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第2の章 終焉への階段
Ⅳ
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「僕はタイミングが悪い時に来ちゃったかな?」
弾んだ声が、あたしと時雨の時間を邪魔した。
その声はどこか聞き覚えがある気がした。
あたしの口から「えっ?」と呟くように漏れた声は、時雨の声でかき消された。
「おや、恋。そろそろ時間でしたね」
「うん。でも、お邪魔なら、時間をずらして、また来るけど」
「そんなことをしていたら、また出勤時間に遅れますよ」
呆れたような時雨の言葉に、茶髪の王子さまはフッと笑った。
「さっきぶりだね。あなたは時雨の、だったんだね」
「恋、麦と知り合いでしたか?」
「麦ちゃんっていうんだ。ううん。さっき、ちょっと会っただけ」
「そう」
恋と呼ばれた彼は笑みを浮かべたまま、カウンターまで歩いてきた。
「僕はこういう者です」
彼が差し出してきた名刺には、[ラブキャッスル 恋]と書かれていた。
受け取るのに、吐き気がした。
最低な男だと思いながら、時雨の前で罵ることができなかった。
初対面からキスされたなんて、時雨に言いたくなかった。
「良かったらご贔屓にしてね」
ウインクをする彼に、黙ったまま、あたしはただ、眉をひそめた。
「何を言っているんですか。麦は高校生ですよ」
「えっ? そうなの。時雨の彼女なら、もうちょっと上かと思ったよ」
恋はあたしを上から下に見て、馬鹿にしたようにくすっと笑った。
―――うるさい。釣り合ってないことなんて、他人に言われなくてもわかっている。
つい地面に視線を落として、唇をかんだ。
視線と一緒に落ちてしまった重たくなった気持ちをどうしてよいか、わからなかった。
「若いうちから育てるってのも、良いかなと思いましてね」
時雨がポンポンッとあたしの頭をなでた。
それだけであたしは、底に落ちたあたしの気持ちを引き上げることができる。
―――カッと顔に熱がこもるのを感じた。
今、きっと耳まで真っ赤になっている。
「麦、今日は帰りなさい。これから、恋の彫りものを始めますから」
「―――うん。また、明日来る」
あたしは真っ赤な顔を見られたくなくて、俯いたまま、返事をした。
ギィッと重たい扉を開けて、外の空気を吸った瞬間、ようやく息ができると思った。
あたしの心を動かすのは、すべての時雨が原点になっている。
ヤバイ。
あたしは、きっとどんどん、時雨に気持ちが傾いている。
これが良いことなのか、悪いことなのか。
今はまだ、わからなかった―――
******************************
恋のことも、記憶の隅に忘れてきたころ、繁華街でまた恋に声をかけられた。
「ちょっと時間、ある?」
首を傾げた恋に、あたしは眉をひそめた。
「時間なんてありません」
きっぱりと言い切ると、恋は軽く笑い声を上げた。
「別にあなたに何かしようっていうわけじゃないよ。時雨に届けてほしいものがあるんだ」
「時雨に?」
「どうせ、これから時雨の店に行くんでしょう? それなら届けてくれるぐらいしてもよいんじゃない?」
「なんで、あたしが」
「キスをした仲だし?」
綺麗な王子顔で小首をかしげた恋に、腹が立った。
「それなら、尚のこと、貴方の頼みなんて聞きたくない!」
怒鳴るようなあたしの声に、恋は「ふーん」と気に入らなそうに口を尖らせた。
「それなら、こういえばいいの? 麦とキスしたことを時雨にいうよ」
「―――」
「ふふっ、やっぱりね。麦―――君って」
「わかりました。届けモノぐらいします」
恋の話を聞くのも腹が立って、無理やり彼の話を断ち切った。
「そう?」と恋は口元をクイッと持ち上げて、笑った。
弾んだ声が、あたしと時雨の時間を邪魔した。
その声はどこか聞き覚えがある気がした。
あたしの口から「えっ?」と呟くように漏れた声は、時雨の声でかき消された。
「おや、恋。そろそろ時間でしたね」
「うん。でも、お邪魔なら、時間をずらして、また来るけど」
「そんなことをしていたら、また出勤時間に遅れますよ」
呆れたような時雨の言葉に、茶髪の王子さまはフッと笑った。
「さっきぶりだね。あなたは時雨の、だったんだね」
「恋、麦と知り合いでしたか?」
「麦ちゃんっていうんだ。ううん。さっき、ちょっと会っただけ」
「そう」
恋と呼ばれた彼は笑みを浮かべたまま、カウンターまで歩いてきた。
「僕はこういう者です」
彼が差し出してきた名刺には、[ラブキャッスル 恋]と書かれていた。
受け取るのに、吐き気がした。
最低な男だと思いながら、時雨の前で罵ることができなかった。
初対面からキスされたなんて、時雨に言いたくなかった。
「良かったらご贔屓にしてね」
ウインクをする彼に、黙ったまま、あたしはただ、眉をひそめた。
「何を言っているんですか。麦は高校生ですよ」
「えっ? そうなの。時雨の彼女なら、もうちょっと上かと思ったよ」
恋はあたしを上から下に見て、馬鹿にしたようにくすっと笑った。
―――うるさい。釣り合ってないことなんて、他人に言われなくてもわかっている。
つい地面に視線を落として、唇をかんだ。
視線と一緒に落ちてしまった重たくなった気持ちをどうしてよいか、わからなかった。
「若いうちから育てるってのも、良いかなと思いましてね」
時雨がポンポンッとあたしの頭をなでた。
それだけであたしは、底に落ちたあたしの気持ちを引き上げることができる。
―――カッと顔に熱がこもるのを感じた。
今、きっと耳まで真っ赤になっている。
「麦、今日は帰りなさい。これから、恋の彫りものを始めますから」
「―――うん。また、明日来る」
あたしは真っ赤な顔を見られたくなくて、俯いたまま、返事をした。
ギィッと重たい扉を開けて、外の空気を吸った瞬間、ようやく息ができると思った。
あたしの心を動かすのは、すべての時雨が原点になっている。
ヤバイ。
あたしは、きっとどんどん、時雨に気持ちが傾いている。
これが良いことなのか、悪いことなのか。
今はまだ、わからなかった―――
******************************
恋のことも、記憶の隅に忘れてきたころ、繁華街でまた恋に声をかけられた。
「ちょっと時間、ある?」
首を傾げた恋に、あたしは眉をひそめた。
「時間なんてありません」
きっぱりと言い切ると、恋は軽く笑い声を上げた。
「別にあなたに何かしようっていうわけじゃないよ。時雨に届けてほしいものがあるんだ」
「時雨に?」
「どうせ、これから時雨の店に行くんでしょう? それなら届けてくれるぐらいしてもよいんじゃない?」
「なんで、あたしが」
「キスをした仲だし?」
綺麗な王子顔で小首をかしげた恋に、腹が立った。
「それなら、尚のこと、貴方の頼みなんて聞きたくない!」
怒鳴るようなあたしの声に、恋は「ふーん」と気に入らなそうに口を尖らせた。
「それなら、こういえばいいの? 麦とキスしたことを時雨にいうよ」
「―――」
「ふふっ、やっぱりね。麦―――君って」
「わかりました。届けモノぐらいします」
恋の話を聞くのも腹が立って、無理やり彼の話を断ち切った。
「そう?」と恋は口元をクイッと持ち上げて、笑った。
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