新たな道の行く先に

常盤桜

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第一話

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「本当に、夢が叶ったのね・・・。」

感慨深く呟いて、ユウェルは鏡の中の自分をじっと見つめた。

鏡の中の自分が着ているのは、王宮専属教師の制服だ。黒を基調としたシンプル且つ洗礼されたデザインのそれは、王宮専属教師の肩書きを持つものだけが着ることを許された特別な制服であり、ユウェルにとっては10年間追い求めた夢が叶った証でもある。

「お嬢様、おはようございます。みなさまダイニングルームでお待ちですが、お支度はお済みでしょうか?」

「えぇ、済んでるわ。すぐ行くわね。」

鏡にうつる自分の姿を見つめていたユウェルは、扉をノックする音で我に返り、気恥ずかしさを誤魔化すように努めて落ち着いた声で返事をした。どうやら自分で思っている以上に浮かれているようだ。こんなことではいけないと、ユウェルは深呼吸をして気を引き締め、部屋を出た。

朝食が用意されたダイニングルームでは、両親と兄が既に席についていた。

「おはよう、ユウェル。」

「おはようございます。お待たせしてしまってごめんなさい。」

「制服、とてもよく似合っているよ。」

「本当に!とっても素敵だわ。」

「お父さま、お母さまも、ありがとう。」

「いよいよ今日からだな!何か困ったことがあれば俺に言うんだぞ?ユウェルが詰所に来たらすぐに俺を呼ぶように言っておくから。」

若くして王宮騎士団第1隊の隊長を勤めている兄は、両親以上に過保護なところがある。

「ありがとう、お兄さま。頼りにしてるわ。」

夢を叶えたことを自分のことのように喜んでくれる家族を見て、アムスブルク家の名に恥じぬよう立派に勤めようという決意を、ユウェルは改めて心に刻んだ。



ユウェルは幼い頃から本を読むのが大好きな女の子だった。本の中には自分の知らない世界が広がっていて、いつだってユウェルを夢中にさせてくれた。

そんなユウェルが王宮専属教師を志すようになったのは、ひとりの女性との出会いがきっかけだった。

ユウェルの12歳の誕生日を祝うパーティーが開かれていたその日、アムスブルク家を訪れていた母の古い友人の女性が、

「たくさん本を読んでいろんなことを知るのが楽しいの!」

と、目を輝かせて語るユウェルに ”それなら王宮専属教師を目指してみてはどうか” と勧めてくれたのだ。自身の娘が実際に王宮専属教師として働いていたというその女性は、ひとりで知識を得るのも楽しいが、その知識を誰かと共有するのもまた楽しいものらしいと聞かせてくれた。あらゆる分野の専門家たちが集まる機関だから、広く新しい世界に出会うこともできるのだそうよ、と。ユウェルの将来の夢が決まった瞬間だった。

その日からユウェルはますます本に夢中になった。家の書庫にある本を読み終えてしまうと、今度は街の書店に通い、興味をそそられた本はすべて買い集めた。
そんなユウェルのために、父は侯爵邸の庭に小さな図書室を建ててくれ、兄は護衛の仕事で遠征すると必ずその土地ならではの本をお土産に買ってきてくれた。母も、社交よりも勉強を優先させるユウェルに、あなたはそれでいいのよ、といつでも味方でいてくれた。家族の支えがあったからこそ、自分は今こうして憧れの制服を着ることができているのだと、心から感謝している。



「お食事中失礼します。旦那様、王宮から使いの方がいらっしゃいました。至急この手紙を確認していただきたいとのことです。」

「王宮から?こんな朝早くに手紙とは一体・・・。」

手紙を開いたメイソンは、読み始めてすぐに驚きの表情を浮かべた。

「あなた?何が書かれているのですか?」

「・・・エーデル殿下がアンジェラ嬢との婚約を解消されたそうだ。」

この国の第1王子にして王太子であるエーデル殿下と筆頭公爵家エフモントのアンジェラ嬢の婚約解消という知らせに、その場の誰もが驚きを隠せなかった。
幼い頃に結ばれたふたりの婚約は、王家と公爵家の関係性をより強固にするための政略的なものであったが、当の本人たちは初対面から息が合ったようで、仲睦まじい様子も見られたことから良好な関係を築いているようだと周囲からも祝福されていた。

「婚約解消?!なんだってそんな急に・・・半年後には結婚式が予定されていたはずです!騎士団でも既に警備の最終チェックをし終えたところですよ?!」

「詳しい話は宰相閣下に確認してからだ。ユウェル、今日は仕事を始められそうにないが、どうする?」

「私も予定通り向かいます。仕事は始められずとも事務室にいらっしゃるみなさまにご挨拶したいので。」

「そうか、それなら一緒に行こう。すぐに出られるかい?」

「はい。」

宰相補佐として勤めている父も、今日は事態の収拾に忙しくなるのだろう、王宮に到着して慌ただしく馬車から降りていった。

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