新たな道の行く先に

常盤桜

文字の大きさ
2 / 9

第二話

しおりを挟む
「アンジェラさんはあと少しで王妃教育が完了するところだったのよ?!それを今から別の令嬢を婚約者に据えて、しかも結婚式は予定通り半年後だなんて・・・。」

「新しい婚約者は男爵令嬢なんでしょう?半年で公爵令嬢のアンジェラさんと同じレベルに、なんて・・・とても間に合うとは思えないわ。」

「エーデル殿下は一体どういうおつもりなんだ・・・。」

ユウェルが王宮専属教師の事務室に着いた時には既に婚約解消の一報がもたらされていたらしく、紳士淑女の鑑と言われている彼らも、さすがにこの状況には落ち着いてはいられないようだった。

「いい加減になさい、騒ぎ立ててみっともない。」

「申し訳ありません・・・。」

「詳細がわかり次第、宰相閣下からご連絡をいただけるとのことです。それまでは憶測で物事を判断しないように。」

教師陣をまとめる事務室長のひと言で場が静かになった時、宰相自らが説明のために事務室を訪れた。

「既に聞き及んでいるかと思うが、この度エーデル王太子殿下とアンジェラ・エフモント公爵令嬢の婚約が解消されることとなった。そして殿下はラリッサ・リンデン男爵令嬢を新たな婚約者に迎えたいとおっしゃっている。」

「両陛下は何と?」

「国王陛下は反対されているが、王妃陛下は条件さえ満たせば婚約者に迎えて良いのではないかとのことだ。」

「条件、ですか?」

「あぁ。主要交易国であるホルテンシア、ケルス両国の公用語を日常会話に支障がないレベルまで習得すること。そして、外交を一任されている王妃陛下の補佐ができる程度には両国についての知識を身に付けること。最低限このふたつの条件を満たせば婚約者として迎えても良いだろう、と。」

「なるほど、現状はあくまでも婚約者候補ということですね?そして王妃陛下が出された条件をクリアできるよう、私どもがラリッサ嬢を指導する、と。」

「そういうことだ。いろいろと思うところもあるだろうが、公正な教育をお願いしたいとのことだ。」

「かしこまりました。」

宰相が退室して、ようやくユウェルの挨拶の場が設けられた。

「アムスベルク家のユウェルと申します。歴史専任として勤めてまいります。よろしくお願い致します。」

「本当は今日から研修を兼ねて授業のサポートをしてもらう予定だったのだけれど・・・まずは王妃教育の方針やスケジュールをどのように決めていくのかを覚えてもらいましょうか。」

「わかりました。」

「まずは婚約者・・・今回は婚約者候補ですが、御令嬢の学園での成績や実績、授業態度から生活態度まで、可能な限り詳細な情報を学園から送っていただき、その情報をもとに王妃教育のスケジュールや授業内容などを決めていきます。」

「ひとりひとりの性格や能力に合わせてカリキュラムを組むのですね?」

「その通りです。そうすることで、効率的な授業を行えますし、何より本人に大きな負担がかからないよう進めていくことができるのです。今回新たに婚約者候補となったラリッサ嬢の調査書も、明日には届くでしょう。」

それまでは特にすることもないからと、新人のユウェルは今日のところは帰宅することになった。

だが、まだ昼食にも早すぎるくらいの時間。せっかくなのでユウェルは図書室に行ってみることにした。王宮で働く者なら自由に利用できる王宮図書室。その蔵書の数は首都にある国立図書館をも越えるらしいという噂を聞いてから、ずっと楽しみにしていたのだ。

果たしてその噂は本当だった。ユウェルよりずっと背の高い本棚がずらりと並び、そのひとつひとつにはしごが立てかけられている。天井はステンドグラスになっており、陽光が降り注ぐところに本を読むためのスペースが設けられていた。厳かで、神聖さすら感じるその空間に、ユウェルは思わず息を飲んだ。

「何か、お困りですか?」

入り口で立ち尽くすユウェルに、司書が声をかけてきた。

「あっ、いえ、初めて来たものですから・・・あまりの美しさと蔵書の豊富さに驚いてしまって。」

「ふふ、わかります、私も初めて訪れた時は驚きましたから。こちらに案内板がございますが、何かお探しの際には遠慮なくお声がけくださいね。」

「はい、ありがとうございます。」

「ごゆっくりどうぞ。」

ユウェルはまず、王宮に関する歴史書を読んでみることにした。この国の成り立ち、歴代の国王・王妃とその政策など。ほとんどの内容はこれまで読んできた歴史書に書いてあることばかりだが、中には新たな視点で書かれたものもあり、とても興味深かった。

ユウェルは歴史が好きだ。歴史はおもしろい。歴史に関連したいろいろなことを知るのもまた、おもしろい。
例えば、約120年前に起きた大災害の時にはどんな救済措置がとられたのか、今ならどんなことができるか、未然に防ぐためには何が必要か、といった具合に、様々な出来事や人物について調べながら歴史を辿っていくのが楽しくて仕方ないのだ。
とにかく目についた歴史書を順番に手に取り、ユウェルは時間を忘れて読み耽った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...