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1章 女装して屋敷を堕とした(7歳スタート・すでに手遅れっぽいけど)
12話 我が主君――ジュリオン様(by ベルトラン)2
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セレスティーヌ様の再来であらせられる、ジュリオン様。
セレスティーヌ様が最も愛しておられた、ジュリオン様。
幼い身ながらも、余りにセレスティーヌ様を思わせるそのお顔は、ただ向けられるだけで周囲を虜にして回ります。
無論、私めも――ただし、性別だけが違うため、私めの呪いは解かれ。
辛うじて引退する前、あの御方が身罷る前に、私めは――こんな私めを愛してくれ、しかし拒絶するしかなかった女性の恋をようやくに受け入れることができたのでございます。
それも、勿論あの御方の勧めで。
「ベルトラン、貴様も男だろう。……幸せにしてやれ。良いな?」と。
……その数日後、「漸く男を見せたか。遅い。だが、幸せになれ。家庭を幸せにしてやれ。それが、私からの最後の命令だ。子は、2人だ。必ず恵まれよ。……良いな?」と、恐れ多くも涙を含んだ声で諭されたのを――今になって、理解している次第でございまする。
あの時点には、もうあの御方はご自身の最期をきっと――――――――。
……さて、ジュリオン様は、母君となられた御身の現し身。
ゆえに、私めが夢想しておりました彼女の幼少期そのままでございました。
――世界への理想が高すぎる故に、周囲の使用人へ強く当たられる。
――ご自身への理想が高すぎる故に、幾度となくご自身へ憤慨され、瞑想のために数日間引きこもられる。
――伴侶への理想が高すぎる故に、婚約者に対しても……このことはまだよろしいでしょう。
――そして、ご自身と血を分かつ、ご家族への理想もまた高すぎる故に――病弱であられるアメリア様へ、どのように接すれば宜しいのか分からず、距離を置かれる。
――使用人への理想が高すぎる故に、エミリー様――へは。
そう、エミリー様へは――驚くほどに優しく接しておられる。
彼女は、致命的なまでに身体の制御と思考の制御を苦手にしております。
故に日に何度も転び、食器を割り、皿をぶちまけ――とうとう今朝にはジュリオン様に向かって、馬小屋掃除のために汲んだばかりの井戸水を、朝には氷の張っていたでしょう冷水を、使い古した雑巾とともに頭から被せたと聞きます。
――いくらエミリー様がご親戚であられ、かつ将来の側室として与えられた身分とは言え、これほどのことを奉公に来られた時分から続けられていたら、幾ら何でも堪忍できないのが人の限界。
良くて追放、悪くて実家へも処分の上、彼女を手ずから処刑も許されるどころか、せずば思い切りの無い腑抜けと罵倒されるも致し方なし。
今日という今日は、普段の折檻での魔法でも――肌に後痕を残す程度なのが、とうとうに治癒魔法使いを緊急で呼ばねば命を落とすほどになるやも知れませぬ。
そう思いました。
しかしあの御方は――ジュリオン様は。
この2年間、セレスティーヌ様の後ろ盾を失い、愚かを演じていたあの御方は、それを――派手な音と光の出る、かつ威力が最小限の初級魔法を応用された上級魔法――通常ならば学園の最終学園で漸くに習得するべき秘術で、他の使用人たちの前で痛めつける演技を続けられ。
それで――全てを。
彼女の全てを――お許しになられておりました。
たった、それだけで。
――馬を洗う水で頭からずぶ濡れにさせても、とうとうに叱ることもなされず――で、ございます。
そして――それがきっかけだったのか、それともそろそろ頃合いだと決めておられたのか。
突如として凡愚貴族の「長男の万が一への、予備としての、平凡な青き血を引いた男子」としての演技をお止めになり――セレスティーヌ様の、亡き母上のための追想曲を奏でられ始めました。
もはや、この曲は終わることがございません。
少なくとも――セレスティーヌ様が今際の際に感じられたでありましょう、人類への絶望を癒やさない限りには。
――私め、でございますか?
無論、何があろうと――最後までお供致します。
それは、あの瞬間に――セレスティーヌ様の得意とされていた、魔族も恐れる秘奥義「えびるじゃっじめんと」なる出所不明の闇魔法を。
なんでも「それと対となる魔法と組み合わせること」で天上の神々にも届くほどの威力になるというその魔法を。
弱冠5歳にして――恐らくはその母君がご成婚間際に完成なされた、あの大魔法を。
誰も教える者など居らず、誰にも教えることなど不可能でした、あの極大魔法をも超える魔法――「現象」を。
あの御方が身罷られた5歳の頃には、まだ幼く、どう足掻こうとも習得不可能どころか伝授さえ叶わなかったでしょう奇跡を――それからたったの2年で、しかもご自身で編み出されたのを拝見した瞬間に決意致した次第でございます。
嗚呼。
血は、魂は――母から子への才とは、こうして伝承されるのだと。
このベルトラン、脳髄までが震えました。
少なくとも。
――少なくとも……16にしてデュクロワ辺境伯を襲――逆レ――もとい恋仲になられて身籠もられ――20を越えるも、なお16の少女としての美貌のままで居られ。
変わらずに30を少しばかり過ぎてから身罷られた――余りに短命のセレスティーヌ様よりも長い人生を、今度こそ。
そう――この老いぼれは、願うのでございます。
……は?
恋心でございますか?
怖れながら――男子の初恋とは、死ぬるまで消えることはないのでございます。
例えそれが、その御子であり男子であられようとも。
……はは、妻に怒られてしまいますな。
ですがきっと、セレスティーヌ様の忘れ形見への懸想であれば、許してくれるでしょう。
なにしろあのお姿は――「初めから少女としてお生まれになった」と錯覚しかねない美貌ですので。
セレスティーヌ様が最も愛しておられた、ジュリオン様。
幼い身ながらも、余りにセレスティーヌ様を思わせるそのお顔は、ただ向けられるだけで周囲を虜にして回ります。
無論、私めも――ただし、性別だけが違うため、私めの呪いは解かれ。
辛うじて引退する前、あの御方が身罷る前に、私めは――こんな私めを愛してくれ、しかし拒絶するしかなかった女性の恋をようやくに受け入れることができたのでございます。
それも、勿論あの御方の勧めで。
「ベルトラン、貴様も男だろう。……幸せにしてやれ。良いな?」と。
……その数日後、「漸く男を見せたか。遅い。だが、幸せになれ。家庭を幸せにしてやれ。それが、私からの最後の命令だ。子は、2人だ。必ず恵まれよ。……良いな?」と、恐れ多くも涙を含んだ声で諭されたのを――今になって、理解している次第でございまする。
あの時点には、もうあの御方はご自身の最期をきっと――――――――。
……さて、ジュリオン様は、母君となられた御身の現し身。
ゆえに、私めが夢想しておりました彼女の幼少期そのままでございました。
――世界への理想が高すぎる故に、周囲の使用人へ強く当たられる。
――ご自身への理想が高すぎる故に、幾度となくご自身へ憤慨され、瞑想のために数日間引きこもられる。
――伴侶への理想が高すぎる故に、婚約者に対しても……このことはまだよろしいでしょう。
――そして、ご自身と血を分かつ、ご家族への理想もまた高すぎる故に――病弱であられるアメリア様へ、どのように接すれば宜しいのか分からず、距離を置かれる。
――使用人への理想が高すぎる故に、エミリー様――へは。
そう、エミリー様へは――驚くほどに優しく接しておられる。
彼女は、致命的なまでに身体の制御と思考の制御を苦手にしております。
故に日に何度も転び、食器を割り、皿をぶちまけ――とうとう今朝にはジュリオン様に向かって、馬小屋掃除のために汲んだばかりの井戸水を、朝には氷の張っていたでしょう冷水を、使い古した雑巾とともに頭から被せたと聞きます。
――いくらエミリー様がご親戚であられ、かつ将来の側室として与えられた身分とは言え、これほどのことを奉公に来られた時分から続けられていたら、幾ら何でも堪忍できないのが人の限界。
良くて追放、悪くて実家へも処分の上、彼女を手ずから処刑も許されるどころか、せずば思い切りの無い腑抜けと罵倒されるも致し方なし。
今日という今日は、普段の折檻での魔法でも――肌に後痕を残す程度なのが、とうとうに治癒魔法使いを緊急で呼ばねば命を落とすほどになるやも知れませぬ。
そう思いました。
しかしあの御方は――ジュリオン様は。
この2年間、セレスティーヌ様の後ろ盾を失い、愚かを演じていたあの御方は、それを――派手な音と光の出る、かつ威力が最小限の初級魔法を応用された上級魔法――通常ならば学園の最終学園で漸くに習得するべき秘術で、他の使用人たちの前で痛めつける演技を続けられ。
それで――全てを。
彼女の全てを――お許しになられておりました。
たった、それだけで。
――馬を洗う水で頭からずぶ濡れにさせても、とうとうに叱ることもなされず――で、ございます。
そして――それがきっかけだったのか、それともそろそろ頃合いだと決めておられたのか。
突如として凡愚貴族の「長男の万が一への、予備としての、平凡な青き血を引いた男子」としての演技をお止めになり――セレスティーヌ様の、亡き母上のための追想曲を奏でられ始めました。
もはや、この曲は終わることがございません。
少なくとも――セレスティーヌ様が今際の際に感じられたでありましょう、人類への絶望を癒やさない限りには。
――私め、でございますか?
無論、何があろうと――最後までお供致します。
それは、あの瞬間に――セレスティーヌ様の得意とされていた、魔族も恐れる秘奥義「えびるじゃっじめんと」なる出所不明の闇魔法を。
なんでも「それと対となる魔法と組み合わせること」で天上の神々にも届くほどの威力になるというその魔法を。
弱冠5歳にして――恐らくはその母君がご成婚間際に完成なされた、あの大魔法を。
誰も教える者など居らず、誰にも教えることなど不可能でした、あの極大魔法をも超える魔法――「現象」を。
あの御方が身罷られた5歳の頃には、まだ幼く、どう足掻こうとも習得不可能どころか伝授さえ叶わなかったでしょう奇跡を――それからたったの2年で、しかもご自身で編み出されたのを拝見した瞬間に決意致した次第でございます。
嗚呼。
血は、魂は――母から子への才とは、こうして伝承されるのだと。
このベルトラン、脳髄までが震えました。
少なくとも。
――少なくとも……16にしてデュクロワ辺境伯を襲――逆レ――もとい恋仲になられて身籠もられ――20を越えるも、なお16の少女としての美貌のままで居られ。
変わらずに30を少しばかり過ぎてから身罷られた――余りに短命のセレスティーヌ様よりも長い人生を、今度こそ。
そう――この老いぼれは、願うのでございます。
……は?
恋心でございますか?
怖れながら――男子の初恋とは、死ぬるまで消えることはないのでございます。
例えそれが、その御子であり男子であられようとも。
……はは、妻に怒られてしまいますな。
ですがきっと、セレスティーヌ様の忘れ形見への懸想であれば、許してくれるでしょう。
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