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12章 日常に立ちはだかる敵と味方と
141話 ひより先生とお家デート
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「おじゃまします」
「よ、ようこひょっ!」
見知らぬ家。
普段の僕なら絶対この時点で胃がきりきりして汗もだくだくになってるけども、ここがひより先生の家だと思うとなぜかかなり楽になっていて。
なぜか「ここに来たことがあるから見知らぬ場所じゃない」――そんなよく分からない感覚のおかげで、なんとかなりそうだ。
――ふりふり。
家の前に停まったままの、僕を連れてきてくれた車の窓から見てきている優花に手を振って、招かれるままにお邪魔する。
ちなみにその車は空よりも暗い車体のリムジンってやつで、運転手の女の人は優しいのにちょっと怖かった。
なぜか、こう……ふと見上げるとかならずバックミラー越しに僕を見ている気がしたんだ。
そんなはずはないって知ってるのにね。
けども――実の妹よりも年下の女の子の家に上がるとか、元の男の体だったらこの時点で犯罪だけども大丈夫、今の僕は実の妹の妹扱いになるほど幼い女の子だから。
ひより先生の貴重な絵の才能を損なわないためにも、彼女が開けっ放しのドアに滑り込み、玄関へ到着。
ふわりと、ひより先生の家の匂い。
そうだ……他人の家は、それぞれの匂いとかがあったんだよね。
僕が最後にこうしてお邪魔とかしたのは、小学生くらいだったか。
「どうぞ!」
「……ずいぶんかわいいですね」
「お気に入りです!」
玄関先で用意されていたのは、ひより先生が履き直しているもこもことした素材のうさぎの顔が足先を包む――歩くたびにお耳がぴょこぴょこ揺れるスリッパ。
ピンクと水色、色違いのそれらは、恐らくは普段先生が履き回しているものなんだろう。
足を入れてみると中身はふかふかだ。
うん。
確かにこの寒き季節にはぴったりだし、なによりも――
「?」
……先生の、子供らしいかわいさにはぴったりなアイテムだ。
「こはねちゃんさん、気分の方は?」
「はい、大丈夫みたいです」
「よかったぁ」
ぱたぱた、ぺたぺた。
先生に案内されるままに廊下を歩く。
「……ところで先生」
「はい!」
僕は、そんな先生の後ろ姿を眺めて言う。
「……僕、外には出ませんよ?」
「知ってます!」
「じゃあなんで、そんなにおしゃれ――なんだと思います、男だからよく分かりませんけど、この前優花に着せられたからなんとなくで――してるんですか?」
「はわっ!?」
振り返ってきた先生は、この季節にはちょっと寒そうなカーディガンの下にセーター、シャツ……おまけにネックレスもしてるし、なんなら慣れてないんだろう、目立つ口紅もしている。
よく見るとまつげがやたらと長いし……あ、イヤリングもしてる。
けど、これって……。
「……撮影とかするんですか?」
「こ、こはねひゃんといっひょなら!」
「落ち着きましょう先生。先生が良いんならそれで良いので」
そうだ、先生は僕と同じく対人関係が苦手で、学校ではこの見た目の小動物的な愛くるしさのおかげでマスコットになっている存在なんだ。
これだけのおめかしをしている=家に招き入れた中身成人男性な僕を警戒している、っていうこと。
大丈夫、僕の人見知りを先生に当てはめて考えたら彼女の本能的な行動はちゃんと予測できるから。
「……か、かわひぃでしゅか? あぅ……」
「かわいいと思いますよ。配信でシスコンって呼ばれるほど優花のことは美人さんだと思ってますけど、優花と同じくらいにそう思います」
「 」
「先生? ……おーい、先生?」
怒ってはいないと思うけども顔が赤くなった先生は、それから1分くらい立ったままフリーズしていた。
◇
「………………………………」
「お、おそうじはちゃんとしたはずなんですけど……」
もじもじと――分かる、他人を自分の部屋に入れるのってすっごくストレスフルで体が落ち着かないし、焦って汗も出るし顔も真っ赤になるよね――自分の家なのに居心地の悪そうな先生も部屋の様子もしげしげとは観察しないようにして、明らかに用意されているクッションへ向かう。
ぽすりと座り――あ、もこもこしてて座り心地が良い、特にふとももがこしょばゆくって。
………………………………。
ごそごそ。
僕は、優花に穿かされたスカートをおしりの下まで差し込んでふとももを保護する。
あとついでに、無意識で女の子座りしていた僕自身に落ち込む。
「じゅ、ジュースとおかしどうじょっ!」
「はい、ありがとうございます」
とりあえずでくぴりとジュースをひとくち、自然な様子を演出して先生の不快感を紛らわせる試み。
――けど、うん。
観察しなくっても、目に入ってくるもんだから分かる。
このくらいのことは話をしても大丈夫だろう。
「普段のイラストで隅っこにあったりキャラクターに持たせているぬいぐるみ……あれ、先生の部屋のがモデルなんですね。どれもどこかのイラストで見たことがある気がします」
「!! そ、そうなんですっ! こはねちゃんさん、よく色合いとか構図とかで褒めてくれて嬉しくって! だからいつもこの子たちを……」
ぱぁっと恥ずかしさを忘れた先生が、最寄りの――ベッドの上っていうか壁沿いに10体くらい並んでいて、僕なら夜中に無機物から見つめられる恐怖で発狂するだろう――ぬいぐるみを手に取り、胸元でだっこしている。
「………………………………」
30センチくらいのなかなかなサイズのぬいぐるみへ頬ずりをしながら話す先生は――どう見ても小学生女子、あるいは幼稚園女子だった。
「よ、ようこひょっ!」
見知らぬ家。
普段の僕なら絶対この時点で胃がきりきりして汗もだくだくになってるけども、ここがひより先生の家だと思うとなぜかかなり楽になっていて。
なぜか「ここに来たことがあるから見知らぬ場所じゃない」――そんなよく分からない感覚のおかげで、なんとかなりそうだ。
――ふりふり。
家の前に停まったままの、僕を連れてきてくれた車の窓から見てきている優花に手を振って、招かれるままにお邪魔する。
ちなみにその車は空よりも暗い車体のリムジンってやつで、運転手の女の人は優しいのにちょっと怖かった。
なぜか、こう……ふと見上げるとかならずバックミラー越しに僕を見ている気がしたんだ。
そんなはずはないって知ってるのにね。
けども――実の妹よりも年下の女の子の家に上がるとか、元の男の体だったらこの時点で犯罪だけども大丈夫、今の僕は実の妹の妹扱いになるほど幼い女の子だから。
ひより先生の貴重な絵の才能を損なわないためにも、彼女が開けっ放しのドアに滑り込み、玄関へ到着。
ふわりと、ひより先生の家の匂い。
そうだ……他人の家は、それぞれの匂いとかがあったんだよね。
僕が最後にこうしてお邪魔とかしたのは、小学生くらいだったか。
「どうぞ!」
「……ずいぶんかわいいですね」
「お気に入りです!」
玄関先で用意されていたのは、ひより先生が履き直しているもこもことした素材のうさぎの顔が足先を包む――歩くたびにお耳がぴょこぴょこ揺れるスリッパ。
ピンクと水色、色違いのそれらは、恐らくは普段先生が履き回しているものなんだろう。
足を入れてみると中身はふかふかだ。
うん。
確かにこの寒き季節にはぴったりだし、なによりも――
「?」
……先生の、子供らしいかわいさにはぴったりなアイテムだ。
「こはねちゃんさん、気分の方は?」
「はい、大丈夫みたいです」
「よかったぁ」
ぱたぱた、ぺたぺた。
先生に案内されるままに廊下を歩く。
「……ところで先生」
「はい!」
僕は、そんな先生の後ろ姿を眺めて言う。
「……僕、外には出ませんよ?」
「知ってます!」
「じゃあなんで、そんなにおしゃれ――なんだと思います、男だからよく分かりませんけど、この前優花に着せられたからなんとなくで――してるんですか?」
「はわっ!?」
振り返ってきた先生は、この季節にはちょっと寒そうなカーディガンの下にセーター、シャツ……おまけにネックレスもしてるし、なんなら慣れてないんだろう、目立つ口紅もしている。
よく見るとまつげがやたらと長いし……あ、イヤリングもしてる。
けど、これって……。
「……撮影とかするんですか?」
「こ、こはねひゃんといっひょなら!」
「落ち着きましょう先生。先生が良いんならそれで良いので」
そうだ、先生は僕と同じく対人関係が苦手で、学校ではこの見た目の小動物的な愛くるしさのおかげでマスコットになっている存在なんだ。
これだけのおめかしをしている=家に招き入れた中身成人男性な僕を警戒している、っていうこと。
大丈夫、僕の人見知りを先生に当てはめて考えたら彼女の本能的な行動はちゃんと予測できるから。
「……か、かわひぃでしゅか? あぅ……」
「かわいいと思いますよ。配信でシスコンって呼ばれるほど優花のことは美人さんだと思ってますけど、優花と同じくらいにそう思います」
「 」
「先生? ……おーい、先生?」
怒ってはいないと思うけども顔が赤くなった先生は、それから1分くらい立ったままフリーズしていた。
◇
「………………………………」
「お、おそうじはちゃんとしたはずなんですけど……」
もじもじと――分かる、他人を自分の部屋に入れるのってすっごくストレスフルで体が落ち着かないし、焦って汗も出るし顔も真っ赤になるよね――自分の家なのに居心地の悪そうな先生も部屋の様子もしげしげとは観察しないようにして、明らかに用意されているクッションへ向かう。
ぽすりと座り――あ、もこもこしてて座り心地が良い、特にふとももがこしょばゆくって。
………………………………。
ごそごそ。
僕は、優花に穿かされたスカートをおしりの下まで差し込んでふとももを保護する。
あとついでに、無意識で女の子座りしていた僕自身に落ち込む。
「じゅ、ジュースとおかしどうじょっ!」
「はい、ありがとうございます」
とりあえずでくぴりとジュースをひとくち、自然な様子を演出して先生の不快感を紛らわせる試み。
――けど、うん。
観察しなくっても、目に入ってくるもんだから分かる。
このくらいのことは話をしても大丈夫だろう。
「普段のイラストで隅っこにあったりキャラクターに持たせているぬいぐるみ……あれ、先生の部屋のがモデルなんですね。どれもどこかのイラストで見たことがある気がします」
「!! そ、そうなんですっ! こはねちゃんさん、よく色合いとか構図とかで褒めてくれて嬉しくって! だからいつもこの子たちを……」
ぱぁっと恥ずかしさを忘れた先生が、最寄りの――ベッドの上っていうか壁沿いに10体くらい並んでいて、僕なら夜中に無機物から見つめられる恐怖で発狂するだろう――ぬいぐるみを手に取り、胸元でだっこしている。
「………………………………」
30センチくらいのなかなかなサイズのぬいぐるみへ頬ずりをしながら話す先生は――どう見ても小学生女子、あるいは幼稚園女子だった。
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