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9章 「綾咲こはね」
118話 あいさつは、大事
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「こんな日が、いつまでも続けばいいなぁ……」
「? こはねちゃんさん……?」
今日も、ひよりちゃんたちが家に来てくれている。
あんなことがあってから引きこもっちゃった、僕のためなんかに。
「………………………………」
「……こはねさん?」
顔を上げると、心配そうな顔をしている優花お姉ちゃん。
――心配そうな顔を、できている、お姉ちゃんが居る。
「……今日はレッサーパンダなこはねちゃんよね? こはね様ではなく……さっきまで楽しそうにして」
「そうだと思う……ハグしても喜んでくれたし……既成事実、またいっこ……ふふ……」
離れたソファで2人仲良く、持ってきたノートパソコンでそれぞれの配信の準備――個人勢のみなみちゃんは台本を作っていて、事務所所属のはるなちゃんはマネージャーさんとやりとりしながらの打ち合わせをしていて。
「………………………………」
今は如月先生こそいないけども、ここはすごくあったかい場所。
これだけの人が、僕のためなんかに集まってくれている場所。
だけども――ここは。
「ひよりちゃん」
「なぁに?」
僕がさいごに見たときと変わらない、ひよりちゃん。
「また、おふろ一緒に入ってくれる?」
「え゛っ……は、はいぃ! もちろん!」
「同性」に対して、真っ赤になりながらもうなずいてくれる、とっても良い子。
「……今度はじっくり見ちゃっても良いの? 『男』として」
「う゛ぇっ!? ……の、のぞむとこりょです! いひゃい……」
勢い余って噛んじゃったらしいひよりちゃん。
……けどもきっと、即答できちゃうほどの恋心を「僕」に抱いてくれているんだ。
「僕」はそのことについて……ちょっと困ってたけどね。
「かわいい」
「かわいい……」
「けど、今日のこはねちゃん、攻め攻めね」
「推しが推しを押している……いい……」
「……けど、ちょっと無垢なかわいさで罪悪感が出てきたわ」
「同じく……私たちは、心がけがれている……」
慌ててお水を飲んで噛んじゃったベロを癒やしている、ひよりちゃん。
「………………………………」
この子も僕と同じで、周囲に対して過剰に恥ずかしがらなければ普通にできて、けれども恥ずかしがっちゃうから普通が難しい子なんだ。
だからこそ僕たちは友達になれて、そして。
「……こはねさん? 本当に、大丈夫ですか? 気分などは」
「ゆうかお姉ちゃん」
「えっ……あ、はい、なんでしょう」
僕から話しかけると、きょとんとしているお姉ちゃん。
――こういう顔ができるのが、平和な日常ってものだよね。
「僕が遠くに行っちゃったら……困る?」
「……困ります。とても」
「……もしもし、介護班のみんな? 如月先生を中心に、待機させてくれるかな」
「ん、こはね様の靴の全てに取り付けた発信器、全部問題なし……逃げても追える」
ひそひそと、ソファの2人が過剰に僕を守ろうとしてくれている。
――ううん、それ以外にもたくさんの人たちが、僕なんかのことを。
「こはねさん? どこかに行きたい場所が?」
「ううん、特にはないよ。今読んでたマンガのセリフを真似しただけ」
「……そう、ですか」
うん、僕は行きたくはない。
どこにも行くつもりはない。
けども――――――もうそろそろ、時間だ。
「……? ……わぁっ、こはねちゃんさん!」
がたたっ。
ひよりちゃんが席を立ってまで、僕の真横に来る。
「……イラスト、こんなにかわいく……すごいです! たったの2週間くらいで、こんなに上手に……!」
「あっ」
タブレットでマンガを読む――ついでで、なんとなく「いつもの」おえかきの感覚で、画面を分けておえかきソフトを起動しちゃっていた僕は――「いつもの」描き慣れた顔を描いていた。
「それ、もしかして私……? こはねちゃんさんが、かわいい絵柄で私を……はぅ」
「ひ、ひよりさんっ!? 気絶を……!」
「きゅう……」
僕に抱きついたまま――恥ずかしさとか嬉しさとかが高まるとすぐに知恵熱出しちゃって倒れちゃうひよりちゃんがずるずると崩れていくのを、お姉ちゃんが慌てて保護。
この騒動になんだなんだとやってきちゃった2人が、ひよりちゃんを介抱するついでで僕の手元をのぞき込んでくる。
「……あら本当! おえかきを始めて2週間……?には思えない上手さね! 才能あるわ、こはねちゃん!」
「ん、これは授業中にヒマな女子が、描き慣れたキャラの顔を描くとき並みの上手さ。充分絵描きの素質アリです……!」
ぎゅむぎゅむと僕の後頭部を押してくる、はるなちゃんのでっかいの。
それとは対称的に、肩をふにょんとおしてくる、みなみちゃんの控えめなの。
「………………………………」
うん。
君たちは、僕がなにをしても褒めてくれてたんだよね……今みたいに。
「……ひよりちゃんの描き方を見てて、模写ってのをやっただけ。デジタルだから何回も消してパーツを移動してたら、たまたま特別に上手にできちゃっただけだから」
……僕の手元には、マンガ風に描いたひよりちゃん。
僕の、唯一の楽しみだったそれを――僕は、
「あー」
「消しちゃった……」
デリートボタンひとつで、この世界に産まれなかったことにした。
◇
ちゃぽん。
「~~~~♪」
「………………………………」
おふろ。
「僕」が困っているのに、TSしたって理由をつけて毎晩一緒におふろに入っている、僕の背中で鼻歌をご機嫌に歌う、ゆうかお姉ちゃん。
お姉ちゃんと一緒なのは、嬉しい。
けども。
「お姉ちゃん」
「はい」
これは言っといたげないと、「ふたりとも」困るだろうから。
「――一緒に寝てるときにもぞもぞしたりするの、『僕』が気づく前にやめといた方が良いと思うよ。声とか押し殺してるけど、深夜とか普通に聞こえるからね」
「!?」
ばしゃっ!
「な、ななななにを――――――」
「や、気はついてる。けども、そういう経験が一切にないから分かってないだけだからね。お姉ちゃんがなにか変なことをしてるな、とは思っているから」
「 」
……ちゃぷっ。
ぶくぶくと沈んでいく優花お姉ちゃん。
「あと、ベッドの下とかいうベタすぎる場所に隠してる、男な僕の大量の写真とか……子供の背丈だと、普通に見えちゃうから気をつけてね」
「 」
「けど」
僕は、お姉ちゃんへ精いっぱいのアドバイスを送っておく。
「『お兄さんな僕』は、案外にちょろいから。妹って意識させずにアピールすれば、絶対意識すると思うよ。今みたいに妹とか家族って距離感からちょっとだけ離れたなら。……肉体も女の子になってるし、血縁って意味での忌避感もほとんどなくなってるはずだから。……本音は素敵な人を外で見つけてほしいってのは、僕もそうだけどさ」
「……こはねさん?」
じゃぶっ。
「……今日は先に洗って上がるね。大丈夫、髪の毛もちゃんと乾かすからさ」
じゃあああっ。
僕は言いたいことだけを言い切ってからシャワーで音を閉ざす。
――せめて、ここに居るゆうかはしあわせであってほしいって願いながら。
◇
「? ゆうかぁ?」
「はい……」
「なんでそんなに目の下に隈、作ってるの? 寝心地悪かった?」
「いえ……その。あいかわらずに最高ですが……その……」
「?」
最近のいつも通りに起きたら優花に抱きかかえられて――居なくって、なんだか寒かった朝。
ベッドで目を開けたら、なぜか疲れ切っている様子の優花が居た。
「心配なことあったら言ってね。相談に役立てないかもしれないけど、話だけは聞けるから」
「……ありがとうございます……」
んーっ。
ぐーっと伸びをするけども……あれ。
昨日、なにしてたっけ?
「? こはねちゃんさん……?」
今日も、ひよりちゃんたちが家に来てくれている。
あんなことがあってから引きこもっちゃった、僕のためなんかに。
「………………………………」
「……こはねさん?」
顔を上げると、心配そうな顔をしている優花お姉ちゃん。
――心配そうな顔を、できている、お姉ちゃんが居る。
「……今日はレッサーパンダなこはねちゃんよね? こはね様ではなく……さっきまで楽しそうにして」
「そうだと思う……ハグしても喜んでくれたし……既成事実、またいっこ……ふふ……」
離れたソファで2人仲良く、持ってきたノートパソコンでそれぞれの配信の準備――個人勢のみなみちゃんは台本を作っていて、事務所所属のはるなちゃんはマネージャーさんとやりとりしながらの打ち合わせをしていて。
「………………………………」
今は如月先生こそいないけども、ここはすごくあったかい場所。
これだけの人が、僕のためなんかに集まってくれている場所。
だけども――ここは。
「ひよりちゃん」
「なぁに?」
僕がさいごに見たときと変わらない、ひよりちゃん。
「また、おふろ一緒に入ってくれる?」
「え゛っ……は、はいぃ! もちろん!」
「同性」に対して、真っ赤になりながらもうなずいてくれる、とっても良い子。
「……今度はじっくり見ちゃっても良いの? 『男』として」
「う゛ぇっ!? ……の、のぞむとこりょです! いひゃい……」
勢い余って噛んじゃったらしいひよりちゃん。
……けどもきっと、即答できちゃうほどの恋心を「僕」に抱いてくれているんだ。
「僕」はそのことについて……ちょっと困ってたけどね。
「かわいい」
「かわいい……」
「けど、今日のこはねちゃん、攻め攻めね」
「推しが推しを押している……いい……」
「……けど、ちょっと無垢なかわいさで罪悪感が出てきたわ」
「同じく……私たちは、心がけがれている……」
慌ててお水を飲んで噛んじゃったベロを癒やしている、ひよりちゃん。
「………………………………」
この子も僕と同じで、周囲に対して過剰に恥ずかしがらなければ普通にできて、けれども恥ずかしがっちゃうから普通が難しい子なんだ。
だからこそ僕たちは友達になれて、そして。
「……こはねさん? 本当に、大丈夫ですか? 気分などは」
「ゆうかお姉ちゃん」
「えっ……あ、はい、なんでしょう」
僕から話しかけると、きょとんとしているお姉ちゃん。
――こういう顔ができるのが、平和な日常ってものだよね。
「僕が遠くに行っちゃったら……困る?」
「……困ります。とても」
「……もしもし、介護班のみんな? 如月先生を中心に、待機させてくれるかな」
「ん、こはね様の靴の全てに取り付けた発信器、全部問題なし……逃げても追える」
ひそひそと、ソファの2人が過剰に僕を守ろうとしてくれている。
――ううん、それ以外にもたくさんの人たちが、僕なんかのことを。
「こはねさん? どこかに行きたい場所が?」
「ううん、特にはないよ。今読んでたマンガのセリフを真似しただけ」
「……そう、ですか」
うん、僕は行きたくはない。
どこにも行くつもりはない。
けども――――――もうそろそろ、時間だ。
「……? ……わぁっ、こはねちゃんさん!」
がたたっ。
ひよりちゃんが席を立ってまで、僕の真横に来る。
「……イラスト、こんなにかわいく……すごいです! たったの2週間くらいで、こんなに上手に……!」
「あっ」
タブレットでマンガを読む――ついでで、なんとなく「いつもの」おえかきの感覚で、画面を分けておえかきソフトを起動しちゃっていた僕は――「いつもの」描き慣れた顔を描いていた。
「それ、もしかして私……? こはねちゃんさんが、かわいい絵柄で私を……はぅ」
「ひ、ひよりさんっ!? 気絶を……!」
「きゅう……」
僕に抱きついたまま――恥ずかしさとか嬉しさとかが高まるとすぐに知恵熱出しちゃって倒れちゃうひよりちゃんがずるずると崩れていくのを、お姉ちゃんが慌てて保護。
この騒動になんだなんだとやってきちゃった2人が、ひよりちゃんを介抱するついでで僕の手元をのぞき込んでくる。
「……あら本当! おえかきを始めて2週間……?には思えない上手さね! 才能あるわ、こはねちゃん!」
「ん、これは授業中にヒマな女子が、描き慣れたキャラの顔を描くとき並みの上手さ。充分絵描きの素質アリです……!」
ぎゅむぎゅむと僕の後頭部を押してくる、はるなちゃんのでっかいの。
それとは対称的に、肩をふにょんとおしてくる、みなみちゃんの控えめなの。
「………………………………」
うん。
君たちは、僕がなにをしても褒めてくれてたんだよね……今みたいに。
「……ひよりちゃんの描き方を見てて、模写ってのをやっただけ。デジタルだから何回も消してパーツを移動してたら、たまたま特別に上手にできちゃっただけだから」
……僕の手元には、マンガ風に描いたひよりちゃん。
僕の、唯一の楽しみだったそれを――僕は、
「あー」
「消しちゃった……」
デリートボタンひとつで、この世界に産まれなかったことにした。
◇
ちゃぽん。
「~~~~♪」
「………………………………」
おふろ。
「僕」が困っているのに、TSしたって理由をつけて毎晩一緒におふろに入っている、僕の背中で鼻歌をご機嫌に歌う、ゆうかお姉ちゃん。
お姉ちゃんと一緒なのは、嬉しい。
けども。
「お姉ちゃん」
「はい」
これは言っといたげないと、「ふたりとも」困るだろうから。
「――一緒に寝てるときにもぞもぞしたりするの、『僕』が気づく前にやめといた方が良いと思うよ。声とか押し殺してるけど、深夜とか普通に聞こえるからね」
「!?」
ばしゃっ!
「な、ななななにを――――――」
「や、気はついてる。けども、そういう経験が一切にないから分かってないだけだからね。お姉ちゃんがなにか変なことをしてるな、とは思っているから」
「 」
……ちゃぷっ。
ぶくぶくと沈んでいく優花お姉ちゃん。
「あと、ベッドの下とかいうベタすぎる場所に隠してる、男な僕の大量の写真とか……子供の背丈だと、普通に見えちゃうから気をつけてね」
「 」
「けど」
僕は、お姉ちゃんへ精いっぱいのアドバイスを送っておく。
「『お兄さんな僕』は、案外にちょろいから。妹って意識させずにアピールすれば、絶対意識すると思うよ。今みたいに妹とか家族って距離感からちょっとだけ離れたなら。……肉体も女の子になってるし、血縁って意味での忌避感もほとんどなくなってるはずだから。……本音は素敵な人を外で見つけてほしいってのは、僕もそうだけどさ」
「……こはねさん?」
じゃぶっ。
「……今日は先に洗って上がるね。大丈夫、髪の毛もちゃんと乾かすからさ」
じゃあああっ。
僕は言いたいことだけを言い切ってからシャワーで音を閉ざす。
――せめて、ここに居るゆうかはしあわせであってほしいって願いながら。
◇
「? ゆうかぁ?」
「はい……」
「なんでそんなに目の下に隈、作ってるの? 寝心地悪かった?」
「いえ……その。あいかわらずに最高ですが……その……」
「?」
最近のいつも通りに起きたら優花に抱きかかえられて――居なくって、なんだか寒かった朝。
ベッドで目を開けたら、なぜか疲れ切っている様子の優花が居た。
「心配なことあったら言ってね。相談に役立てないかもしれないけど、話だけは聞けるから」
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