アポカリプティックサウンド~脅迫から始める終焉の恋~

魚沢凪帆

文字の大きさ
17 / 23
第2の章 終焉への階段

しおりを挟む
「僕はタイミングが悪い時に来ちゃったかな?」

弾んだ声が、あたしと時雨の時間を邪魔した。

その声はどこか聞き覚えがある気がした。
あたしの口から「えっ?」と呟くように漏れた声は、時雨の声でかき消された。

「おや、恋。そろそろ時間でしたね」

「うん。でも、お邪魔なら、時間をずらして、また来るけど」

「そんなことをしていたら、また出勤時間に遅れますよ」

呆れたような時雨の言葉に、茶髪の王子さまはフッと笑った。

「さっきぶりだね。あなたは時雨の、だったんだね」

「恋、麦と知り合いでしたか?」

「麦ちゃんっていうんだ。ううん。さっき、ちょっと会っただけ」

「そう」

恋と呼ばれた彼は笑みを浮かべたまま、カウンターまで歩いてきた。


「僕はこういう者です」

彼が差し出してきた名刺には、[ラブキャッスル 恋]と書かれていた。

受け取るのに、吐き気がした。

最低な男だと思いながら、時雨の前で罵ることができなかった。

初対面からキスされたなんて、時雨に言いたくなかった。



「良かったらご贔屓にしてね」

ウインクをする彼に、黙ったまま、あたしはただ、眉をひそめた。


「何を言っているんですか。麦は高校生ですよ」

「えっ? そうなの。時雨の彼女なら、もうちょっと上かと思ったよ」


恋はあたしを上から下に見て、馬鹿にしたようにくすっと笑った。


―――うるさい。釣り合ってないことなんて、他人に言われなくてもわかっている。

つい地面に視線を落として、唇をかんだ。

視線と一緒に落ちてしまった重たくなった気持ちをどうしてよいか、わからなかった。


「若いうちから育てるってのも、良いかなと思いましてね」

時雨がポンポンッとあたしの頭をなでた。

それだけであたしは、底に落ちたあたしの気持ちを引き上げることができる。


―――カッと顔に熱がこもるのを感じた。

今、きっと耳まで真っ赤になっている。


「麦、今日は帰りなさい。これから、恋の彫りものを始めますから」

「―――うん。また、明日来る」

あたしは真っ赤な顔を見られたくなくて、俯いたまま、返事をした。

ギィッと重たい扉を開けて、外の空気を吸った瞬間、ようやく息ができると思った。



あたしの心を動かすのは、すべての時雨が原点になっている。



ヤバイ。

あたしは、きっとどんどん、時雨に気持ちが傾いている。

これが良いことなのか、悪いことなのか。

今はまだ、わからなかった―――


******************************


恋のことも、記憶の隅に忘れてきたころ、繁華街でまた恋に声をかけられた。

「ちょっと時間、ある?」

首を傾げた恋に、あたしは眉をひそめた。


「時間なんてありません」

きっぱりと言い切ると、恋は軽く笑い声を上げた。

「別にあなたに何かしようっていうわけじゃないよ。時雨に届けてほしいものがあるんだ」

「時雨に?」

「どうせ、これから時雨の店に行くんでしょう? それなら届けてくれるぐらいしてもよいんじゃない?」

「なんで、あたしが」

「キスをした仲だし?」

綺麗な王子顔で小首をかしげた恋に、腹が立った。


「それなら、尚のこと、貴方の頼みなんて聞きたくない!」

怒鳴るようなあたしの声に、恋は「ふーん」と気に入らなそうに口を尖らせた。


「それなら、こういえばいいの? 麦とキスしたことを時雨にいうよ」

「―――」

「ふふっ、やっぱりね。麦―――君って」

「わかりました。届けモノぐらいします」


恋の話を聞くのも腹が立って、無理やり彼の話を断ち切った。

「そう?」と恋は口元をクイッと持ち上げて、笑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...