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12章 日常に立ちはだかる敵と味方と
137話 優花とカマキリの♀
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「ふーっ、ふーっ……に、兄さん、こ、股間も見て確認を……大丈夫、今は同性……間違いは――」
腰をひねって見せつけてきていたふとももとおしりからくるり、僕へ向き直ってしまった優花が、見せつけてくる。
おへそから下の下っ腹は女性らしく――なんでも男と違って女性には子宮っていう臓器がある関係で骨盤ごと前に傾く設計になっているらしく、ガリガリに痩せていてもお腹の下がちょっと膨らむのものらしい――なだらかな丘になっていて、その、全然隠す気がないもんだからその下にある、中学に入りたてのときは細くて薄い毛が生え始めていたのに今はつるつるな――
「優花」
「興奮しますか!?」
「優花。はしたないよ」
「兄さん相手なので問題はありません!」
「僕相手だから問題なんだよ優花」
なぜか変なテンションになる妹は、こともあろうか肉親の兄に最も見せてはいけない場所を見せつけてくる。
「ここの形は個人差があるということですし、自分では確認しない場所ですし……い、良い機会ですので兄さんに至近距離できっちり細部まで確認――」
「ごめん、ゆうか……うっぷ」
「なんなら触――えっ」
僕は顔を背け、吐き気をこらえる。
「……!? も、もしかしてグロテスク……あるいは悪臭――」
「怖い、優花」
「えっ」
僕は演技じゃなく――演技なんかする間もなく胃袋が痙攣しているんだ――縮こまり、優花からミリ単位で距離を取る。
実はさりげなく浴槽の縁に追い立てられていたんだ。
「こわい」
「え、あの」
「ゆうか」
「は、はい」
よわよわになっている僕は――絞り出す声で、優花を押しとどめ、ついでで妹の未来のために言う。
「男はね……女の子にぐいぐい来られると、怯えるものなんだよ……」
「えっ」
「優花。路上で反対側から歩いてきてるおじさんが全裸でふりふりしてきてたらどう思う?」
「蹴り上げます」
「怖くない?」
「痴漢対策には勢いよく靴先でフルスイングするのが最適だと」
「優花、今はそういうアグレッシブすぎる対処法とかは置いといて」
さりげなく優花がとんでもなく恐ろしい痴漢対策を学んでいたことにも、相手が悪人なら容赦なく下から急所を爆発四散させる覚悟だったことにも、今は消失している相棒の横の袋たちがきゅっとなる感覚を覚えつつも、がんばって言う。
「怖いでしょ?」
「え、ええ……」
「なんで怖いか分かる?」
「ええと……被害に遭うから?」
「それもあるだろうし、女子としてはその感覚で間違いないんだけども、それ以前にさ。――『自分が理解できない行動原理と感情と衝動で蠢いている存在が自分をロックオンしてる』って恐怖、あるでしょ?」
「……そうですね」
優花には言ってないけども、僕は中学のときに電車で痴漢に遭ったことがある――もちろん女装もTSもしていない、ごく普通の中学男子の制服を着ている中学男子の状態で、男のおじさんに――そんな僕だからこそ、男でも多少は理解できるんだ。
「声とか、とっさには出ないでしょ?」
「だからこそ、叫びながら突撃して足先か拳で全身の体重をかけて潰せと」
「優花、その積極的痴漢防衛は相手によっては危険だからね。それでさ」
優花にこんなことを教え込んだのは誰だ。
………………………………。
……あ。
優花が小学生のときくらいに、そんなことを言った気がする……当時はまだ背も低くっておとなしかった優花の通学路に全裸コートおじさんが出現したって話を聞いて。
アグレッシブ痴漢撃退(物理)……もしかして僕のせい?
いやいや、ただ見せたいだけの相手が迫ってきたら、それで正解なんだ。
ただ相手が悪いと武器を持ってたり先制攻撃してきたり、激昂したり恨まれて何されるか分からないから相手と状況次第って条件があるけども。
とにかく。
「そういう恐怖――実はね、女性を前にした男でも感じるんだよ」
「そ、そんな! 男性は全裸の女性が居たら喜んでダイブするのでは!? 飛び跳ねながら服を脱いでベッドまで一直線に!」
「優花って案外古い作品知ってるよね。まぁ僕と一緒にヒマなとき再放送の映画とかアニメ見てたからなんだけど」
……優花は純粋な子だから、ときどきこうして変な方向にずれてるんだよなぁ……。
「冷静に考えてみて? ――男からすると、よっぽど自分がイケメンとか社長とか高い車から声かけるとかじゃない限り、自分が口説かなければ絶対に下着すら目にすることができないはずの女性が、自分から脱いで迫ってきているんだよ? 何かのトラップだって思うよ?」
「ト、トラップ……」
「うん。むしり取られるだけの甘い罠……怖いお兄さんたちが出てきたり、『捕食』されるって感じるんだよ?」
そういえば、カマキリって交尾の後で用済みの雄をもぐもぐばりばりしてリサイクルするんだってね。
種族を残すためとしてはこれ以上なく効率的だよね。
雄としては同情しすぎるけどさ。
「け、けれど、男性は女体なら興奮すると……」
「恐怖心がある状態で興奮できる男は……げろげろ先生みたいに、ごく一部の極めて特殊な性癖持ちだけだよ……」
段々と理解してきてくれたらしい優花は、次第に顔が青くなっていく。
……良かった。
優花が将来の旦那さんを「この人ね!」って決めて、2人きりになったとたんにすっぱだかになってカマキリみたいに捕食する未来を回避できて。
そんなことになったなら……僕はもう、その哀れな旦那さんに顔向けできないもん。
男として一生涯、罪を覚えるしかなくなるところだったもん。
まぁ今は物理的に義兄どころか義妹になっちゃうんだろうけどさ。
腰をひねって見せつけてきていたふとももとおしりからくるり、僕へ向き直ってしまった優花が、見せつけてくる。
おへそから下の下っ腹は女性らしく――なんでも男と違って女性には子宮っていう臓器がある関係で骨盤ごと前に傾く設計になっているらしく、ガリガリに痩せていてもお腹の下がちょっと膨らむのものらしい――なだらかな丘になっていて、その、全然隠す気がないもんだからその下にある、中学に入りたてのときは細くて薄い毛が生え始めていたのに今はつるつるな――
「優花」
「興奮しますか!?」
「優花。はしたないよ」
「兄さん相手なので問題はありません!」
「僕相手だから問題なんだよ優花」
なぜか変なテンションになる妹は、こともあろうか肉親の兄に最も見せてはいけない場所を見せつけてくる。
「ここの形は個人差があるということですし、自分では確認しない場所ですし……い、良い機会ですので兄さんに至近距離できっちり細部まで確認――」
「ごめん、ゆうか……うっぷ」
「なんなら触――えっ」
僕は顔を背け、吐き気をこらえる。
「……!? も、もしかしてグロテスク……あるいは悪臭――」
「怖い、優花」
「えっ」
僕は演技じゃなく――演技なんかする間もなく胃袋が痙攣しているんだ――縮こまり、優花からミリ単位で距離を取る。
実はさりげなく浴槽の縁に追い立てられていたんだ。
「こわい」
「え、あの」
「ゆうか」
「は、はい」
よわよわになっている僕は――絞り出す声で、優花を押しとどめ、ついでで妹の未来のために言う。
「男はね……女の子にぐいぐい来られると、怯えるものなんだよ……」
「えっ」
「優花。路上で反対側から歩いてきてるおじさんが全裸でふりふりしてきてたらどう思う?」
「蹴り上げます」
「怖くない?」
「痴漢対策には勢いよく靴先でフルスイングするのが最適だと」
「優花、今はそういうアグレッシブすぎる対処法とかは置いといて」
さりげなく優花がとんでもなく恐ろしい痴漢対策を学んでいたことにも、相手が悪人なら容赦なく下から急所を爆発四散させる覚悟だったことにも、今は消失している相棒の横の袋たちがきゅっとなる感覚を覚えつつも、がんばって言う。
「怖いでしょ?」
「え、ええ……」
「なんで怖いか分かる?」
「ええと……被害に遭うから?」
「それもあるだろうし、女子としてはその感覚で間違いないんだけども、それ以前にさ。――『自分が理解できない行動原理と感情と衝動で蠢いている存在が自分をロックオンしてる』って恐怖、あるでしょ?」
「……そうですね」
優花には言ってないけども、僕は中学のときに電車で痴漢に遭ったことがある――もちろん女装もTSもしていない、ごく普通の中学男子の制服を着ている中学男子の状態で、男のおじさんに――そんな僕だからこそ、男でも多少は理解できるんだ。
「声とか、とっさには出ないでしょ?」
「だからこそ、叫びながら突撃して足先か拳で全身の体重をかけて潰せと」
「優花、その積極的痴漢防衛は相手によっては危険だからね。それでさ」
優花にこんなことを教え込んだのは誰だ。
………………………………。
……あ。
優花が小学生のときくらいに、そんなことを言った気がする……当時はまだ背も低くっておとなしかった優花の通学路に全裸コートおじさんが出現したって話を聞いて。
アグレッシブ痴漢撃退(物理)……もしかして僕のせい?
いやいや、ただ見せたいだけの相手が迫ってきたら、それで正解なんだ。
ただ相手が悪いと武器を持ってたり先制攻撃してきたり、激昂したり恨まれて何されるか分からないから相手と状況次第って条件があるけども。
とにかく。
「そういう恐怖――実はね、女性を前にした男でも感じるんだよ」
「そ、そんな! 男性は全裸の女性が居たら喜んでダイブするのでは!? 飛び跳ねながら服を脱いでベッドまで一直線に!」
「優花って案外古い作品知ってるよね。まぁ僕と一緒にヒマなとき再放送の映画とかアニメ見てたからなんだけど」
……優花は純粋な子だから、ときどきこうして変な方向にずれてるんだよなぁ……。
「冷静に考えてみて? ――男からすると、よっぽど自分がイケメンとか社長とか高い車から声かけるとかじゃない限り、自分が口説かなければ絶対に下着すら目にすることができないはずの女性が、自分から脱いで迫ってきているんだよ? 何かのトラップだって思うよ?」
「ト、トラップ……」
「うん。むしり取られるだけの甘い罠……怖いお兄さんたちが出てきたり、『捕食』されるって感じるんだよ?」
そういえば、カマキリって交尾の後で用済みの雄をもぐもぐばりばりしてリサイクルするんだってね。
種族を残すためとしてはこれ以上なく効率的だよね。
雄としては同情しすぎるけどさ。
「け、けれど、男性は女体なら興奮すると……」
「恐怖心がある状態で興奮できる男は……げろげろ先生みたいに、ごく一部の極めて特殊な性癖持ちだけだよ……」
段々と理解してきてくれたらしい優花は、次第に顔が青くなっていく。
……良かった。
優花が将来の旦那さんを「この人ね!」って決めて、2人きりになったとたんにすっぱだかになってカマキリみたいに捕食する未来を回避できて。
そんなことになったなら……僕はもう、その哀れな旦那さんに顔向けできないもん。
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