12 / 508
プロローグ
ゴウキの女
しおりを挟む
「じゃあ、俺はこれで」
「うん・・・」
微妙な雰囲気のままであったが、ゴウキとクレアはお互いの帰り道が分かれるところに差し掛かり、挨拶をして分かれた。ゴウキは借りている部屋へ、クレアは実家である侯爵家へ歩いていく。
(明日にはまた元通りだ)
これまで喧嘩をしたりして険悪な空気のまま分かれたことは何度もあった。それでも翌日にはお互い頭を冷やして、何事もなかったかのようにまた接した。これがこれまで続いてきた日常だった。
今度もきっとそうだ。ゴウキはそう考え、部屋に戻ろうとして
(・・・いや、今日はちょっとだけ飲んで寝るか)
少しだけ気分が晴れないことが引っかかり、酒で気を紛らわせようとゴウキは扉の前で踵を返した。
-----
少し歩くと、ゴウキはやがて大きな門に行きつく。
これは区域ごとに設置されているもので、今までゴウキがいたのは壁で隔てられた第1区という上級国民のみが立ち入ることの出来る区域であり、上級国民以外はこの門で立ち入りを制限される。
門番に対して見せるようにゴウキは手に巻いた細めのブレスレットを掲げると「通ってヨシ!」と門番が通行の許可を出す。
「ゴウキはこれからまた飲みかい?」
顔なじみの門番の問いにゴウキは「あぁ」とだけ返して歩いていく。
門番はそれを見送りつつも
「わざわざ第2区に飲みに行くなんて変わりもんだな相変わらず」
とぼやいていた。
上級国民のいる第1区の方が店にある酒も料理も上質なものに違いない。それに勇者パーティーであるゴウキなら国費でそれを好きなだけ食べることができるのだ。それなのにわざわざ中級国民相手の商売しかしてない第2区に飲みに行くなんて変なだと首を傾げていた。
ーーーーー
ゴウキがその酒場に足を踏み入れると、カウンターにいたマスターが「いらっしゃい。久しぶりだね」と声をかけた。このところ多忙で来られなかったが、ここはゴウキの行きつけの店だった。
「お連れさんが待ち呆けてるよ」
マスターがそう言って店内の一角にあるテーブルを示す。
「連れ・・・?」
一人で来たはずだが?とゴウキが思いつつテーブルまで行くと、思わず笑みが漏れる。そこには見知った人間がテーブルに突っ伏していたからだ。酒に酔って潰れているようだ。
「よう、久しぶりだな」
そう言ってテーブルに着くと、突っ伏していた人物は顔を上げる。
「んぁ?」
半開きの口からよだれを出し、間抜けな声を出して寝ぼけた目でじっとゴウキの顔を見ると、数秒かけてようやく彼を認識したのか破顔する。
「あ!ひっさしぶりじゃんゴウキ!」
長い赤髪のポニーテールが目立つゴウキと同年齢の少女、スミレはとても嬉しそうだった。
そんな彼女を見てゴウキも少し荒んでいた心が少し落ち着いてきたことを実感していた。
「ここのところ忙しくてな。たまたま気が向いて来たんだが奇遇だな。会えて良かった」
「奇遇じゃないよ。スミレちゃん、ゴウキ君がいつ来るかソワソワしながら毎日ここで飲んでたよ。可哀想だからもっとこまめに来てほしいな」
注文を取りに来た顔なじみの年配のウエイターが言うと、スミレは顔を真っ赤にして否定する。
「ち、違うから!今日はたまたま来ただけだっての」
「毎日毎日遅い時間までチビチビ飲んで待ってて回転悪くなって仕方ないからね。ほんと、ゴウキくんもっと顔出してよ」
「い、いい加減にしろって!」
スミレとウエイターのやり取りを見てつい噴き出してしまったゴウキは、ついついパーティーのゴタゴタが続いて行きつけの店を蔑ろにしていたことを少し後悔した。忙しくてもちょっと無理してでも顔出しておけば良かったと。この店でこうして笑っているとき、ゴウキは勇者パーティーでは既に感じることができなくなっていた心の安らぎを得ることが出来ていた。
「乾杯!」
ビールで二人は乾杯する。
普段は笑うところを見せず、威圧オーラを出している(ように感じる)ゴウキが楽しそうに笑顔を見せ語らう姿を見た一般人は「あの女はゴウキの女か」と認識していたが、実際はただの友人である。
「うん・・・」
微妙な雰囲気のままであったが、ゴウキとクレアはお互いの帰り道が分かれるところに差し掛かり、挨拶をして分かれた。ゴウキは借りている部屋へ、クレアは実家である侯爵家へ歩いていく。
(明日にはまた元通りだ)
これまで喧嘩をしたりして険悪な空気のまま分かれたことは何度もあった。それでも翌日にはお互い頭を冷やして、何事もなかったかのようにまた接した。これがこれまで続いてきた日常だった。
今度もきっとそうだ。ゴウキはそう考え、部屋に戻ろうとして
(・・・いや、今日はちょっとだけ飲んで寝るか)
少しだけ気分が晴れないことが引っかかり、酒で気を紛らわせようとゴウキは扉の前で踵を返した。
-----
少し歩くと、ゴウキはやがて大きな門に行きつく。
これは区域ごとに設置されているもので、今までゴウキがいたのは壁で隔てられた第1区という上級国民のみが立ち入ることの出来る区域であり、上級国民以外はこの門で立ち入りを制限される。
門番に対して見せるようにゴウキは手に巻いた細めのブレスレットを掲げると「通ってヨシ!」と門番が通行の許可を出す。
「ゴウキはこれからまた飲みかい?」
顔なじみの門番の問いにゴウキは「あぁ」とだけ返して歩いていく。
門番はそれを見送りつつも
「わざわざ第2区に飲みに行くなんて変わりもんだな相変わらず」
とぼやいていた。
上級国民のいる第1区の方が店にある酒も料理も上質なものに違いない。それに勇者パーティーであるゴウキなら国費でそれを好きなだけ食べることができるのだ。それなのにわざわざ中級国民相手の商売しかしてない第2区に飲みに行くなんて変なだと首を傾げていた。
ーーーーー
ゴウキがその酒場に足を踏み入れると、カウンターにいたマスターが「いらっしゃい。久しぶりだね」と声をかけた。このところ多忙で来られなかったが、ここはゴウキの行きつけの店だった。
「お連れさんが待ち呆けてるよ」
マスターがそう言って店内の一角にあるテーブルを示す。
「連れ・・・?」
一人で来たはずだが?とゴウキが思いつつテーブルまで行くと、思わず笑みが漏れる。そこには見知った人間がテーブルに突っ伏していたからだ。酒に酔って潰れているようだ。
「よう、久しぶりだな」
そう言ってテーブルに着くと、突っ伏していた人物は顔を上げる。
「んぁ?」
半開きの口からよだれを出し、間抜けな声を出して寝ぼけた目でじっとゴウキの顔を見ると、数秒かけてようやく彼を認識したのか破顔する。
「あ!ひっさしぶりじゃんゴウキ!」
長い赤髪のポニーテールが目立つゴウキと同年齢の少女、スミレはとても嬉しそうだった。
そんな彼女を見てゴウキも少し荒んでいた心が少し落ち着いてきたことを実感していた。
「ここのところ忙しくてな。たまたま気が向いて来たんだが奇遇だな。会えて良かった」
「奇遇じゃないよ。スミレちゃん、ゴウキ君がいつ来るかソワソワしながら毎日ここで飲んでたよ。可哀想だからもっとこまめに来てほしいな」
注文を取りに来た顔なじみの年配のウエイターが言うと、スミレは顔を真っ赤にして否定する。
「ち、違うから!今日はたまたま来ただけだっての」
「毎日毎日遅い時間までチビチビ飲んで待ってて回転悪くなって仕方ないからね。ほんと、ゴウキくんもっと顔出してよ」
「い、いい加減にしろって!」
スミレとウエイターのやり取りを見てつい噴き出してしまったゴウキは、ついついパーティーのゴタゴタが続いて行きつけの店を蔑ろにしていたことを少し後悔した。忙しくてもちょっと無理してでも顔出しておけば良かったと。この店でこうして笑っているとき、ゴウキは勇者パーティーでは既に感じることができなくなっていた心の安らぎを得ることが出来ていた。
「乾杯!」
ビールで二人は乾杯する。
普段は笑うところを見せず、威圧オーラを出している(ように感じる)ゴウキが楽しそうに笑顔を見せ語らう姿を見た一般人は「あの女はゴウキの女か」と認識していたが、実際はただの友人である。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる