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エピソード1 タイムリミットは44週
6、桔平、全力の拒絶
しおりを挟む昼休み開けの最初の授業は体育だった。しかも男子はマラソンでくたくたになるまで走らされる。
授業が終わり更衣室へ向かおうとする桔平の前に、ジャージ姿のリムルが飛び出してきた。
「桔平さん、マラソンお疲れ様です。これ、冷たいタオルです。それからレモンの砂糖漬けも作っておきました。どうぞ!」
差し出される冷たいタオルも、レモンの砂糖漬けにも桔平は手を伸ばさなかった。そのままリムルを無視して素通りする。
それでもリムルは負けなかった。
「まだまだこれからですもんね」
体育が終わった後の授業は英語だった。マラソンの疲れもあって桔平はうとうととしてしまう。
もちろん居眠りをしかけていたのは桔平だけでなかったのだけど、運悪く教師の目についてしまった。
「そこ、今言った問題、答えは何だ?」
桔平を指し意地悪く説明する。答えられないと分かっていてねちっこく尋ねる。
「簡単な問題だろ? ちゃんと授業を聞いてたら分かるはずだぞ?」
この教師の質の悪さは皆知っているから、不運な桔平を気の毒そうに見つめる。
そんな中、リムルが右手を上げる。
「せ、先生、質問です!!!」
元気に質問をする生徒なんてあまりいない。しかもそれがなかなか可愛い女の子と知り、
教師は目尻を下げる。
「おっ、どこだ?」
おかげで、桔平への追求も終わりになった。
授業終了後、リムルは笑顔で桔平の元へやって来る。
「大変でしたね、桔平さん。あ、桔平さんがうとうとしていた間の授業の内容はノートに取っておきました。良かったらどうぞ」
もちろん桔平はノートを受け取らなかった。
それでもへこたれることなくリムルの攻めは続いた。
「桔平さん、一緒にゲームやりましょうよ。桔平さんのしているゲーム、わたしもけっこうやり込んできたんですよ!」
携帯ゲーム機を持って休み時間に桔平の机にやってくる。桔平にそっぽを向かれると今度は情報誌を引っ張り出した。
「桔平さん、この占いを見てください。桔平さんとわたしの相性って抜群なんですよ! 運命ってのを感じませんか?」
さらに続いた。
「桔平さん、編み物をしようと思うんです。何か欲しい物はありますか? わたし、桔平さんのためなら何だって作っちゃいますよ!」
さらにさらに続いた。
「桔平さん、わたし、お菓子作りも得意なんです。桔平さんの好きなお菓子を明日作って持ってきますね?」
どんな桔平に無視され続けても、リムルは笑顔で桔平に関わり続ける。
「桔平さん、桔平さん、桔平さんってば!」
授業の最後を知らせるチャイムが鳴り響いた。二年A組は化学だったから、教室ではなく別の化学教室でその音を聞く。
教師に挨拶をした後、桔平はさっさと化学教室を出る。このまま帰宅してしまえるように鞄も持って来ていたからそのまま玄関を目指した。
「おい、待てよ桔平」
後ろから呼び止められる。追いかけてきたのは海斗だった。
「なあ、桔平。お前、いくら何でも璃夢瑠ちゃんに冷たすぎるんじゃないのか?」
璃夢瑠ちゃんと呼ぶあたりから考えて、屋上での交流で海斗もリムルと仲良くしまっていたようだ。
「そりゃ、お前にも好みってのがあるだろうし彼女がどうも強引すぎるってのも分かる。それにしたってちょっと邪険にしすぎだぜ。今は付き合う気がなくなって、普通に友達付き合いから始めればいいじゃないかよ」
「海斗は状況を何も知らないからそんなこと言えるんだよ」
不満気に桔平は言う。
「あんな死神と仲良くなんてできない」
「お前まだそんなことを」
海斗が呆れてため息をつく。
「とにかくオレは行くよ。早くしないとあいつが来るから」
海斗にそう言い放つと、桔平は足早に玄関を目指す。
海斗の気持ちは十二分に理解していた。桔平だって事情を知らずに傍目から見ていたら同じ感想を抱くはずだ。
別にリムルと友達付き合いができないわけじゃない。彼女にさえしなければ刈り取りの条件は満たされないのだ。
でも、相手は自分の魂を虎視眈々と狙っている死神だ。友達付き合いなんてできる心の広さは桔平にはなかった。
階段を1階まで下り、正面玄関へと続く廊下を歩いていく。あと少しで下駄箱といった時だった。
「待ってましたよ。桔平さん」
目の前に立っているのは他ならぬ死神リムルだった。
「お前、どうして?」
「桔平さんが鞄を持っていたから教室に戻らずに帰るんだなって思ってたんです。だからわたしも鞄を用意しておいたんです」
真新しい学生鞄を持ち上げて見せる。
どうやら別の階段を使って1階まで降りてきたようだ。だからここに来るまで出会わなかったのだろう。
「さ、一緒に帰りましょ。もし良かったらどこかでお茶でもしていきませんか? 大丈夫です、おごってもらおうなんて考えてませんからな。経費としてある程度のお金が支給されてるんです」
「…いい加減にしろよ」
くぐもった声が桔平の口から漏れる。
「え?」
「いい加減にしろって言ったんだ!」
桔平が叫んだ。玄関に来ていた生徒達が何事かとこちらに注目を向ける。
「ハッキリと言っておくぞ! 何をしようが! どんなアプローチをしようが! オレはお前の彼氏になんてならない! 絶対にだ!」
勢いづいた桔平は、感情のおもむくまま言葉をぶつける。
「オレは、お前のことが大嫌いなんだよ!!!」
その声は、1階中に響き渡った。
「ひどい男!」
「身の程知らずよね」
「女の子にあんなこと言うなんて」
ヒソヒソと非難の声があちこちで囁かれる。
「桔平…さん」
さすがにこの言葉はこたえたのか、リムルは泣きそうな顔になる。
桔平の胸が締め付けられるように痛くなる。強い罪悪感の痛みだった。
「くそっ」
その場から逃げるように、桔平は走り出す。外履きに履き替えることもせず、上履きのまま外へと飛び出した。
一刻も早くこの場から逃げ出したいと、桔平は全力で走り続けたのだった。
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