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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第175話 狂騒曲 ~錯綜する反響~ 前編
しおりを挟むその女は、身に不釣り合いな大盾を背負って歩いていた。
どこへ行こうとの意思もなく、ただ、ひたすらに歩いていた。
足音は、重い。
盾の重さではない。
胸に沈んだ問いの重さだった。
「あの人は、なぜ死んだの?」
誰に向けた問いでもない。
誰かに答えてほしいわけでもない。
ただ、胸の奥で、何度も何度も繰り返される。
死ぬことに、どんな意味があったのか。
それとも、そんなものはなかったのか。
彼女は、守るために盾を持った。
その盾は、仲間のために掲げられた。
けれど、仲間はもういない。
盾は、守るものを失った。
それでも、彼女は背負っている。
まるで、罪の証のように。
まるで、罰の形のように。
彼女の瞳は、焦点を持たない。
見るべきものが、もうないからだ。
ただ、問いだけが胸に残っている。
「あの人は、なぜ死んだの?」
その問いは、彼女自身の命を、少しずつ削っていく。
歩く。歩く。歩く。
幽鬼のように。
生きているのか、死んでいるのか。
その境界は、もう曖昧だった。
盾の重さが、彼女の背を沈める。
それでも、彼女は倒れない。
倒れることすら、許されていないように。
そこへ、声がかかった。
その声は、彼女の問いに答えるものではなかった。
けれど、彼女の歩みを、ほんの少しだけ止めた。
「こんなところで何をしているの? 撤退するわよ!」
その声は、鋭く、強く、現実を引き裂いた。
盾女は、反射的に顔を上げた。
「……サブリーダー?」
ひび割れた声が、喉の奥から漏れた。
そこにいるはずのない人物。
数人の生徒を従えた女が、まるで幻のように、目の前に立っていた。
誰なのか、確認するだけの興味はなかった。
ただ、機械的に会話をする。
それが、彼女に残された唯一の『人間らしさ』だった。
「マリカでいいわ。『レイド』は失敗。リーダーとかサブとか、もう意味がない」
「し、しっぱい……?」
その言葉に、何かが揺れた。
感情が、動いた。
自分が、まだ『人間』だったことを、思い出した。
淡々と告げられた言葉が、すぐには理解できなかった。
盾女は、思わず大盾を落としそうになり、慌ててしがみついた。
「ええ。失敗。リーダー以下、本隊は壊滅した。ともかく、生存者を集めて63階層まで撤退よ。そのあとは……地上に出て、学校側の責任を追及する!」
「地上に……え。追及する……?」
その言葉に、盾女の目に、光が戻ってきた。
漠然としていた問いが、形を持ち始める。
『なぜ、あの人は死んだのか』。
その問いに、ようやく『問うべき相手』が与えられた。
霧が晴れる。
足元が見える。
歩くべき道が、そこにある。
「……早く帰りましょう」
大盾を、背負いなおす。
その動きは、守るためではなく、進むためのものだった。
盾女は、先を促した。
もう、幽鬼ではなかった。
◇
『マリカ』は、生存者を回収しつつ、上を目指す。
まずは、63階層。
そして、50階層で教師たちに直接『レイド失敗』を報告する。
それが、与えられた役割だった。
けれど、彼女はもう『命令』で動いてはいなかった。
これは、彼女自身が選んだ『責任』だった。
同じように、役を与えられた仲間たちとともに、彼女は静かに、確かに、動き出す。
◇
63階層。
そこには、失望に気力を削がれて座り込む『先駆けB班』の姿があった。
誰もが、目を伏せていた。
誰もが、声を失っていた。
敗北の実感が、心を鈍く締めつけていた。
マリカは、何も言わなかった。
ただ、一人ひとりの肩に手を置き、「立って」とだけ告げた。
その声に、反発はなかった。
ただ、命令ではない『導き』に、誰もが静かに従った。
◇
『糸の部屋』。
そこには、予想外に長時間の放置を耐えた者たちがいた。
糸に絡まり、動けず、時間の感覚すら曖昧になっていた彼女たち。
けれど、マリカの姿を見た瞬間、涙が溢れた。
「……来てくれたんだ」
その言葉に、マリカは頷いた。
「当然でしょ」
その一言が、彼女たちの心をほどいた。
◇
そして、62階層。
フンコロガシさんのお宝にしまわれていた双子。
泥と魔力にまみれ、『物』として扱われていた彼女たち。
マリカは、そっと手を差し伸べた。
「もう、大丈夫」
その声に、双子は震えながらも、手を伸ばした。
人として、迎えられたことに、ようやく涙を流すことができた。
精神的に、大きく削られた者たち。
心を失いかけた者たち。
自分を責め続けていた者たち。
マリカは、彼らを集め、癒しながら、上を目指す。
それは、再生の行進だった。
誰もが、まだ傷だらけだった。
けれど、歩くことを選んだ。
“生き残った”という事実が、彼らを再び『生きる者』へと引き戻していく。
そして、マリカは思う。
「これは、私の役目。誰かがやらなきゃいけないなら、私がやる」
それは、かつての『サブリーダー』としての責任ではない。
今の彼女自身が選んだ、贖罪と再起の道だった。
結果がどう出るにしても。
カルマがどんな演出を考えているにしても。
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