デスらば! ~かわいい死神少女が言い寄ってくるけど、OKしたらオレ、即死亡らしい~

夏のスイカ太郎

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エピソード2 きもだめしの夜に彼女は

1、きもだめしをしませんか?

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 梅雨真っ盛りの六月の半ばだった。幸い今日は雨は降ってはいないが、それでも空はどんよりとした雲に覆われている。
 薄暗い校舎の廊下を、リムルは一人歩いていた。二時間目の休み時間だった。
彼女にしては珍しく、真剣な顔つきで悩んでいる。

「何かないですかね? こう、桔平さんとの仲を進展させるいい方法が」

 リムルがこの学校に転校? もとい潜入してからすでに一カ月近くが経過している。持前の明るい性格のおかげで今ではすっかりクラスに溶け込んでいる。

 桔平との怒涛の愛を目指すべく、いつも一緒にいることを心掛けていた。リムルの人間界での自宅は桔平の暮らすマンションのすぐ近くのアパートだ。いつも桔平と一緒に登下校をしている。

 わりと仲良くしている友達レベルには達したとリムルは思っていた。問題はここからだ。
 さらなる一歩を進ませるためにはどうすべきか、リムルはそれを真剣に考えていたのだった。

「何かないですかね。桔平さんとの仲を進展させるスペシャルな方法って」

 リムルが考え込んでいる時だった。廊下で立ち話をしていた女子生徒達の会話が耳に飛び込んでくる。

「ねえ、聞いた?」
「ええ、聞いたわ。あそこでしょ? 出るんだってね。怖いわ」

 何だか面白そうな話だとリムルは思った。もともと人みしりなんてものはしない質だ。何の躊躇いもなく女子生徒に話しかける。

「一体何のお話ですか?」

 突然首を突っ込んできたリムルに少々驚きながらも、そこは噂好きの女子だ。張り切って説明をしてくれる。

「旧サークル棟よ。あそこがヤバいらしいのよ」

 古河岸高校の敷地の端には古いサークル棟がある。十年程前に新しいサークル棟ができ、今では倉庫と化している建物だ。
 夏休みに取り壊される予定らしい。

「最近、夜にあの近くを通りかかると奇妙な物音が聞こえるって噂なのよ。窓際に立つ不気味な人影を見たって話もあるし。どう考えたってこれよね」

 女子生徒は、胸の前で両手をダランと垂らして見せる。
 話を聞いていたもう一人の女子生徒は怯えた表情で言った。

「ででで、でも夏休みに取り壊しになるからそれで終わりだよね? ね?」
「分からないわよ。居場所を失った霊は今度はこの校舎に引っ越しをしてきたりして」
「いやあああああ」

 友人を怖がらせて喜んでいる時だ、次の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響く。

「いっけない、教室に戻らないと」
 
女子生徒はリムルに顔を向ける。

「そういうことだから、あなたも旧サークル棟には近づかないようにね。取り壊しに怒ってる幽霊の餌食になっちゃうかもしれないわよ」

 女子生徒達が自分の教室へ戻っていく。リムルも早くA組の教室に戻らなくちゃならないはずなのに、足を止めたままだった。

「旧サークル棟、幽霊」

 その言葉を口にしてから、瞳を輝かせる。

「それです!!!」




「きもだめしをしませんか!?」

 元気よくリムルは提案した。

 時は昼休み。桔平にリムル、海斗にこずえというおなじみのメンバーでリムルの作ってきた弁当を囲んでいる。

 珍しく雨が降っていないということで、屋上へと来ていた。梅雨が始まってからは校舎一階の休憩スペースを利用していたから、開放感ってのを感じる。

「きもだめし?」

 好物の鳥のから揚げを頬張りながら、桔平が尋ねる。

「どこで?」
「もちろん、最近何かと噂になっている旧サークル棟ですよ」

「ああ、あそこか」

 どう噂になってるかは知らないけれど、旧サークル棟のことなら知っている。中に入ったことはないけれど、不気味な建物だなって常日頃から思っていたのだ。

「今度の夏休みに取り壊されちゃうらしいですし、きもだめしをするなら今のうちです! これがラストチャンスなんです!」

 熱っぽく語るけれど、桔平はそこまで熱くなれない。

「そんな面倒臭いことしなくたって、怖いのが好きならホラー映画のDVDでも借りればいいだろ? 大体子供じゃないんだしきもだめしなんて」

 馬鹿らしいと鼻で笑う桔平だけど、賛成の声も上がる。

「いや、面白そうじゃないかよ桔平」

 海斗だった。

「あのサークル棟って見るからにアレだろ? いろいろと噂もあるし、雰囲気抜群じゃないか。きもだめしするにはもってこいだと思うぞ」

 饒舌に海斗は続ける。

「どーせ取り壊しになるなら、一度くらい中を覗いてみるのも面白いと思うぜ。な、せっかくだしやってみないか?」

「アタシも賛成だわ」

 塩むすび片手にこずえが頷く。

「梅雨で部活も休みになりがちだし、気分だってどんよりしてたのよ。きもだめし、面白そーじゃない」

「どうだ? 桔平。お前だけ参加しないってことはないよな?」

「でもな、丁度やりかけのゲームもあるし」

 まだまだ不満気な桔平に、海斗はははあと息を漏らした。

「なるほど、桔平。お前怖いんだろ?」

「なっ!?」

「怖いから何かと理由をつけてサボろうとしてるんだろ? ああ、分かった分かった。そういうことなら無理じいはしないから。きもだめしはオレ達だけで」

「冗談じゃないぞ!」

 心外とばかしに桔平は叫ぶ。

自分の命を狙う死神にベッタリと張り付かれてもなお取り乱すことなく生活しているのだ。だからこそ、きもだめしごときを怖がっていると思われるのは我慢ならなかった。

「そんなのが怖いはずないだろ?」

「言ったな? じゃあ参加するだろ?」

「ああ、するさ。してやろうじゃないか」

 桔平は大きく頷いて見せる。

「じゃあこれで決まりですね!」

 待ってましたとばかりにリムルが口を開いた。

「早速今晩なんてどうですか? あんまり遅くなるとあれですから、夜の八時半に旧サークル棟前に集合ってことで。あ、人数分の懐中電灯はわたしの方で用意しておきますから心配いりません」

 畳み掛けるように言う。

「ああ、楽しみですね」

 満面の笑みを浮かべ、リムルはそう呟いたのだった。

 ★

「海斗さん、本当にありがとうございました!」

 昼食も終わり教室へと戻ってくる。桔平がトイレに行くと教室を出ていった直後、リムルは海斗の席へと向かう大きく頭を下げた。

「スーパーアシストでした。海斗さんの言葉がなかったら、桔平さんなかなかきもだめし参加をOKしてくれなかったと思います」

「まあ、桔平とは付き合い長いし。あいつをその気にさせるのなんてワケないけど」

 海斗が苦笑する。

「だけど、どうしてそこまでしてきもだめしを?」

「もちろん、桔平さんとの仲を進展させるためです!」

 リムルは拳を固めると熱い表情で宣言する。

「何かの雑誌で読んだことがあるんです。人間は恐怖心のドキドキを時に恋愛のドキドキと勘違いしてしまうことがあるって。吊り橋効果っていうらしいですね。そういうことから考えても、きもだめしは最適なんです」

「なるほど…ね」

海斗は苦笑した。

「璃夢瑠ちゃんの気持ちは分かるけど、うまくいくかどうかは分からないぜ。桔平は特別怖がりってわけじゃないんだし」

「だからこその旧サークル棟なんです。今は本物ががんばってくれてるらしいので、そこに期待です」

「本物ね。まあ、最近何かとウワサになってるみたいだけど」

 海斗が微妙な表情を浮かべる。はなっから幽霊なんてものは信じていない現実主義者なのだ。

 まさか目の前にいるこの能天気な美少女が友人の魂を狙っている本物の死神だなんてことは想像だにしていない。

「ま、乗りかかった船だ。俺も引き続きアシストするぜ」

「ありがとうございます!」

 感謝感激雨あられでリムルが大げさにお礼を言う。

「それで、璃夢瑠ちゃん。本番でなんだけど、四人で回るつもりじゃないよな?」

「はい、より吊り橋効果を期待できるようにペアに分かれたいと思います。もちろん、桔平さんとわたしのペアで」

「ペア分けはどうやって?」

「何となくですけど」

「そっか」
 海斗は少し考える。

「桔平のことだからな。璃夢瑠ちゃんがペアになろうって言っても、照れくさがってなかなかOKしないかもしれないな」

「あっ、そーですね。じゃあ、こずえさんにも相談してうまく立ち回ってもらうってのは?」

「こずえか。喜んで協力してくれるとは思うが、あいつに演技なんて絶対に無理だな。桔平に怪しまれて終わりのような予感がするぜ」

 しばし考えてから、海斗が口を開く。

「俺にちょっと考えがあるんだけど」

「何ですか?」

 身を乗り出してくるリムルに、海斗は少しだけ声を潜め説明した。

「まず、俺がこう提案するんだ。せっかくだから男女ペアにならないかって。それから…」
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