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72 お高いモノ、お安いモノ

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「かっ買っちった・・・」


営業のスズキさんの口車に乗り、人生最大級のお買い物を即決してしまったワタシ

達成感というよりは、むしろ、やっちまった感にさいなまれています

(わ~ 買っちったよ~ 一瞬にして大金使っちったよ~)
(ワタシってばこんなに豪胆だったんだ~ やばいよやばいよ~)

ん?
リアクション芸人?
充電させて?



自分の行動の大胆さというか、単純さというか、無謀さに少しおののいていると、


『お客様すいませ~ん』
『ご購入いただいた物件、取り出す際に条件がございま~す』

「え? 取り出す条件?」

『お客様すいませ~ん』
『440平方メートルの広さがないと、取り出しできませ~ん』
『ちょっと余裕を見て、21×21メートルでお願いしま~す』


そんな営業のスズキさんの声を聞き、すぐに現実に戻るワタシ

(大金はたいて買ったモノが使えませんでした、なんてことだけは避けなければ)

ということで、早速行動に移ります


「ねえクロちゃん、この中洲に広くて何もない場所ってないです?」

クロエ「ん? クロちゃんってアタイのこと?」

「ですです」
「それで、木とかがなくて、かなり開けたところ、知りませんです?」

クロエ「う~ん、ここみたいに、舟が着けられる砂浜付近にはないね」
クロエ「基本的に砂や土のところは木とか生えてるし」
クロエ「ゴツゴツしていてもいいの?」

「とりあえず広くて何もなければ、問題ないのです」

クロエ「なら、あそこに見える岩場かな?」
クロエ「あの上には草木も生えないから何もないし」


クロちゃんが指さしている場所は、ワタシたちが今いる砂浜チックな場所より、

2~3メートルほど上の、ちょっと小高い丘っぽい所


今はもうすぐ真っ暗になってしまいそうな時間帯

薄暗い中を急いでその岩場まで移動です


「急に移動だなんて、どうしたの?」

「今晩の寝床を確保なのです」

ジェニー姐さんからのツッコミを軽くいなしつつ、無事に目的地の岩場に到着

本当に何もない、ゴツゴツとした岩だけの場所でした

(薄暗くてよく分からないけど、何もないよね?)

そんなテキトーな状況確認の後、早速購入したお家を取り出します

「マイハウス、かも~ん!」

(カモナマイハウス?)

ん?
江〇チエミ?
へいせいジャンプ?



そして目の前に現れる、真っ白な総コンクリート造りのお家

現れたのは、それだけではありません

お庭もあるし、駐車スペースも、その横には100人乗れちゃう物置もあります

(うんうん、いいんじゃない?)
(ちゃんと敷地全体が収まってるね)

そんなことをひとり考えている間、ワタシ以外のみなさんは、

薄暗闇にそびえたつ見知らぬ白い人工物を、ただ呆然と見上げているだけなのでした



「ね、ねえ、これはなに? 一枚岩をくりぬいた、砦かなにかなのかしら?」

白く塗られたオールコンクリート製のお家をただただ見上げていた皆さん

その中で、ジェニー姐さんがいち早くフリーズから復帰したようです

「これはワタシのお家なのです!」

「お家?」

「ですです」
「今晩お泊まりする場所なのです」
「もちろん、みなさんも一緒ですよ?」

お姉ちゃんズ「「「え?」」」


驚いている皆さんを放置し、誰向けか分からないお家紹介をスタートしたワタシ

「今日、お伺いするお宅はこちら、スキニーちゃんのお家です」
「いいですねぇこれ、この玄関、実に素晴らしいですね~」
「なんとも重厚感がありながらデザインがモダンで・・・」

こんな感じで、某【渡辺○○の建もの探〇】チックに、いい声でいろいろ解説し始めたワタシ

でも途中で言葉が続かなくなってしまいました

(あそこまでつらつらとお家を褒め倒すのは、ワタシには無理かも)
(ていうか、アレは大げさすぎて、もはや悪ノリレベルだよね?)
(下手すると、お庭の犬小屋にあるエサ入れまで褒めだすでしょ? あのお髭のおじさん)
(そんなよいしょにまんまと乗っかっちゃう家主も、ちょっと痛々しいし・・・)

ということで、ワタシのお家自慢は一旦中止

同じ渡辺でも【完〇!ド〇ームハウス】ぐらいに抑えておきたいと思うワタシなのでした

ん?
赤信号?
リーダー?
待たせたな?



「まあ、お家の詳細はおいおい説明していくとしてですね?」
「とりあえず大切なことだけ先にお伝えしちゃいます」
「ワタシのお家は土足厳禁! これは絶対です!」
「玄関でお靴は脱いでくださいね?」

そんなこんなで、みんなで玄関に近づいてお家の中に入ろうとしたとき、

目線の先に、薄暗くて細かくは分かりませんが、中洲の様子が目に入ってきました

この岩場はちょっと小高い場所なので、中洲の様子が少し見渡せるようです

(結構広いですね~、この中洲。BIGEGGドーム数個分はありそうなのです)

ん?
もうその愛称は使っていない?



薄暗いのでよくわかりませんが、林や草原的なモノ以外、人工物は何もないように見えます

そこで、素朴な疑問を聞いてみます

「この中洲、お家とか小屋とか、建物はないんです?」

クロエ「そういうのは見たこと無いな~」

「建築禁止なんです?」

クロエ「禁止なんて話は、聞いたことないな~」
クロエ「たぶん、建物を建てられないんじゃない?」
クロエ「重いものとか大きいものとか、材料をここまで運んでこれないし」

「舟で運んでこれないんです?」

ケイト「この付近は、水深がかなり浅いの」
ケイト「だから大型船が運行できないでしょ?」
ケイト「それで、大きな資材とかを搬入できないみたいなの」

「建築資材を運べないから、建物がないんですね?」

プリシラ「それ以前に、何かを建設するメリットがここにはないのですわ」
プリシラ「この中洲には私達のような採取者しか来ませんもの」

クロエ「ここに来るのはみんな、アタイらみたいな女の採取者ばっかりだしね」

「つまり、誰もここにお金をかけて何かしようとは思わない、ということです?」

ケイト「そういうことです」


ついでとばかりに、なぜ、女性の採取者ばかりなのか聞いてみると、

腕に覚えがある採取者は、危険でも、より儲けが期待できる場所へ赴くようで、

ダンジョンのように一攫千金が狙える場所は腕力自慢の男性の採取者が多いそうです

反対に、この中洲のような、安全でも一攫千金は望めない場所は、自ずと女性の採取者が多くなるようです


そんな会話をした後、まずはワタシだけ先行してお家に入ります



【LED懐中電灯 250円】


【単4電池 4本 100円】


その場で購入したちょっと大き目の【LED懐中電灯】を片手に、目的の場所まで一直線

勝手知ったるなんとやら

その目的の場所は、玄関入ってすぐの階段下の狭い納戸

そこに設置してある、お家の電源分電盤の大元に電源を接続します



【家庭用無停電電源装置 クレバーUPS 4800VA 299,900円】

【電気使用料 100V 30A電力 259kWH 5,997円】


これでお家全体に100Vの電気がいきわたり、照明が使えるようになりました

電源の確保が終わったら、ジェニー姐さんやお姉ちゃんズ3人をお家に招き入れます



【スリッパ メッシュ素材 950円】


みんなに玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えてもらい、お家の中をざっくり案内しますが、

細かい説明は明日以降ということにして、とりあえず今晩の寝床をどこにするか決めてしまいます


クロエ「アタイ、一番上のところがいい!」

「ロフトスペースです?」

ケイト「あそこ、ロフトスペースというんですね?」
ケイト「空に浮いているみたいで、素敵な場所でしたね」

プリシラ「私達は3人同じ場所でお願いしますわ」

ということで、お姉ちゃんズ3人は2階から螺旋階段を昇ったロフトスペース

(もう、3階と呼んだ方が早いかもね)
(それにしても一番上ですか。クロちゃん、わんこっぽいチョイスだよね)
(煙と何とかは高い所、なんてことはない、よね?)

そんな失礼なことを考えていると、

「スキニー、私は落ち着いたところがいいわ」

ジェニー姐さんのご要望です

「落ち着いたところです?」
「それじゃ、2階にある和室ですかね」
「ちょっと小上がり風の畳敷きになっていて、いい雰囲気の安らぎスペースですよ?」

「そうなの? たたみじき? というのはよくわからないけど」
「それじゃ、そこにしましょうか」
「もちろん、あなたもいっしょよ?」

そんな感じで、2階の和室にワタシとジェニー姐さんが泊まることになりました


そして、お姉ちゃんズ3人の寝具をどうしようか悩んだのですが、

クロちゃんがロフトスペースの薄っペラい絨毯を指さして、

クロエ「床に敷物もあるし、これだけで十分ありがたいよ」

そんなクロちゃんの健気さに心打たれてしまったワタシ

ちょっとサービスしちゃうことにしました



【エアリあるマットレス シングルサイズ 16,800円】


これはアレです。ワタシが使っていた通気性抜群な高反発マットレスです

このマットレスに寝転がると、まるで雲の上に浮いているような感覚になる、そんな寝具です

運動不足のためか、たまに腰痛に悩まされたことがあるワタシ

普通のお布団やマットレスでは、腰が痛くて眠れないこともありました

それが一変したのは、この高反発マットレスを使い始めてからです

お尻が当たる部分はしっかり凹み、腰のところもしっかり支えてくれるので、

背骨のS字が程よく保たれ、腰痛であってもぐっすり眠ることができました

(通気性も抜群で、真夏でも背中とか全然熱くならないんだよね~)



早速3つ購入して、お姉ちゃんズ3人に渡します


クロエ「うひょー、なんだかフワフワ浮いてるみたいな寝心地じゃん!」

ケイト「こんなに薄いのに、しっかり反発力があるのですね」

プリシラ「それにこの軽さ。信じられませんわね」


お気に召してくれたみたいで、何よりです


その後、

「ねえ、スキニー、私もアレで寝てみたいわ?」

というジェニー姐さんのおねだりがあったりなんかして、

結局、私も含めて全員分の【エアリあるマットレス】を購入したのでした


ちなみにこのお家、中古物件なので、照明やら家具やら家電やらは、一式揃っています

不動産屋さんのモデルハウス的な感じだったので、けっこうオサレな感じ

買ってすぐ使い始められるのが、とてもありがたいです



そして翌朝、

朝食からお姉ちゃんズ3人にワタシの本気、見せつけちゃいます

ん?
生き残りたい?
らいおん?



「みんな~、朝食ですよ~、食堂に集合~」

お姉ちゃんズ「「「は~い」」」


2階のLDKからロフトスペースのお姉ちゃんズ3人に呼びかけます

今日1日で、ワタシの持っているモノが商売的に有効であると証明します

(商売なんだから、コストパフォーマンスも考えないとね?)

いくら良いモノ、美味しいモノでも、お高いモノばかりでは商売として成立しません

(今日は、その辺も重視しちゃうぞい!)


そんな感じで、商品のプレゼンを兼ねて、早速朝食の用意です

朝はお安い軽食で攻めてみます



【サンドイッチセット 2人前 200円】


これはアレです。いつものスーパーの閉店時間間際の安売り品です

たしか定価は550円だったはずです

ちょっと小さめの長方形のサンドイッチがたくさん入っているヤツで、

たまごサンド、野菜サンド、ポテサラサンド、ハムレタスサンドといったヘルシー系と、

とんかつサンド、メンチカツサンド、コロッケサンドといったガッツリ系も入っています

これ一つで充分にお腹いっぱいになる、かつ、栄養バランス的にも朝食にはもってこいのヤツです

(生モノだから、消費期限の関係で、閉店間際は値下げ率凄いんだよね~)


続いて、菓子パン・惣菜パンもご用意します



【菓子パン パンケーキ マーガリンサンド 2組入り 52円】

【菓子パン ミニクリームパン 6個入り 50円】

【菓子パン いちごジャムパン 55円】

【菓子パン 銀のエクレア 70円】

【菓子パン メロンクリームロール 65円】

【菓子パン ロールケーキ バニラ 5切れ 49円】


【惣菜パン テリヤキバーガー 70円】

【惣菜パン チーズバーガー 70円】

【惣菜パン ピリ辛チョリソードッグ 65円】

【総菜パン たまごサンドロール 65円】

【総菜パン コロッケサンドロール 65円】

【総菜パン メンチカツサンドロール 65円】

【総菜パン 焼きそばロール 52円】

【総菜パン ナポリタンロール 52円】

【総菜パン カレーパン 60円】


菓子パンと総菜パンも、消費期限が翌日に迫ったヤツを半額で購入したヤツです

どうせすぐ食べてしまうので、ワタシ的には全然問題なかったです

(むしろ、半額ディスカウント、あざぁ~っす!)



当然お飲み物もご用意



【昼の紅茶 微糖 500ml 68円】

【お野菜フルーツミックス 900ml 78円】


お飲み物は、100円ショップの紙コップでサーブします


コストパフォーマンス重視で、こんな感じのラインナップにしてみました


(原価の5倍ぐらいの売値にすれば、お姉ちゃんズ3人にお給料払えるかな?)

そんな考えのもと、ワタシのざっくりした計算は、

 原価+諸経費+お姉ちゃんズ3人のお給料=原価×5

これが売り出し予定価格です



そんなことを考えならが、全ての商品をLDKの6人掛けテーブルに取り出し、お食事開始です

「みんな~、お食事ですよ~」
「全部商品として売る予定のモノなのです~」
「いろんなものを食べてみてくださいね~」

クロエ「すげぇ豪華じゃん」

ケイト「たくさんの種類があるのですね」

プリシラ「ペラペラした袋に入っているのですわね」


ひとりビニール包装にご注目していましたが、みなさん食べ始めました

そしてしばらく、寡黙なモグモグタイムが続きましたが

「スキニー、いつものアレはないの?」

ジェニー姐さんがワタシに問いかけてきます

またもや大型わんこの上目づかいです

この表情をされると弱いワタシ

ということで、

「あー、いつものアレですね? 今出しますです」



【コンピニせぶん ふんわりたまごサンドイッチ 250円】
【コンピニせぶん しゃっきりサラダサンドイッチ 220円】
【コンピニせぶん セルフサービスなコーヒー 100円】
【桃の缶詰 プルタブ式 100円】


いつものジェニー姐さんの朝食スペシャルです

「うふっ♪ ありがと♪」


コソコソとふたりでそんな会話をしていたら、

クロエ「あ~、姐さんだけなんかずりぃ~」

目ざといクロちゃんに見つかってしまいました

ケイト「いいな~、いいな~」

プリシラ「羨ましいですわ」

「・・・」

結局みんなの分も追加で購入したワタシ

(弱いな、ワタシ・・・)
(それにしても、朝からみんな、よく入るよね~)

みんなの食べっぷりを見ているだけでお腹いっぱいなワタシなのでした



そしてみんなが落ち着いてから、感想の聞き取り開始です

「それで、どうです?」
「朝食に出した軽食、美味しかったです?」

クロエ「うまかった~」
クロエ「みんなうまかった~」

ケイト「とても満足でした」
ケイト「特に甘いもの♪」

プリシラ「朝食にしては、かなり豪華でしたわ」
プリシラ「それに食べたことがないものばかりでしたわ」

「これなら商売になるでしょ?」

クロエ「もちろんだよ~」

ケイト「お値段と客層次第でしょうけど」

プリシラ「そのあたり、お嬢はどの様にお考えですの?」

(あれ? ワタシの呼称、【お嬢】で確定なんだ)

「えっとですね、お客さんのターゲットは昨日お話した通り、女性です」
「そして支払いは簡単にしたいので、お値段は小銀貨1枚に統一したいです」
「具体的には、サンドイッチセットと飲み物で小銀貨1枚」
「菓子パンと総菜パンは好きなの3つと飲み物付きで小銀貨1枚」
「こんな感じで考えています」

クロエ「朝食に小銀貨1枚なら、普通かな~」

ケイト「内容を考えれば、かなりお得だと思います」

プリシラ「私なら毎日利用したいですわ」

お姉ちゃんズ3人からは好感触です

あとはお目付け役のご意見を聞いてみましょう

「ジェニー姐さんのご意見は?」

「そうね~、商品に問題はないし、商売になると思うわ」
「まあ、来客数次第でしょうけどね」
「それと支払いを簡素化するのはいいと思うわよ」
「そういう細かい手間が、実際に商売をする時に割と大きいのよね」

「それじゃあ、合格です?」

「ええ、もちろん」

「やったー!」


ということで、ワタシのプレゼン第一弾、朝食向けの軽食は合格点をいただきました


(それにしても、昨晩から、お金の桁が、わけわかりません・・・)

何千万円のお家を買ったり、何十円の商品で儲けを考えたり、

金銭感覚がおかしくなるワタシなのでした

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