異境の人 ~鈴音が紡ぐ世界~

葉月奈津・男

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第26話 呉越同舟 ② ~街~

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「町があるわ」

 鈴音が声を上げた。
 下を見ようともしないリカートとバンボラに向けて、ちょっと得意げに。
 誰よりも早く見つけたことが、ちょっぴり嬉しかったらしい。

 そのとき、アイオーンはまだ飛び立つ前。
 鈴音たちは、ちょうど背中の半分くらいまで降りてきたところだった。
 町を見つけたことで、降りるスピードも少しだけ速くなっていた。

 降下が進むにつれて、町の全貌がはっきりしてくる。
 その町は、まるで意図的に描かれたような六角形をしていて、斜めに走る大通りのせいか、どこか亀の甲羅を思わせる形だった。

 六つの角には、飾り気のない塔がそれぞれ建っていて、塔の頂上から放たれる光が町全体を包み込んでいるように見える。

「結界ね」

 塔と光を一目見て、リカートが即断する。
 というより、他に説明のしようがないというのが正直なところだろう。

 おそらく、あの結界はこの地上に吹き荒れる砂嵐から町を守るためのもの。
 上空にいたときは気づかなかったが、地上ではあちこちに竜巻が立ち、砂煙が舞っていた。

 アイオーンの尻尾は、ちょうど西端の塔に巻きついていて、そのおかげで鈴音たちは風の直撃を受けずに済んでいたのだ。

 さらに降りていくと、この町が『町』というより『市』と呼ぶべき規模であることが分かってくる。
 人口はざっと見積もっても二十万は超えていそうだ。

 赤茶けた岩を積み上げて作られた家々が、びっしりと並んでいる。
 どれも広々としていて、日本の住宅と比べたら2~3倍はありそう。
 もはや邸宅レベルだ。

 町を囲む六本の塔の内側には、ノーランデイアと同じく、主神と四大元素の女神たち、そしてこの土地ならではの『死と闇』の女神の神殿が建っていた。

 上から見下ろすと、それぞれの神殿が神の力を象徴する文字の形をしているのが分かる。

 北には主神ケイファスタン、南に死と闇の女神ツナデ。
 北東に水の女神エデューシャ、南東に地の女神マーブル、南西に火の女神アフロス。
 そして、鈴音たちが降りていく塔のすぐ隣には、風の女神エオリアの神殿があった。

 六角形の中心には、ひときわ目立つ城がそびえている。
 神殿よりもさらに威厳を放つその建物は、町の中心で唯一、煌々と灯りがともっていた。
 他の家々がすべて暗いせいで、余計に目立って見えるのかもしれない。
 それもそのはず、どの家にも窓がなかった。
 まるで、外の世界を拒絶するかのように。

「……人がいる」

 バンボラがぽつりと呟いた。
 あと数十メートルで塔の最上階に届くというところで、彼女はそれを見つけた。

 塔のてっぺん、ガラスのない展望台のような場所に、数人の人影が立っていたのだ。
 性別までは分からないが、腰に下げた剣のようなものははっきり見える。
 人数は7~8人、多くても10人はいないだろう。

「どうする?」

 鈴音が問いかける。
 風が遠くで唸り、3人の間にピリッとした空気が走った。

 塔の上に立つ人影が武器を持っているのを見て、リカートが思わず情けない声を漏らす。

「うわ、マジかよ……」

 相手が普通の剣士なら、7~8人くらいどうってことない。
 でも、それは地面に足をつけてる時の話。

 今は空中、しかも龍の背中を降りてる最中。
 もし上から剣でも投げられたら、どんな達人でも避けきれない。
 ましてや、鈴音を守りながらじゃ、かなり分が悪い。

「行きましょう」
 鈴音がきっぱりと言った。

「あたしたちを襲った妖精は、地界のラクロア族と私たちを仲違いさせようとしてた。ってことは、あの人たちは味方か、少なくとも中立。完全な敵ってことはないはずよ」

 そう言いながらも、鈴音自身、それがただの希望的観測にすぎないことは分かっていた。
 もしかしたら、こっちが油断して近づいた瞬間に、バッサリやるつもりかもしれない。

 でも、疑い始めたらキリがない。
 引き返すわけにもいかない以上、覚悟を決めるしかなかった。

 やがて、3人は展望台のような場所にたどり着いた。
 そこに並んでいたのは、全員女性の剣士たち。
 白くて裾の長い衣をまとい、胸元には何かの

 全員が同じタイミングで振り返った。
 その無音の動きに、鈴音は思わず息を呑んだ。
 紋章が刺繍されている。

「…闇の女神ツナデの紋章だな。月を覆う黒雲を模したやつだ」
 リカートが小声で解説するのを背中で聞きながら、鈴音は一歩前に出た。

 まずは挨拶。
 第一印象って大事だもんね。

 そう心の中でつぶやきながら、鈴音はとびきりの笑顔を、最後から4番目に立っていた剣士に向けて放った。
 もし相手が男だったら、たぶん一撃でノックアウトできるレベルのスマイル。
 同性にも効いてくれたらいいなぁ…と、ちょっぴり祈りながら。

「あたしは――」

「鈴音様ですね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 名乗ろうとした瞬間、まさかの先制攻撃。
 名前を呼ばれた鈴音は、思わず目を白黒させたが、すぐに気を取り直して、案内された方向へと歩き出した。

 リカートとバンボラも、何も言わずにその後ろに続く。
 うして名前を? と問いただすべきか迷ったが、今は従うしかなかった。
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