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生徒会長は赤鬼美少女
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埼玉県の南に位置する、ふしみ市。
晴れやかな朝の空の下、学生服姿の一人の若者が歩いていた。
ひょろりとした体型の若者だ。お世辞にもたくましいとは言えない。柔和で少々気の弱そうな顔立ち。もじゃもじゃとはいかないまでも、もじゃ…ぐらいにはなっている天然パーマの髪の毛が特徴的だった。
若者の名前は、高梨倉之助。ふしみ市の住人で、市内にある前殿高校の生徒。学年は二年生だった。
「ふわあああ」
だらしのない欠伸をしながら倉之助は、学校への道を歩く。
辺りには同じ高校の生徒達の姿がチラホラと見え始めていた。
その中には、少々変わった外見を持つ生徒もいた。色合いに差はあるが、赤や青や緑や黄色の髪の毛。金色の瞳。そして最大の特徴は頭から生えた角だった。
彼らは鬼、もしくはその血を引く者達だった。
かつては異形と恐れられた鬼達だが、今では大して珍しくもない存在となっている。
鬼が自らを大々的にカミングアウトし人間社会へと姿を現してから早くも70年近くが経過していた。鬼達はすっかり人間社会に溶け込み、人間との混血も進んでいる程だった。
倉之助が通う前殿高校も、生徒の五分の一は鬼、もしくは鬼の血を引く者達だったりする。
やがて、倉之助は校舎へと到着する。校門を通り昇降口へと向かっていた時だった。
「あ、ちょっと君。いいかな?」
一人の男子生徒に声をかけられた。ヒョロリとした背の高い男子生徒だ。髪の毛の色は黒。瞳も金色には輝いておらず、頭から生える角もない。人間の生徒だ。
「はい?」
足を止めた倉之助に、男子生徒は申しわけなさそうな顔をして言う。
「悪いんだけど、ちょっと荷物を運ぶのを手伝ってくれないかな? 先生に頼まれて校舎裏の倉庫から教材を出さなくちゃいけなくって」
「えっ、でも僕は…」
「君の言いたいことは分かるよ。力仕事なら鬼の血を引いてる生徒に頼めばいいって思ってるんだろ? 彼らの方がずっと力持ちだからね」
男子生徒は苦笑しながら言う。
「情けない話なんだけど、自分はどうも鬼が苦手なんだ。転校前の学校には鬼の生徒はほとんどいなかったから。いや、すごく怖いって程じゃないんだよ。今のご時世、テレビをつければ普通に鬼のアイドルやタレントが活躍してるぐらいだし。ただ、ちょっと慣れてなくってね」
男子生徒は片手拝みで倉之助に頼む。
「お礼はちゃんとするから。購買のパン一つでどう? 何だったらジュースも付けるから」
ここまで真剣に頼まれると、どちらかと言えばお人良しの倉之助はもう断れない。
(別に急いでもいないし。少し手伝おうか)
倉之助は頷いて見せる。
「分かった。僕で良ければ手伝うよ」
「本当かい? ありがとう。それじゃ一緒に来てくれ」
歩き出す男子生徒の後を倉之助は着いて行く。校舎をグルリと迂回するようにして歩いた。
たどり着いたのは校舎裏の倉庫だった。薄暗く陰気な場所。もう他の生徒の姿はない。
重そうな鉄の引き戸を男子生徒が開く。
「さあ、入ってくれ」
言われるがまま、倉之助は倉庫の中へと足を踏み入れた。前殿高校に通って一年以上になるが、この倉庫に入るのは初めてだった。
すでに電灯はつけられていた。倉庫内には、今はもう使われなくなった机や椅子等が積み上げられている。
倉庫内に置かれた物を見て、倉之助は疑問を覚える。
(あれ? 教材なんてどこにもないじゃないか)
「くくくくく」
すぐ後ろで笑い声がした。振り向くと、男子生徒が何故か扉を閉めている。
「本当、お人良しで助かったぜ」
その言葉を合図としたように、物陰から別の男子生徒が二人、姿を現す。
青みがかった髪と黄みがかった髪。それぞれの頭からは短いながらも二本の角が生えている。
純血ではないが、それぞれ青鬼と黄鬼の血を引いているのは明らかだ。鬼ハーフ、いや、鬼クォーターといったところだろう。
「俺達、病気なんだ」
「そう、いわゆる金欠病ってやつ」
「悪いけど、少し恵んでくれないか?」
「少しって言っても、お前の財布の中身全部だけどな」
交互にそう言うと、ゲラゲラと笑った。
「もし嫌だって言うなら…」
青鬼の男子生徒が拳を持ち上げた。勢いよくそれを側にあった古い机の上に振り下ろす。バキョッという音を立てて机が割れる。
鬼の腕力だった。
鬼の筋組織は人間のそれとはまるで違っている。尋常でない怪力を発揮することが出来るのだ。
この時になって、倉之助は自分が騙されたことに気付いた。
三人はグルなのだ。人の良さそうな人間の生徒を誘いここまで連れて来て、残りの二人が鬼の腕力で脅し金銭を要求する。そういった手口らしい。
もちろん悔しかった。素直に財布を差し出す気になんてなれるはずがない。だけど、この状況ではどうしようないことも分かっている。いくら大声を上げたところで校舎までは届かない。
腕力では叶うはずがないし、逃げたところですぐに追いつかれてしまうことだろう。
自分の不運さを嘆きつつ、倉之助がポケットから財布を引っ張り出そうとした時だった。
「そこまでよ!」
と言う声と共に、閉められていた扉が勢いよく開いた。
倉庫内へと入って来たのはセーラー服を着た女子生徒だった。腕には『生徒会』と書かれた腕章を着けている。
背が高くスタイルは抜群。キリッと勇ましい眉毛に、強い意思を感じさせる瞳。ハイレベルなクール系美少女だ。
長い髪の毛は見事な赤毛。瞳は爛々と金色に輝いている。こめかみの上辺りから二本の角が突き出していた。
誰がどう見ても赤鬼の血統だ。かなり血が濃いのが外見からも伺える。もし人の血が多く混じっていたら、こんな燃えるような赤毛にはならなかったはずだ。
「あ、赤沢!」
青鬼の男子生徒が上ずった声を上げる。
「あなた達が人間の生徒を脅し金銭を要求していたことは全部お見通し! 現場を抑えられた今、言い逃れは出来ないから!」
「お前、俺達を捕まえるつもりなのか!? 同じ鬼だってのに!」
「当たり前でしょ!? 犯罪行為に鬼も人も関係ないわ!」
実に毅然とした態度だった。
女子生徒は真っ赤な髪の毛をかき上げると、自信と誇りを込めて言い放った。
「それに、私は前殿高校の生徒会長。この学校の治安を守る義務があるのよ」
「くそっ! こうなったら!」
「もうヤケだ!」
二人が拳を固め女子生徒へと襲いかかる。
だけど、女子生徒は少しも怯んだ様子を見せない。それどころか、不敵な笑みを浮かべる。
「いい度胸じゃないの」
華麗に攻撃を避けると、それぞれの腕を掴んだ。次の瞬間、二人の男子生徒の体はくるんと反転しそのまま勢いよく投げ飛ばされる。まるで魔法を見ているかのようだった。
男子生徒達は、積まれた机の山へと突っ込んでいく。ドンガラシャンという盛大な音が響いた。かなりのダメージだったのだろう。這い出して来る様子はない。
「ひ、ひいいいいい」
倉之助をここまで連れて来た男子生徒が、甲高い悲鳴を上げる。
その男子生徒を睨み付け、女子生徒は言った。
「さてと、貴方はどうするつもり? やる気なら相手になってあげるけど」
男子生徒はもはや言葉もなく、その場にへなへなとしゃがみ込む。
その直後、倉庫の外が騒がしくなった。十名近い生徒達が姿を現す。鬼の生徒も混じっていれば、人間の生徒もいる。
「会長、終わりましたか?」
「突入する時は一緒にって言ったじゃないですか。まあ、会長にかなう奴なんているわけないですけど」
どうやら生徒会のメンバー達のようだ。女子生徒と同じく皆腕章を着けている。
「みんな、彼らを職員室へ連れてって頂戴」
「了解です」
女子生徒の指示に従い、生徒会のメンバー達は犯人の男子生徒達を連行していく。机の山の中から発掘された鬼の男子生徒二人は、抵抗する気もなくなったのか大人しく従っていた。
「会長は?」
「先に行っていて。すぐに追いかけるから」
「了解です」
そう告げられたメンバーは、一礼し倉庫を後にした。
倉庫内は、女子生徒と倉之助の二人きりになる。
「さてと」
軽く息を吐き出してから、女子生徒は倉之助に顔を向けた。
「貴方、学年と名前は?」
「えっと、2年C組、高梨倉之助です」
少し上ずった声で倉之助は返事をする。
「そう、高梨君ね。私も自己紹介をした方がいいかしら?」
「い、いえ」
倉之助は首を横に振った。
目の前の女子生徒が誰なのか? この高校の生徒である倉之助は当然知っていた。
赤沢咲。
この前殿高校の生徒会長であり、最強の鬼でもある。学年は倉之助の一つ上の高校3年生。人望も厚く、人、鬼双方の生徒達から慕われている。
「怪我はない?」
「は、はい。大丈夫です」
「そう、良かったわ」
咲は少しだけ申しわけなさそうな顔になった。
「本当は貴方が昇降口前で声をかけられた時から見ていたの。でも、どうしても犯行現場を抑えたくて。それで、しばらくそのままにしておいたの。貴方には怖い思いをさせてしまったわ。本当にごめんなさい」
咲が頭を下げた。
平凡な高校生活を送っている倉之助だから、咲と接したことなんて一度もない。生徒総会で檀上に立っているのを遠くから眺めるぐらいだった。
そんな雲の上のような存在の彼女に頭を下げられたものだから、倉之助は軽くテンパってしまう。
「い、いいんですって。結局助けられたことには変わりないんですから」
あたふたと倉之助は言う。
「僕なら平気ですし。本当にありがとうございました」
ペコペコと頭を下げる。
「そう言ってもらえるとありがたいわ」
咲がホッとした表情を見せる。
「じゃあ、私はこれで失礼するわ。貴方も遅刻しないようにね」
立ち去ろうとする咲だったけど、ふと足を止める。
肩越しに振り向き言った。
「このことがきっかけで、私達鬼を嫌いにならないでね。あんな連中ばかりじゃ決してないから」
「は、はい、それはよく分かってます」
倉之助が頷くのを見ると、咲は少しだけ瞳を細め微笑んだ。
「それじゃあね」
改めてそう言うと、倉庫を後にする。
倉之助はしばし、倉庫内に立ち尽くしていた。
(強くて立派で格好良くて、おまけにすごく美人だなんて。本当、完璧な生徒会長だよなあ)
そんな感想を抱きつつ倉之助は、何となくため息をついたのだった。
晴れやかな朝の空の下、学生服姿の一人の若者が歩いていた。
ひょろりとした体型の若者だ。お世辞にもたくましいとは言えない。柔和で少々気の弱そうな顔立ち。もじゃもじゃとはいかないまでも、もじゃ…ぐらいにはなっている天然パーマの髪の毛が特徴的だった。
若者の名前は、高梨倉之助。ふしみ市の住人で、市内にある前殿高校の生徒。学年は二年生だった。
「ふわあああ」
だらしのない欠伸をしながら倉之助は、学校への道を歩く。
辺りには同じ高校の生徒達の姿がチラホラと見え始めていた。
その中には、少々変わった外見を持つ生徒もいた。色合いに差はあるが、赤や青や緑や黄色の髪の毛。金色の瞳。そして最大の特徴は頭から生えた角だった。
彼らは鬼、もしくはその血を引く者達だった。
かつては異形と恐れられた鬼達だが、今では大して珍しくもない存在となっている。
鬼が自らを大々的にカミングアウトし人間社会へと姿を現してから早くも70年近くが経過していた。鬼達はすっかり人間社会に溶け込み、人間との混血も進んでいる程だった。
倉之助が通う前殿高校も、生徒の五分の一は鬼、もしくは鬼の血を引く者達だったりする。
やがて、倉之助は校舎へと到着する。校門を通り昇降口へと向かっていた時だった。
「あ、ちょっと君。いいかな?」
一人の男子生徒に声をかけられた。ヒョロリとした背の高い男子生徒だ。髪の毛の色は黒。瞳も金色には輝いておらず、頭から生える角もない。人間の生徒だ。
「はい?」
足を止めた倉之助に、男子生徒は申しわけなさそうな顔をして言う。
「悪いんだけど、ちょっと荷物を運ぶのを手伝ってくれないかな? 先生に頼まれて校舎裏の倉庫から教材を出さなくちゃいけなくって」
「えっ、でも僕は…」
「君の言いたいことは分かるよ。力仕事なら鬼の血を引いてる生徒に頼めばいいって思ってるんだろ? 彼らの方がずっと力持ちだからね」
男子生徒は苦笑しながら言う。
「情けない話なんだけど、自分はどうも鬼が苦手なんだ。転校前の学校には鬼の生徒はほとんどいなかったから。いや、すごく怖いって程じゃないんだよ。今のご時世、テレビをつければ普通に鬼のアイドルやタレントが活躍してるぐらいだし。ただ、ちょっと慣れてなくってね」
男子生徒は片手拝みで倉之助に頼む。
「お礼はちゃんとするから。購買のパン一つでどう? 何だったらジュースも付けるから」
ここまで真剣に頼まれると、どちらかと言えばお人良しの倉之助はもう断れない。
(別に急いでもいないし。少し手伝おうか)
倉之助は頷いて見せる。
「分かった。僕で良ければ手伝うよ」
「本当かい? ありがとう。それじゃ一緒に来てくれ」
歩き出す男子生徒の後を倉之助は着いて行く。校舎をグルリと迂回するようにして歩いた。
たどり着いたのは校舎裏の倉庫だった。薄暗く陰気な場所。もう他の生徒の姿はない。
重そうな鉄の引き戸を男子生徒が開く。
「さあ、入ってくれ」
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すでに電灯はつけられていた。倉庫内には、今はもう使われなくなった机や椅子等が積み上げられている。
倉庫内に置かれた物を見て、倉之助は疑問を覚える。
(あれ? 教材なんてどこにもないじゃないか)
「くくくくく」
すぐ後ろで笑い声がした。振り向くと、男子生徒が何故か扉を閉めている。
「本当、お人良しで助かったぜ」
その言葉を合図としたように、物陰から別の男子生徒が二人、姿を現す。
青みがかった髪と黄みがかった髪。それぞれの頭からは短いながらも二本の角が生えている。
純血ではないが、それぞれ青鬼と黄鬼の血を引いているのは明らかだ。鬼ハーフ、いや、鬼クォーターといったところだろう。
「俺達、病気なんだ」
「そう、いわゆる金欠病ってやつ」
「悪いけど、少し恵んでくれないか?」
「少しって言っても、お前の財布の中身全部だけどな」
交互にそう言うと、ゲラゲラと笑った。
「もし嫌だって言うなら…」
青鬼の男子生徒が拳を持ち上げた。勢いよくそれを側にあった古い机の上に振り下ろす。バキョッという音を立てて机が割れる。
鬼の腕力だった。
鬼の筋組織は人間のそれとはまるで違っている。尋常でない怪力を発揮することが出来るのだ。
この時になって、倉之助は自分が騙されたことに気付いた。
三人はグルなのだ。人の良さそうな人間の生徒を誘いここまで連れて来て、残りの二人が鬼の腕力で脅し金銭を要求する。そういった手口らしい。
もちろん悔しかった。素直に財布を差し出す気になんてなれるはずがない。だけど、この状況ではどうしようないことも分かっている。いくら大声を上げたところで校舎までは届かない。
腕力では叶うはずがないし、逃げたところですぐに追いつかれてしまうことだろう。
自分の不運さを嘆きつつ、倉之助がポケットから財布を引っ張り出そうとした時だった。
「そこまでよ!」
と言う声と共に、閉められていた扉が勢いよく開いた。
倉庫内へと入って来たのはセーラー服を着た女子生徒だった。腕には『生徒会』と書かれた腕章を着けている。
背が高くスタイルは抜群。キリッと勇ましい眉毛に、強い意思を感じさせる瞳。ハイレベルなクール系美少女だ。
長い髪の毛は見事な赤毛。瞳は爛々と金色に輝いている。こめかみの上辺りから二本の角が突き出していた。
誰がどう見ても赤鬼の血統だ。かなり血が濃いのが外見からも伺える。もし人の血が多く混じっていたら、こんな燃えるような赤毛にはならなかったはずだ。
「あ、赤沢!」
青鬼の男子生徒が上ずった声を上げる。
「あなた達が人間の生徒を脅し金銭を要求していたことは全部お見通し! 現場を抑えられた今、言い逃れは出来ないから!」
「お前、俺達を捕まえるつもりなのか!? 同じ鬼だってのに!」
「当たり前でしょ!? 犯罪行為に鬼も人も関係ないわ!」
実に毅然とした態度だった。
女子生徒は真っ赤な髪の毛をかき上げると、自信と誇りを込めて言い放った。
「それに、私は前殿高校の生徒会長。この学校の治安を守る義務があるのよ」
「くそっ! こうなったら!」
「もうヤケだ!」
二人が拳を固め女子生徒へと襲いかかる。
だけど、女子生徒は少しも怯んだ様子を見せない。それどころか、不敵な笑みを浮かべる。
「いい度胸じゃないの」
華麗に攻撃を避けると、それぞれの腕を掴んだ。次の瞬間、二人の男子生徒の体はくるんと反転しそのまま勢いよく投げ飛ばされる。まるで魔法を見ているかのようだった。
男子生徒達は、積まれた机の山へと突っ込んでいく。ドンガラシャンという盛大な音が響いた。かなりのダメージだったのだろう。這い出して来る様子はない。
「ひ、ひいいいいい」
倉之助をここまで連れて来た男子生徒が、甲高い悲鳴を上げる。
その男子生徒を睨み付け、女子生徒は言った。
「さてと、貴方はどうするつもり? やる気なら相手になってあげるけど」
男子生徒はもはや言葉もなく、その場にへなへなとしゃがみ込む。
その直後、倉庫の外が騒がしくなった。十名近い生徒達が姿を現す。鬼の生徒も混じっていれば、人間の生徒もいる。
「会長、終わりましたか?」
「突入する時は一緒にって言ったじゃないですか。まあ、会長にかなう奴なんているわけないですけど」
どうやら生徒会のメンバー達のようだ。女子生徒と同じく皆腕章を着けている。
「みんな、彼らを職員室へ連れてって頂戴」
「了解です」
女子生徒の指示に従い、生徒会のメンバー達は犯人の男子生徒達を連行していく。机の山の中から発掘された鬼の男子生徒二人は、抵抗する気もなくなったのか大人しく従っていた。
「会長は?」
「先に行っていて。すぐに追いかけるから」
「了解です」
そう告げられたメンバーは、一礼し倉庫を後にした。
倉庫内は、女子生徒と倉之助の二人きりになる。
「さてと」
軽く息を吐き出してから、女子生徒は倉之助に顔を向けた。
「貴方、学年と名前は?」
「えっと、2年C組、高梨倉之助です」
少し上ずった声で倉之助は返事をする。
「そう、高梨君ね。私も自己紹介をした方がいいかしら?」
「い、いえ」
倉之助は首を横に振った。
目の前の女子生徒が誰なのか? この高校の生徒である倉之助は当然知っていた。
赤沢咲。
この前殿高校の生徒会長であり、最強の鬼でもある。学年は倉之助の一つ上の高校3年生。人望も厚く、人、鬼双方の生徒達から慕われている。
「怪我はない?」
「は、はい。大丈夫です」
「そう、良かったわ」
咲は少しだけ申しわけなさそうな顔になった。
「本当は貴方が昇降口前で声をかけられた時から見ていたの。でも、どうしても犯行現場を抑えたくて。それで、しばらくそのままにしておいたの。貴方には怖い思いをさせてしまったわ。本当にごめんなさい」
咲が頭を下げた。
平凡な高校生活を送っている倉之助だから、咲と接したことなんて一度もない。生徒総会で檀上に立っているのを遠くから眺めるぐらいだった。
そんな雲の上のような存在の彼女に頭を下げられたものだから、倉之助は軽くテンパってしまう。
「い、いいんですって。結局助けられたことには変わりないんですから」
あたふたと倉之助は言う。
「僕なら平気ですし。本当にありがとうございました」
ペコペコと頭を下げる。
「そう言ってもらえるとありがたいわ」
咲がホッとした表情を見せる。
「じゃあ、私はこれで失礼するわ。貴方も遅刻しないようにね」
立ち去ろうとする咲だったけど、ふと足を止める。
肩越しに振り向き言った。
「このことがきっかけで、私達鬼を嫌いにならないでね。あんな連中ばかりじゃ決してないから」
「は、はい、それはよく分かってます」
倉之助が頷くのを見ると、咲は少しだけ瞳を細め微笑んだ。
「それじゃあね」
改めてそう言うと、倉庫を後にする。
倉之助はしばし、倉庫内に立ち尽くしていた。
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