『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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プロローグ

ゴウキの女

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「じゃあ、俺はこれで」


「うん・・・」


微妙な雰囲気のままであったが、ゴウキとクレアはお互いの帰り道が分かれるところに差し掛かり、挨拶をして分かれた。ゴウキは借りている部屋へ、クレアは実家である侯爵家へ歩いていく。


(明日にはまた元通りだ)


これまで喧嘩をしたりして険悪な空気のまま分かれたことは何度もあった。それでも翌日にはお互い頭を冷やして、何事もなかったかのようにまた接した。これがこれまで続いてきた日常だった。
今度もきっとそうだ。ゴウキはそう考え、部屋に戻ろうとして


(・・・いや、今日はちょっとだけ飲んで寝るか)


少しだけ気分が晴れないことが引っかかり、酒で気を紛らわせようとゴウキは扉の前で踵を返した。





-----


少し歩くと、ゴウキはやがて大きな門に行きつく。
これは区域ごとに設置されているもので、今までゴウキがいたのは壁で隔てられた第1区という上級国民のみが立ち入ることの出来る区域であり、上級国民以外はこの門で立ち入りを制限される。
門番に対して見せるようにゴウキは手に巻いた細めのブレスレットを掲げると「通ってヨシ!」と門番が通行の許可を出す。


「ゴウキはこれからまた飲みかい?」


顔なじみの門番の問いにゴウキは「あぁ」とだけ返して歩いていく。
門番はそれを見送りつつも

「わざわざ第2区に飲みに行くなんて変わりもんだな相変わらず」

とぼやいていた。
上級国民のいる第1区の方が店にある酒も料理も上質なものに違いない。それに勇者パーティーであるゴウキなら国費でそれを好きなだけ食べることができるのだ。それなのにわざわざ中級国民相手の商売しかしてない第2区に飲みに行くなんて変なだと首を傾げていた。


ーーーーー


ゴウキがその酒場に足を踏み入れると、カウンターにいたマスターが「いらっしゃい。久しぶりだね」と声をかけた。このところ多忙で来られなかったが、ここはゴウキの行きつけの店だった。


「お連れさんが待ち呆けてるよ」


マスターがそう言って店内の一角にあるテーブルを示す。


「連れ・・・?」


一人で来たはずだが?とゴウキが思いつつテーブルまで行くと、思わず笑みが漏れる。そこには見知った人間がテーブルに突っ伏していたからだ。酒に酔って潰れているようだ。


「よう、久しぶりだな」


そう言ってテーブルに着くと、突っ伏していた人物は顔を上げる。


「んぁ?」


半開きの口からよだれを出し、間抜けな声を出して寝ぼけた目でじっとゴウキの顔を見ると、数秒かけてようやく彼を認識したのか破顔する。


「あ!ひっさしぶりじゃんゴウキ!」


長い赤髪のポニーテールが目立つゴウキと同年齢の少女、スミレはとても嬉しそうだった。
そんな彼女を見てゴウキも少し荒んでいた心が少し落ち着いてきたことを実感していた。


「ここのところ忙しくてな。たまたま気が向いて来たんだが奇遇だな。会えて良かった」


「奇遇じゃないよ。スミレちゃん、ゴウキ君がいつ来るかソワソワしながら毎日ここで飲んでたよ。可哀想だからもっとこまめに来てほしいな」


注文を取りに来た顔なじみの年配のウエイターが言うと、スミレは顔を真っ赤にして否定する。


「ち、違うから!今日はたまたま来ただけだっての」


「毎日毎日遅い時間までチビチビ飲んで待ってて回転悪くなって仕方ないからね。ほんと、ゴウキくんもっと顔出してよ」


「い、いい加減にしろって!」


スミレとウエイターのやり取りを見てつい噴き出してしまったゴウキは、ついついパーティーのゴタゴタが続いて行きつけの店を蔑ろにしていたことを少し後悔した。忙しくてもちょっと無理してでも顔出しておけば良かったと。この店でこうして笑っているとき、ゴウキは勇者パーティーでは既に感じることができなくなっていた心の安らぎを得ることが出来ていた。


「乾杯!」


ビールで二人は乾杯する。
普段は笑うところを見せず、威圧オーラを出している(ように感じる)ゴウキが楽しそうに笑顔を見せ語らう姿を見た一般人は「あの女はゴウキの女か」と認識していたが、実際はただの友人である。
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