね……でも、これで守れるなら……!」

 その言葉とともに、光が爆ぜた。
 魔力が空間を満たし、毒の波が教師陣を包み込む。

 悲鳴が上がる。
 誰かが倒れ、誰かが叫ぶ。

 生徒たちは、目を見開いた。
 その光の中に、少女の姿はもうなかった。
 ただ、杖だけが、床に転がっていた。

「……彼女、最後を……」

 マリカが呟いた。
 その声は震えていた。
 怒りでも、悲しみでもない。
 ただ、誓いのような静けさ。

 教師たちは混乱していた。
 毒に侵され、動けない者もいた。

 その隙に、生徒たちは動き出す。

「逃げよう!」
「記録を持って、地上へ!」

 少女の犠牲が、道を開いた。
 その光は、絶望の中で確かに『希望』だった。

「——逃げろ」

 教師たちをにらみつけながら、一人の少年が仲間の背を押した。

 その声は、怒鳴りでも叫びでもなく、ただ、真っ直ぐだった。

「お前は⁉」

 振り返った仲間が、目を剝く。
 少年は、力なく首を振った。

「俺はいかない」

「なぜ⁉」

 問いは、混乱と怒りと悲しみが混ざった叫びだった。

 少年は、少しだけ笑った。
 その笑みは、どこか寂しくて、どこか誇らしげだった。

「男ってさ、惚れた女の背中を追うものだろ?」

 その言葉と同時に、少年は前へ出た。
 教師たちの前に立ち、逃げる仲間たちの背中を守るように。

 その姿が、さっき見たばかりの少女の背中と重なった。
 命をかけて仲間を守った、あの光景と。

「ばかやろう……!」

 誰かが、血を吐くように言った。
 その声には、怒りも、悔しさも、涙も混ざっていた。

 だが、誰も止められなかった。
 少年の背中は、すでに決意に満ちていた。

 仲間たちは、振り返らずに走った。
 その背中に、少年は何も言わなかった。
 ただ、静かに前を向いていた。

 迷宮の空気が、張り詰めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...