TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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8章 崩れゆくTS生活

104話 くるくる回った

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「……今日は行ける気がする」

「えっ」

【!?】
【えっ】
【は?】
【こはねちゃん……?】
【急に声が落ち着いてる】

僕はなんだか落ち着いてきた。

落ち着いてきて――なぜか机の上に立ち上がって両手を天井に着けようって遊びしてるのを思い出してきた。

のびーっとね。

「あれ、ゆうかお姉ちゃん?」
「こはねさ――――――――」

「――――なんで居るの?」

「ひゅっ……」

お姉ちゃん、約束したよね。
もういい歳なんだから、「弟」の部屋へは声とかノックなしで入ってこないでって。

「ねぇ、なんで?」

【こはねちゃん……?】
【なんだか怖いよこはねちゃん……】
【なんでさっきの流れからこうなるのぉ……?】
【ふぇぇ……】

「は、配信を止めませんと……」
「配信?」

僕との約束を破った罪を感じているのか、ちらちらと目を逸らすお姉ちゃんの見る先は――そうだ、配信。

「うん、なんだか行けそうな気がする。ゆうかぁ、もうちょっと増やして良いよー」

「えっ……」

よじよじ……とすんっ。

危ないから、しゃがんで床へと慎重に降りた僕は、くるくる回るイスに座り直す。

「新規の人。今日は新しい人とでも、そこそこしゃべれる気がするんだ」

「あ、あの……配信を、止めませんと……」
「? 必要ないよ?」

【????】
【この前ギャン泣き撤退したこはねちゃんがなんだって??】
【まーた最近ハイの時期になってる】
【これ、やばくね……?】
【お姉ちゃんの声が】
【ちょっと落ちついたと思ったら……】

「最近、自信がついてきたんだ」

むふん。
アバターの僕も、ここに居る僕も、自信にありふれている。

【そっかー】
【かわいいねぇ】
【でもやめとこうねぇ】
【飴ちゃんあげるからおとなしくしてようねぇ…… \300】
【草】
【誰も信じてなくて草】

「飴ちゃんありがと。……ふぐっ」

僕は、一気に増え出したコメント欄を眺め――

「くぴくぴくぴ……!」

本能が発した警告をアルコールで見なかったことにした。

【えぇ……】
【さっきまでは平気だったらしい新規勢へ、早速吐き気を催しているこはねちゃん……】
【情緒が不安定すぎる】
【情緒っていうか、記憶っていうか……】

【極度のストレスに晒されると、人間の記憶って……あっ……】

【ねぇねぇこはねちゃんこはねちゃん、気持ち悪い?】

「うん、気持ち悪い……とてつもなく……ほんっとうに気持ち悪い……! 生理的に受け付けない……! 今語りかけてきたコメントも、特に気持ち悪い……!」

うぇぇぇ。

胃液は登ってきてないけども、僕は気持ち悪くなった。
おかしいな、さっきまではへっちゃらだったはずなのに。

【草】
【草】
【ふぅ……】
【\3000】
【わかる】

【感謝 \50000】

【!?】
【今のコメントのアカウントが!?】
【ひぇっ】
【ロリっ子が吐き気を催してくれる配信】
【ぞくぞくするね】

「で、ですから配信を――」

「ふぅ……その性癖は理解してあげるけど、需要はそんなに長く持たないから代替品を探そうね……?」

【こはねちゃん、お姉ちゃんの話……聞こ?】
【お姉様? 保護者権限で強制シャットアウトでもOKだと思いますわ】
【介護班もそう思います】
【お医者さんに診せるべきな気がするし】
【爆撃はこっちに任せろ】
【草】

女の子に気持ち悪がってもらう性癖。

はたして僕のせいでリアルではほとんど実現できない性癖が発掘されたのか、それとも植えつけられたのか、はたまたは性癖持ちだから引かれ合ったのか。

いずれにしても、満たされない性癖はQOLを下げる。

「こはねさ――」
「足るを知るって、大切だよね」

【!?】
【こはねちゃんが……!】
【かしこくなった!?】
【草】
【草】
【ひでぇ】

【でも、それはそれとして……】
【お姉ちゃんの声、聞いたげて……】

「僕……成人してるって、言ってるよね? ゆうかお姉ちゃんは優花だよ?」

まったくもう。
この声だからしょうがないし、このよわよわっぷりもまたしょうがないけども、

【???】

【介護班より業務連絡  「女医」、移動開始しました】

【到着は20分後  それまで持たせてください】

【無理に否定せず、可能な限りに同調しつつ気分が上がりすぎるのを抑えてあげてください】

【おお】
【介護班!】
【業務連絡助かる】
【具体的な対処法助かる】
【安心した】

「わ、分かりまた……」

「ぼくはお姉ちゃんにも負けないくらいかしこいんだから、もうっ。バカにしないでよねっ。僕ごしに難しいお話しないの!」

【!?】
【!?】
【こはねちゃんが……また新たな境地を!?】
【感動した】
【ノリノリこはねちゃん】

【ぷんすか系妹ロリか……演技の幅が広がるね】
【声質が一気に変わった】
【かわいい】
【これが……ロリの底力……ぐふっ】

【(とりあえずこの調子で)】
【(OK)】

【こはねちゃんが喜ぶ反応したげたら、ちょろいからなんとかなるでしょ】

「ちょろい? なにさ、いつもいつも小さい小さいってバカにして。僕は大きいんだから! 大人なんだからね!」

【はいはい】
【みんな、コメントも要警戒だぞ  軽口も厳禁だぞ】
【りょ】

【あ、介護班から通知来た  ……スマホに直接来るのって怖いな……ちょいと介護の手伝いしてくる……】

【草】
【草】
【こはねちゃんはね、儚すぎるからね……】

僕はちょっと怒ったけども、ふと気がつく。

「………………………………」

くるくるくる。
からからから。

「………………………………!!」

【?】
【どうした】
【なんかアバターが荒ぶってる】
【草】

くるくるくる。

3週目に入った僕は、無敵だ。

「わはっ、わはっ」

「こ、こはねさんっ!? 危ないですよ!?」

「やーだ!」

くるくるくる。

僕の髪の毛が、遠心力で引っ張られる。
「僕の自慢の三つ編み」が、目の前で浮いている。

【???】
【何が起きているんだ……】
【なぁ……なんだか嫌な予感がするんだが】
【奇遇だな……俺たちもだよ】

【第二次介護班、スタンバイOKです】
【準介護班、爆撃機の燃料満タンです】

【草】
【草】
【もうやらかすって決めつけてて草】
【だって……】

くるくる。
くるくるくる。

「あはっ、あはっ」

なんで回ってるのかなんて、もう分からない。

だってこれ、学校の先生のイスみたいなんだもん。
大人の証だもん。

――こんっ、とすっ。

風圧か、髪の毛かに煽られて、机の上の物とかが落ちる音。

ふふん。
今や僕は、触らずとも攻撃できる遠隔属性なんだぞ。

「ですから、周囲の物が……」
「えへっ、えへっ」

【何の音?】
【(やっぱボイチェンじゃ……)】
【(しーっ)】
【(今さらでしょ)】

【(※妹ちゃんの声)】

【(あっ……)】
【(草)】
【(大丈夫  いや、コメント、明らかに見てないのはだいじょばないんだけど……)】
【(アバターが乱舞している)】

ぐるぐる回る。
景色が流れていく。

こういうの、最後見た瞬間におもしろいなぁって見ていたけど、あれはいつの――

――ぐりん。

世界が、斜めになる。

「え」

僕はそのまま遠心力に乗っかって――

【「がしゃっ」】

【!?】
【!?】
【え!?】
【こはねちゃん!?】

「こ、こはねさん!?」

「……あーん!」

どこかをぶつけたらしく、どこかが痛い。
どこかへ転んだらしく、床が顔に押しつけられてる。

「……あ゛――ん!!」

「だ、大丈夫……ただイスから放り出されただけですから……ほら、大丈夫ですよー……」

「あーん、あーん!」

ふわりと良い匂いであったかくて柔らかいお姉ちゃんが、ぎゅってしてきてくれてる。

だから僕は、安心して泣くんだ。

【やばいやばい  完全に逆流しちゃってる  このままだとTSそのものが……いや、それ以前に「こっちのこはねちゃん」そのものが……】
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