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1章 女装して屋敷を堕とした(7歳スタート・すでに手遅れっぽいけど)
12話 我が主君――ジュリオン様(by ベルトラン)1
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あの日。
珍しく――本当に珍しく。
ワインの樽を幾つか空けただけで口が軽くなられたあの御方は、続けられました。
――「『アアマルドハイルエエストラククテンセイィ』がこの身に降りかかるならば、この世界に生を受けたいと思った」
恐らくは、余りにも貧弱な人類を救うため、王家にその魂を、人の器で下ろすための儀式――それが「アアマルドハイルエエストラククテンセイィ」なのでしょう。
それは一体どのような――いえ、大変失礼致しました。
天上の儀式を、只の人が知ろうなどと……。
――「だが――それは、余りにも早かった」
早かった――つまり我ら人類が不甲斐なさ過ぎるため、これからさらに魔族に押される――そのような未来があるのでしょう。
――「私は、失望した」
私めは絶望しました。
その言葉で、首を掻ききろうとしました。
――「だが、以後は楽しかった――特に、メインシナリオノジュリオンサマを産んで5歳まで育てる、あの伝説の母親になれるのだと知ってから」
しかし――先日にお生まれになったばかりの第二子息、ジュリオン様のことを口にされるあの御方は――目を細められ、どれだけ愛されているかを示しておられました。
……私めが余りにも浅学なために終ぞその全ては理解できませなんだが、このように――つまりは御身が天上界より降り立った、誠の女神であると遠回しに告げられ。
――「私は、あと5年――ジュリオンが5歳を迎えた後に、理不尽な王命により、彼が――息子が成人を無事に迎えるのを見届けることなく、命を落とす。……泣くな、そは天の定め、我が父の意思にも非ず。……ええいだから泣くなベルトラン。……何だ、盗み聞きしていたのかお前たち。……良いだろう」
――「騎士団の諸君。私はお前たちが――『ジュリオンがこの世界の希望となるその日』まで。『ジュリオンと共に魔王軍を壊滅させるまで活躍する』ことを、切に願っている。たとえジュリオンがどのような言動を取ったにしても――彼が人類を見限るまでは、供をせよ」と。
そう、言い残され――王国の、人類そのものの、政治力学上の最大の汚点により――当時の魔王軍四天王全員、配下の魔族十数余名、配下の魔物百万の猛攻撃を、たったお一人で排除し続けて丸三日。
援軍が――私めが1瞬たりとも無駄にせずに、けれども遅々とし進まぬ貴族同士の舞踏のせいで遅れに遅れた決定で駆けつけることができた我らが援軍は――息絶えられた――けれども数多の緑に染まった平原に一人、まるで生きているかのように。
まさに彫刻の女神の如くに美しく佇んだまま――我らの心に、消えぬ罪を植え付けて、その女神たる魂は天上へとお帰りになられました。
◇
そうして私めは、王直々のねぎらいも耳に入れられず――気がつけばあの御方の屋敷に。
あの御方の忘れ形見の御座す平穏な空間に、余生を託しました。
――曰く、「マジイケメンだったゆえ、私が奇襲を掛けたのよ。ははっ、三日三晩で孕んだのは幸運だったわ。回復魔法は素晴らしいな」と、実に素敵な笑顔でまた数多の兵士たちを不能にせしめました末の、あの御方がご成婚と時期を置かずにご生誕なさった兄君。
……不敬にも正直に申しますと、我らがそろって首をかしげるほどに平凡で、しかしながら平時の辺境伯としては申し分ない才を持つ御方でございます。
「マジイケメン」という言葉の意味は真実を知る神学者でも理解できませんでしたが、きっと御身が人界に降りる何かしらの縁によるものだと推測されるのです。
顔が――いえ、魂が、お美しかった。
あのお人、旦那様は……少なくとも人を裏切るということを致しません。
きっと、それもまた美徳なのでしょう。
我ら凡人には知り得ぬ何かが、あった。
だから、夫にと選ばれた。
それはかつて、私めを――当時はまだ何も知らなければ何もできぬ、蔑まれるだけの存在でした、私めの才を見出され――実力で王国最高位の騎士団長にまで成った、このベルトランを一目で。
まるで「未来を見てきた」かのような、あのお美しい眼で、デュクロワ様を選ばれた。
ならば――と、話し合った私め共は、以後デュクロワ様へも忠誠を誓ったのです。
そうしてお生まれになった――「その生誕の十年以上も前に名付けを終えられていた」「次のあの御方の」――前にお生まれになった兄君は、全てにおいて父君の映し鏡。
当主様が老いた暁には、当主様と寸分違わずに無難であり、かつ必要なお役目を果たされるでしょう男子でございます。
辺境伯として、侯爵家に連なる者として――魔王軍との最前線のこの領を守り切れるだけの才のある、素晴らしい御方でございます。
お姿も持って生まれた才も、性格も――そして、少々口下手で不器用で、けれどもやはり貴族政治の暗い部分を嫌う性格も、父君にそっくりで。
そのために、次男であらせられる――そしてセレスティーヌ様が最も愛された御方に嫌われる御方でございます。
――そうでございます、その次にお生まれになった御方。
私めの――失意の末に老いぼれとなってから俄に姿を現された、セレスティーヌ様と同等の敬意を捧げるようになりました御方。
かつてセレスティーヌ様が、お生まれになる十数年前から、その名付けと運命までをお決めになられていた御方。
あの御方に、最も望まれて生を受けた男子。
ジュリオン・デュクロワ様。
その御方は――男子でありながら絶世の美を備え、特にセレスティーヌ様を幼少期から見守ってきた侍女たちに言わせると「セレスティーヌ様の再来」である御方。
セレスティーヌ様と同じ銀の細い髪に、父君の紫。
宝石のような紅の目、雪のような肌――そして、幼きころのあの御方と同様、余りに才をお持ちになり、余りに世界を理解される余りに、我らへの歯痒さで癇癪を起こしてしまわれる、悲しき宿命。
歯痒さの余りに――我ら人類の愚かさを知り尽くし、そして漸くにその差異を考慮の上に導けるかを悟られるまでの、筆舌に尽くしがたいとしか表現されぬ苦しみを、抱えられて。
全てが――全てが、同じでございます。
――私めの若き日に、恐れ多すぎるものの――身分違いの恋を抱いた、あの姿形に精神、全てが完全に受け継がれた御方。
お美しすぎる見た目の故か、セレスティーヌ様より「可能な限りに社交界には出すな。町へも出すな。――自分から出たいと言うまでは、な」と厳命されておりました、あの御方がお生まれになったのです。
珍しく――本当に珍しく。
ワインの樽を幾つか空けただけで口が軽くなられたあの御方は、続けられました。
――「『アアマルドハイルエエストラククテンセイィ』がこの身に降りかかるならば、この世界に生を受けたいと思った」
恐らくは、余りにも貧弱な人類を救うため、王家にその魂を、人の器で下ろすための儀式――それが「アアマルドハイルエエストラククテンセイィ」なのでしょう。
それは一体どのような――いえ、大変失礼致しました。
天上の儀式を、只の人が知ろうなどと……。
――「だが――それは、余りにも早かった」
早かった――つまり我ら人類が不甲斐なさ過ぎるため、これからさらに魔族に押される――そのような未来があるのでしょう。
――「私は、失望した」
私めは絶望しました。
その言葉で、首を掻ききろうとしました。
――「だが、以後は楽しかった――特に、メインシナリオノジュリオンサマを産んで5歳まで育てる、あの伝説の母親になれるのだと知ってから」
しかし――先日にお生まれになったばかりの第二子息、ジュリオン様のことを口にされるあの御方は――目を細められ、どれだけ愛されているかを示しておられました。
……私めが余りにも浅学なために終ぞその全ては理解できませなんだが、このように――つまりは御身が天上界より降り立った、誠の女神であると遠回しに告げられ。
――「私は、あと5年――ジュリオンが5歳を迎えた後に、理不尽な王命により、彼が――息子が成人を無事に迎えるのを見届けることなく、命を落とす。……泣くな、そは天の定め、我が父の意思にも非ず。……ええいだから泣くなベルトラン。……何だ、盗み聞きしていたのかお前たち。……良いだろう」
――「騎士団の諸君。私はお前たちが――『ジュリオンがこの世界の希望となるその日』まで。『ジュリオンと共に魔王軍を壊滅させるまで活躍する』ことを、切に願っている。たとえジュリオンがどのような言動を取ったにしても――彼が人類を見限るまでは、供をせよ」と。
そう、言い残され――王国の、人類そのものの、政治力学上の最大の汚点により――当時の魔王軍四天王全員、配下の魔族十数余名、配下の魔物百万の猛攻撃を、たったお一人で排除し続けて丸三日。
援軍が――私めが1瞬たりとも無駄にせずに、けれども遅々とし進まぬ貴族同士の舞踏のせいで遅れに遅れた決定で駆けつけることができた我らが援軍は――息絶えられた――けれども数多の緑に染まった平原に一人、まるで生きているかのように。
まさに彫刻の女神の如くに美しく佇んだまま――我らの心に、消えぬ罪を植え付けて、その女神たる魂は天上へとお帰りになられました。
◇
そうして私めは、王直々のねぎらいも耳に入れられず――気がつけばあの御方の屋敷に。
あの御方の忘れ形見の御座す平穏な空間に、余生を託しました。
――曰く、「マジイケメンだったゆえ、私が奇襲を掛けたのよ。ははっ、三日三晩で孕んだのは幸運だったわ。回復魔法は素晴らしいな」と、実に素敵な笑顔でまた数多の兵士たちを不能にせしめました末の、あの御方がご成婚と時期を置かずにご生誕なさった兄君。
……不敬にも正直に申しますと、我らがそろって首をかしげるほどに平凡で、しかしながら平時の辺境伯としては申し分ない才を持つ御方でございます。
「マジイケメン」という言葉の意味は真実を知る神学者でも理解できませんでしたが、きっと御身が人界に降りる何かしらの縁によるものだと推測されるのです。
顔が――いえ、魂が、お美しかった。
あのお人、旦那様は……少なくとも人を裏切るということを致しません。
きっと、それもまた美徳なのでしょう。
我ら凡人には知り得ぬ何かが、あった。
だから、夫にと選ばれた。
それはかつて、私めを――当時はまだ何も知らなければ何もできぬ、蔑まれるだけの存在でした、私めの才を見出され――実力で王国最高位の騎士団長にまで成った、このベルトランを一目で。
まるで「未来を見てきた」かのような、あのお美しい眼で、デュクロワ様を選ばれた。
ならば――と、話し合った私め共は、以後デュクロワ様へも忠誠を誓ったのです。
そうしてお生まれになった――「その生誕の十年以上も前に名付けを終えられていた」「次のあの御方の」――前にお生まれになった兄君は、全てにおいて父君の映し鏡。
当主様が老いた暁には、当主様と寸分違わずに無難であり、かつ必要なお役目を果たされるでしょう男子でございます。
辺境伯として、侯爵家に連なる者として――魔王軍との最前線のこの領を守り切れるだけの才のある、素晴らしい御方でございます。
お姿も持って生まれた才も、性格も――そして、少々口下手で不器用で、けれどもやはり貴族政治の暗い部分を嫌う性格も、父君にそっくりで。
そのために、次男であらせられる――そしてセレスティーヌ様が最も愛された御方に嫌われる御方でございます。
――そうでございます、その次にお生まれになった御方。
私めの――失意の末に老いぼれとなってから俄に姿を現された、セレスティーヌ様と同等の敬意を捧げるようになりました御方。
かつてセレスティーヌ様が、お生まれになる十数年前から、その名付けと運命までをお決めになられていた御方。
あの御方に、最も望まれて生を受けた男子。
ジュリオン・デュクロワ様。
その御方は――男子でありながら絶世の美を備え、特にセレスティーヌ様を幼少期から見守ってきた侍女たちに言わせると「セレスティーヌ様の再来」である御方。
セレスティーヌ様と同じ銀の細い髪に、父君の紫。
宝石のような紅の目、雪のような肌――そして、幼きころのあの御方と同様、余りに才をお持ちになり、余りに世界を理解される余りに、我らへの歯痒さで癇癪を起こしてしまわれる、悲しき宿命。
歯痒さの余りに――我ら人類の愚かさを知り尽くし、そして漸くにその差異を考慮の上に導けるかを悟られるまでの、筆舌に尽くしがたいとしか表現されぬ苦しみを、抱えられて。
全てが――全てが、同じでございます。
――私めの若き日に、恐れ多すぎるものの――身分違いの恋を抱いた、あの姿形に精神、全てが完全に受け継がれた御方。
お美しすぎる見た目の故か、セレスティーヌ様より「可能な限りに社交界には出すな。町へも出すな。――自分から出たいと言うまでは、な」と厳命されておりました、あの御方がお生まれになったのです。
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