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第二話
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「アンジェラさんはあと少しで王妃教育が完了するところだったのよ?!それを今から別の令嬢を婚約者に据えて、しかも結婚式は予定通り半年後だなんて・・・。」
「新しい婚約者は男爵令嬢なんでしょう?半年で公爵令嬢のアンジェラさんと同じレベルに、なんて・・・とても間に合うとは思えないわ。」
「エーデル殿下は一体どういうおつもりなんだ・・・。」
ユウェルが王宮専属教師の事務室に着いた時には既に婚約解消の一報がもたらされていたらしく、紳士淑女の鑑と言われている彼らも、さすがにこの状況には落ち着いてはいられないようだった。
「いい加減になさい、騒ぎ立ててみっともない。」
「申し訳ありません・・・。」
「詳細がわかり次第、宰相閣下からご連絡をいただけるとのことです。それまでは憶測で物事を判断しないように。」
教師陣をまとめる事務室長のひと言で場が静かになった時、宰相自らが説明のために事務室を訪れた。
「既に聞き及んでいるかと思うが、この度エーデル王太子殿下とアンジェラ・エフモント公爵令嬢の婚約が解消されることとなった。そして殿下はラリッサ・リンデン男爵令嬢を新たな婚約者に迎えたいとおっしゃっている。」
「両陛下は何と?」
「国王陛下は反対されているが、王妃陛下は条件さえ満たせば婚約者に迎えて良いのではないかとのことだ。」
「条件、ですか?」
「あぁ。主要交易国であるホルテンシア、ケルス両国の公用語を日常会話に支障がないレベルまで習得すること。そして、外交を一任されている王妃陛下の補佐ができる程度には両国についての知識を身に付けること。最低限このふたつの条件を満たせば婚約者として迎えても良いだろう、と。」
「なるほど、現状はあくまでも婚約者候補ということですね?そして王妃陛下が出された条件をクリアできるよう、私どもがラリッサ嬢を指導する、と。」
「そういうことだ。いろいろと思うところもあるだろうが、公正な教育をお願いしたいとのことだ。」
「かしこまりました。」
宰相が退室して、ようやくユウェルの挨拶の場が設けられた。
「アムスベルク家のユウェルと申します。歴史専任として勤めてまいります。よろしくお願い致します。」
「本当は今日から研修を兼ねて授業のサポートをしてもらう予定だったのだけれど・・・まずは王妃教育の方針やスケジュールをどのように決めていくのかを覚えてもらいましょうか。」
「わかりました。」
「まずは婚約者・・・今回は婚約者候補ですが、御令嬢の学園での成績や実績、授業態度から生活態度まで、可能な限り詳細な情報を学園から送っていただき、その情報をもとに王妃教育のスケジュールや授業内容などを決めていきます。」
「ひとりひとりの性格や能力に合わせてカリキュラムを組むのですね?」
「その通りです。そうすることで、効率的な授業を行えますし、何より本人に大きな負担がかからないよう進めていくことができるのです。今回新たに婚約者候補となったラリッサ嬢の調査書も、明日には届くでしょう。」
それまでは特にすることもないからと、新人のユウェルは今日のところは帰宅することになった。
だが、まだ昼食にも早すぎるくらいの時間。せっかくなのでユウェルは図書室に行ってみることにした。王宮で働く者なら自由に利用できる王宮図書室。その蔵書の数は首都にある国立図書館をも越えるらしいという噂を聞いてから、ずっと楽しみにしていたのだ。
果たしてその噂は本当だった。ユウェルよりずっと背の高い本棚がずらりと並び、そのひとつひとつにはしごが立てかけられている。天井はステンドグラスになっており、陽光が降り注ぐところに本を読むためのスペースが設けられていた。厳かで、神聖さすら感じるその空間に、ユウェルは思わず息を飲んだ。
「何か、お困りですか?」
入り口で立ち尽くすユウェルに、司書が声をかけてきた。
「あっ、いえ、初めて来たものですから・・・あまりの美しさと蔵書の豊富さに驚いてしまって。」
「ふふ、わかります、私も初めて訪れた時は驚きましたから。こちらに案内板がございますが、何かお探しの際には遠慮なくお声がけくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
「ごゆっくりどうぞ。」
ユウェルはまず、王宮に関する歴史書を読んでみることにした。この国の成り立ち、歴代の国王・王妃とその政策など。ほとんどの内容はこれまで読んできた歴史書に書いてあることばかりだが、中には新たな視点で書かれたものもあり、とても興味深かった。
ユウェルは歴史が好きだ。歴史はおもしろい。歴史に関連したいろいろなことを知るのもまた、おもしろい。
例えば、約120年前に起きた大災害の時にはどんな救済措置がとられたのか、今ならどんなことができるか、未然に防ぐためには何が必要か、といった具合に、様々な出来事や人物について調べながら歴史を辿っていくのが楽しくて仕方ないのだ。
とにかく目についた歴史書を順番に手に取り、ユウェルは時間を忘れて読み耽った。
「新しい婚約者は男爵令嬢なんでしょう?半年で公爵令嬢のアンジェラさんと同じレベルに、なんて・・・とても間に合うとは思えないわ。」
「エーデル殿下は一体どういうおつもりなんだ・・・。」
ユウェルが王宮専属教師の事務室に着いた時には既に婚約解消の一報がもたらされていたらしく、紳士淑女の鑑と言われている彼らも、さすがにこの状況には落ち着いてはいられないようだった。
「いい加減になさい、騒ぎ立ててみっともない。」
「申し訳ありません・・・。」
「詳細がわかり次第、宰相閣下からご連絡をいただけるとのことです。それまでは憶測で物事を判断しないように。」
教師陣をまとめる事務室長のひと言で場が静かになった時、宰相自らが説明のために事務室を訪れた。
「既に聞き及んでいるかと思うが、この度エーデル王太子殿下とアンジェラ・エフモント公爵令嬢の婚約が解消されることとなった。そして殿下はラリッサ・リンデン男爵令嬢を新たな婚約者に迎えたいとおっしゃっている。」
「両陛下は何と?」
「国王陛下は反対されているが、王妃陛下は条件さえ満たせば婚約者に迎えて良いのではないかとのことだ。」
「条件、ですか?」
「あぁ。主要交易国であるホルテンシア、ケルス両国の公用語を日常会話に支障がないレベルまで習得すること。そして、外交を一任されている王妃陛下の補佐ができる程度には両国についての知識を身に付けること。最低限このふたつの条件を満たせば婚約者として迎えても良いだろう、と。」
「なるほど、現状はあくまでも婚約者候補ということですね?そして王妃陛下が出された条件をクリアできるよう、私どもがラリッサ嬢を指導する、と。」
「そういうことだ。いろいろと思うところもあるだろうが、公正な教育をお願いしたいとのことだ。」
「かしこまりました。」
宰相が退室して、ようやくユウェルの挨拶の場が設けられた。
「アムスベルク家のユウェルと申します。歴史専任として勤めてまいります。よろしくお願い致します。」
「本当は今日から研修を兼ねて授業のサポートをしてもらう予定だったのだけれど・・・まずは王妃教育の方針やスケジュールをどのように決めていくのかを覚えてもらいましょうか。」
「わかりました。」
「まずは婚約者・・・今回は婚約者候補ですが、御令嬢の学園での成績や実績、授業態度から生活態度まで、可能な限り詳細な情報を学園から送っていただき、その情報をもとに王妃教育のスケジュールや授業内容などを決めていきます。」
「ひとりひとりの性格や能力に合わせてカリキュラムを組むのですね?」
「その通りです。そうすることで、効率的な授業を行えますし、何より本人に大きな負担がかからないよう進めていくことができるのです。今回新たに婚約者候補となったラリッサ嬢の調査書も、明日には届くでしょう。」
それまでは特にすることもないからと、新人のユウェルは今日のところは帰宅することになった。
だが、まだ昼食にも早すぎるくらいの時間。せっかくなのでユウェルは図書室に行ってみることにした。王宮で働く者なら自由に利用できる王宮図書室。その蔵書の数は首都にある国立図書館をも越えるらしいという噂を聞いてから、ずっと楽しみにしていたのだ。
果たしてその噂は本当だった。ユウェルよりずっと背の高い本棚がずらりと並び、そのひとつひとつにはしごが立てかけられている。天井はステンドグラスになっており、陽光が降り注ぐところに本を読むためのスペースが設けられていた。厳かで、神聖さすら感じるその空間に、ユウェルは思わず息を飲んだ。
「何か、お困りですか?」
入り口で立ち尽くすユウェルに、司書が声をかけてきた。
「あっ、いえ、初めて来たものですから・・・あまりの美しさと蔵書の豊富さに驚いてしまって。」
「ふふ、わかります、私も初めて訪れた時は驚きましたから。こちらに案内板がございますが、何かお探しの際には遠慮なくお声がけくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
「ごゆっくりどうぞ。」
ユウェルはまず、王宮に関する歴史書を読んでみることにした。この国の成り立ち、歴代の国王・王妃とその政策など。ほとんどの内容はこれまで読んできた歴史書に書いてあることばかりだが、中には新たな視点で書かれたものもあり、とても興味深かった。
ユウェルは歴史が好きだ。歴史はおもしろい。歴史に関連したいろいろなことを知るのもまた、おもしろい。
例えば、約120年前に起きた大災害の時にはどんな救済措置がとられたのか、今ならどんなことができるか、未然に防ぐためには何が必要か、といった具合に、様々な出来事や人物について調べながら歴史を辿っていくのが楽しくて仕方ないのだ。
とにかく目についた歴史書を順番に手に取り、ユウェルは時間を忘れて読み耽った。
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