新たな道の行く先に

常盤桜

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第三話

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翌日、ラリッサの調査書が届いたとのことで、朝から指導方針について話し合いが行われた。

宰相から多少聞いてはいたが、改めて調査書を見ると想像以上に芳しくない。これでよく学園を卒業できたものだというその内容に、結婚式まで半年しかないという事実が重くのしかかる。王妃が課した条件は反対していると同義なのではないだろうかと思ったのは自分だけではないはずだとユウェルは思った。

何より、いちばんの問題は授業や課題への取り組み方であった。
特別授業態度が悪いわけではないのだが、常にラリッサを取り囲む令息たちがいて、座学においても実技においても彼女が出来ずにいるとすぐに答えを教えるなどして助けてしまっていたのだそうだ。
それでは本人のためにならないと何度もやめるよう注意したが、常に王太子が寄り添うように隣にいたため、教師陣もなかなか強く出られずにいたようだ。
そんな環境下にあった彼女が、果たしてどこまで王妃教育について来られるか・・・。

「この調査書を見る限り、ホルテンシア、ケルス両国について学ぶ前にまずは自国のことから学び直した方が良さそうね。王妃陛下について外交に携わるのに自国のことも理解できていないなんて許されないわ。基礎から徹底的にやっていきましょう。」

指導方針が決まれば、あとは各教科にわかれて授業の準備が始まる。ユウェルも先輩教師を手伝いながら、授業に必要なものや授業の進め方などを学ぶ。
これまでは知識は身に付けるものだったユウェルにとって、如何に人に伝えるかということを考えるのは難しくも新鮮で楽しいものだった。

そして数日後、いよいよラリッサの王妃教育が始まった。





「フェリーネ様、エーデル殿下とラリッサ嬢がお見えになりました。」

「すぐに行くから応接室で待つよう伝えてくれる?」

「わかりました。」

フェリーネはエーデルからアンジェラとの婚約解消と新しい恋人の存在を聞かされた時、驚かなかった。王太子には常に影が付いており、その言動は定期的に報告を受けていたからである。加えて、半月ほど前からアンジェラ本人からも話を聞いていた。彼女自身、近いうちにこうなるのではと予測していたようで、その時がきた場合の根回しを頼みにきていたのだ。
美しいだけでなく、賢く、聡明で、王妃である自分に直談判するだけの豪胆さもある。まさに次期王妃として申し分のない令嬢だ。そんなアンジェラとの婚約を解消するなど、考え直すようにと幾度となく諭してきたが、結局こういう結果になってしまった。
覚悟はできていたというアンジェラの穏やかな表情に救われる思いだったが、アンジェラには何の瑕疵もないということを示すためにも出来る限りのことはすると伝えたところ、以前からケルスに行ってみたいと思っていたということで、ケルス留学の一切の準備と向こうでの生活の保証を王家が請け負うことで話がついた。

「待たせたかしら。」

「いえ、お忙しい中お時間を作っていただきありがとうございます。」

「そちらのお嬢さんが?」

「はい、リンデン男爵家の令嬢、ラリッサです。ラリッサ、王妃陛下にご挨拶を。」

「はじめまして、ラリッサ・リンデンと申します!この度は王妃様にお会いできてとても光栄です!」

この場に呼ばれたということは歓迎されているのだとでも思っているのだろう、瞳を輝かせ、満面の笑みで挨拶をするラリッサを見て、フェリーネは内心ため息をついた。

「かわいらしいお嬢さんね。どうぞお座りになって。」

二人を座らせ、お茶の準備が整うのを待って、さっそく本題に入った。

「今日あなたたちに来てもらったのは、覚悟を聞いておきたかったからよ。」

「覚悟・・・ですか?」

「えぇ、そうよ。エーデル、あなたはあなたの我儘で一方的にアンジェラ嬢との婚約を解消した。彼女自身が気にしていないと言ってくれたおかげで、エフモント公爵も寛大な心で許してくれたから大きな問題になることはなかったわ。でもあなたが不誠実なことをした罪がそれで消えるわけではない。わかっているのかしら?」

「それは・・・アンジェラ嬢には本当に申し訳ないことをしたと思っています・・・。」

苦い顔をして俯くエーデルを見てラリッサが声をあげた。

「待ってください!エーデル様だけが悪いんじゃありません!私が・・・私がエーデル様を好きになってしまったから・・・でもエーデル様とは心から愛し合っているんです!どうか私たちのことを認めていただけませんか?!」

「ラリッサ、やめるんだ。」

「エーデル様・・・でも・・・!」

「私が不誠実だったことは事実なんだ、叱責を受けるのは当然のことだ。」

「そんな!!」

見つめ合う二人にフェリーネは今度こそ隠すことなくため息をついた。

「アンジェラ嬢との婚約解消が成立した今、あなたたちの関係をどうこうしようなんて思っていないわ。」

「それじゃあ、」

「ただし、今のままではラリッサさんを婚約者に迎えることはできないわ。」

「そんな・・・ではどうしたら認めてくださるのですか?」

「ラリッサさん、あなたはエーデルを愛しているのよね?」

「はい!心からお慕いしています!」

「それなら、エーデルに相応しい令嬢になるための努力、できるわよね?」

「もちろんです!どんなことでもやってみせます!」

「エーデル、あなたも同じ気持ちかしら?」

「はい。ラリッサと二人でどんな困難も乗り越えてみせます。」

「わかりました。それではさっそく明日からラリッサさんの王妃教育を始めます。ラリッサさんが私の出す条件を満たすことができたら、その時は婚約者として迎えることを認めましょう。」

「ありがとうございます!頑張ります!」

微笑み合って退室するふたりを見送り、フェリーネは自室に戻って2通の手紙を書いた。1通は宰相へ、そしてもう1通は・・・。封をして侍女に渡し、顛末を国王へ伝えるべく執務室に向かった。

「さて、どうなるかしらね・・・。」

杞憂で済めば良いと思いながらも、先が見えているようで、再びため息をついたのであった。
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