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第17話 行雲流水 ⑤ ~手段~
しおりを挟む「その、方法とは?」
核心に近づいている手応えに、鈴音の胸が高鳴る。
声がわずかに震えていた。
「コアを利用することじゃ」
「コア?」
「さよう。くどいようじゃが、世界は巨人の血肉から生まれた。
じゃが、巨人の血肉がすべてというわけではない。いかに巨人といえど、五つの世界ほどの広がりを持っていたはずはなかろう。
そこでじゃ。各世界の中心にあり、世界を増幅し続けている巨人の血肉――恐らくは宝珠の形をとっておるじゃろうが――これを集めることができれば、再び世界の創造を行うことも可能となろう」
まるで「種を蒔けば実がなる」とでも言うように、あっさりと語る老人。
だが、種を蒔くだけでは実はならない。
水をやり、肥料を与え、草を取り、手間をかけてこそ実るもの。
宝珠を探し、世界を再構築するには、それと同じか、それ以上の手間と苦難が待っているはずだった。
すべてが未知。
その困難さを思うだけで、鈴音の心は押し潰されそうになる。
まるで、方向もわからぬまま砂漠に放り出されたような感覚。
どこへ向かえばいいのかもわからず、ただ立ち尽くすしかない。
だが、彼女は独りではなかった。
「そんなこと言ったって、その宝珠をどうやって探せばいいの? 五つの世界って簡単に言うけど、一つ一つがどれだけ広いと思ってるのよ!」
どんな壁でも体当たりしてみないと気が済まないリカートが、勢いそのままに問いかける。
老人はその勢いにも動じず、懐から五色に光る宝珠を取り出した。
「こいつは、この地上界を作るときに、神々が各世界の一部から取り出したエネルギーを固めて作ったもの。性質的にはコアと同質じゃ。コアを探すための道標としては、最適じゃろうて……」
そう言って、含み笑いを浮かべながら、老人はその宝珠を鈴音の手にそっと握らせた。
「おぬしの選んだ道は、茨の道じゃ。進めば進むほど、自分自身を傷つけるじゃろう。 じゃが、行き着く先が楽園となるか、無間地獄となるかは――おぬし次第。強く生きるのじゃぞ」
さっきまでの嘲笑が嘘のような真剣な眼差しで、老人は鈴音を励まし、そして――霞のように姿を消した。
「……俺は、どうやらとんでもないことに巻き込まれちまったらしいな」
『とんでもないこと』と言いながらも、どこか落ち着いた声と表情で、バンボラが呟く。
その視線の先には――世界そのものとも言える宝珠を託され、責任と義務の重圧に震える鈴音と、そんな彼女を優しく見守るリカートの姿があった。
戦士でも、勇者でもない。
ただの少女たち。
「……なんか、危なっかしくて見てらんねぇな。毒喰らわば皿まで、か。ここまで関わっちまったんだ、最後まで付き合ってやるか。ナイトって柄じゃねぇんだけどな、俺は」
聖地という特殊な世界は、来る者を拒み、去る者を追わない―― その言葉どおり、鈴音たちは来たときとは比べものにならないほど楽な旅程で、ノーランディアのエスティリア女神の神殿へと戻ってきていた。
目的を果たした報告と、次なる目的――他の世界へ渡る方法を知るためである。
人間界に限らず、この世界でも異界との接触は極めて稀。
神々の力によって戦いの場に引き寄せられることはあっても、自らの意志と力だけで世界の境界を越えるのは困難だった。
だが、不可能ではない。
いくつか方法はあるはず。
鈴音たちは、それを知らなければならなかった。
書物と知識を司る女神・エスティリアを奉じるこの神殿なら、その方法を記した書物、あるいは知識を持つ者がいるはずだった。
「……確かに、方法はあります。ですが、平時であっても危険が多く、まして今の状況では、死にに行くようなものですよ」
巫女頭の言葉は、予想通りだった。
鈴音ですら、最初の一言以外は聞き流していた。
危険がつきまとうのは当然のこと。
今さら強調されるまでもない。
「と、言ったところで……やめはしないのでしょうね、あなた方は」
ため息まじりに呟く巫女頭。
同時に、近くにいた若い巫女へ何事かを命じる。
命じられた巫女は、どこか寂しげな瞳を伏せ、部屋を出ていった。
ほどなくして戻ってきた彼女の手には、数冊の古びた本が抱えられていた。
鈴音たち三人は、自然とその手元に視線を集中させる。
もし後で「巫女の顔はどんなだった?」と聞かれても答えられない。
だが、「本のどのページにシミがあったか?」と聞かれたら即答できる――それほどの集中力だった。
本はどれも、黄ばみ、年季の入った古書だった。
「かつてこの地で名を馳せた偉大なる賢者が、自らの冒険を綴った記録です。この中に、地界へ渡る方法が記されています」
巫女頭が静かに説明する。
若い巫女が、恭しく本をテーブルに置いた。
「さすがは書物と知識の神を祀る神殿だな。知識に関しちゃ、なんでも揃ってやがる」
バンボラが一冊を手に取り、ページをめくる。
だが――その指と表情が、あるページで凍りついた。
「な、なるほど、こ、これは確かに“死にに行くようなもの”だと言われて当然だな」
鼻白んだ声でそう呟いたバンボラ。
だが、その言葉に深く頷いたのは巫女頭と若い巫女だけだった。
鈴音とリカートは、何が書かれているのかも分からず、血の気の引いたバンボラの顔を見つめていた。
この世界の地図表記に不慣れな鈴音と、地図の読み方を学ばなかったリカートには、 本に記された地がどこなのか見当もつかない。
だが、狩りを生業とするバンボラには、その場所も地形も、そして危険性までもが鮮明にイメージできた。
その地――それは、ある意味で聖地よりも厄介な魔術的秘境だった。
「『ストイックの魔窟』とはな。まぁ、当然といえば当然だが……やっかいなことだ」
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