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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第176話 狂騒曲 ~錯綜する反響~ 中編
しおりを挟む「うそ……」
「なによ、これ……」
63階層まで撤退した生存者たちを待っていたのは、踏みにじられた幕舎だった。
遺体は見つからなかった。
けれど、命が失われた痕跡は、随所に残っていた。
焦げ跡。
裂けた布。
血の匂い。
そして、沈黙。
何人いなくなったのか?
むしろ、生き残りはいるのかと疑問を覚えるほどの惨状。
「下にはいなかった。上に逃げたと信じるしかないわ」
マリカの言葉に、全員が頷いた。
それは、希望ではなく、祈りだった。
先駆けや後詰を探しながら登ってきた。
なのに、63階層からの避難者を見ていない。
いるはずの者たちすら、見つけることはできなかった。
だから、上の階層へ期待するしかなかった。
そして、その期待も、すぐに失われた。
奇妙な球で固められていた双子が証言した。
「自分たち以外に、62階層へ上ってきた者はいない」
その言葉が、最後の希望を断ち切った。
『レイド失敗』。
その意味が、一人一人にのしかかる。
来たときは、266人いた。
今は、30人にも満たない。
損耗率九割。
それは、目が眩むような実情だった。
数字ではなく、魂の喪失率。
誰かが、泣いた。
誰かが、吐いた。
誰かが、黙った。
それでも、歩みは止まらなかった。
そして、ついに——彼女たちは、50階層へと到着する。
そこには、教師陣がいた。
酒の香り。
笑い声。
浮かれた空気。
生存者たちは、その空気に、言葉を失った。
だが、マリカは歩みを止めなかった。
彼女の目は、教師たちを見据えていた。
「……報告があります」
その声は、震えていなかった。
怒りでも、悲しみでもない。
ただ、事実を告げる者の声だった。
教師たちが振り返る。
その目に、まだ『現実』は映っていない。
だが、それはすぐに変わる。
「生存者はこれで全員です」
マリカの声は静かだった。
けれど、その静けさが逆に重く響いた。
まるで、判決文の読み上げのように。
「……は?」
最初に声を漏らしたのは、酔いの残る中年教師だった。
グラスを持った手が、わずかに震える。
「そんなはずはない。報告では、成功だったはずだ」
別の教師が、慌てて端末を確認する。
だが、画面は沈黙していた。
まるで、真実を語ることを拒むかのように。
「生徒たちが勝手に動いたんじゃないのか?」
「そうだ。指示を無視して、無謀な行動を取ったんだ」
「計画通りなら、こんな損耗率になるはずがない!」
教師たちは、口々に言い訳を並べ始めた。
その言葉は、まるで自分たちの責任を霧に包もうとするかのようだった。
だが、その霧は、マリカの一歩で裂けた。
彼女は前に出た。
その瞳は、冷たく澄んでいた。
怒りではない。
覚悟だった。
「計画通り? なら、誰がその計画を立てたのか、はっきりさせましょう」
「……何が言いたい?」
「地上で、法に訴えます。記録も証言も、すべて提出します」
その瞬間、空気が凍った。
教師たちの顔から、血の気が引いた。
それは、彼らにとって破滅の宣告だった。
考えてみるがいい。
生徒を一人犠牲にすることが前提の『計画』。
それを、世間が受け入れるか?
受容されるわけがない。
だから、それは校内だけの『秘密』だった。
封じ込められた真実。
見なかったことにされた犠牲。
それを、公表すると言われて——教師たちは、慌てた。
「ま、待て。そんなことをしても、誰も得をしない」
「君たちも、学校に残りたいだろう? 進路に響くぞ」
「感情的になるな。冷静に話し合おう」
その声は、次第に焦りを帯びていく。
脅しと懐柔の混ざった、醜い声。
だが、マリカは動じなかった。
「冷静に話し合うなら、地上で。記録のある場所で」
「……っ」
誰も、言い返せなかった。
その場にいた教師たちは、初めて『自分たちが見ていなかったもの』の重さを知った。
それは、失われた命の重さ。
沈黙の中で壊れていった心の重さ。
そして、見て見ぬふりをした自分たちの罪の重さ。
宴の余韻は、もうどこにもなかった。
ただ、冷たい現実だけが、そこにあった。
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