『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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ゴウキ・ファミリー

王命

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「・・・はぁ」


クレアは乗り合わせ馬車の荷台で揺られながら、小さく溜め息をついた。
王都に戻りゴウキを手違いで追放してしまったことを知り、奔走してどうにもならぬことを知ってからまだ3日しか経過していない。なのにクレアは今、王都から遠く離れたバルジ王国の国境に近いところへ向かっている。


(結局、時間に追われてゴウキに謝る時間すら無かった)


クレアはゴウキに謝りたいと思って彼を探すところから始めようと思っていたが、タイミング悪く緊急で王命が下されてそれどころではなくなった。
突如現れた正体不明の魔物の襲撃により、北の国境警備隊が壊滅。国境を突破して現在、周辺に点在していた国軍が結集して交戦して食い止めているという。
その正体不明の魔物の討伐というのがクレア達に下された王命だった。


「間違いなく、隣国による侵略だろう」


乗り合い馬車にはクレア達しか乗っていない。正体不明の魔物の存在は公にこそされていないが、既に人づてに噂は広まっており、今危険な北に向かおうという者はそうそういない。だから他人に聞かれることはないと思ったリフトがそう言った。


「リフト。憶測で滅多なことを言うものではないわ」


クレアがそう言って咎める。バルジ王国の国家認定されている勇者パーティーが、隣国との国交に悪影響を及ぼすような発言を迂闊にするべきではない。誰かにそんなことを発言していると知られたものなら大問題になる。
だがリフトは発言を控えることはなかった。


「けど、状況的には高確率でそうだ。むしろそれ以外に無いじゃないか。どうせまだ外交段階で調整中だから、ということにしているんだ。別にそういう事情で戦えというのならそれはそれでいいが、せめて僕達には事前に本当のことを話してほしいものだけどね」


「リフト!」


クレアが再び咎めると、リフトはようやく黙った。
パーティーの他の誰も今のリフトに異論を挟まない。ミリアもマリスも・・・否、実のところクレアもリフトの言うことにほぼ同意見だったからだ。

バルジ王国は隣国であるディンコクと長年に渡って領土問題で揺れていた。
先代も先々代も国王はこの問題の対処を先送りしてきたために、領有権があやふやになり問題が泥沼化している箇所がいくつかあった。
今回の北の国境も元はそういった領土問題で揺れていた地域だった。小規模なれどディンコクの軍隊が侵略し、実行支配するつもりなのかもしれない。だが弱腰の国王はそれに対し表立って争うことをせず、あくまで秘密裏に国軍によって追い返すに留め、可能な限り穏便に片付けようとしているのかもしれない。
もしかしたら本当はディンコクから既に宣戦布告されているが、王家がその事実を伏せている可能性がある。
だから『侵略してきたディンコク国の軍』とは言わず、『正体不明の魔物』と呼んでいるのだろう・・・
リフトだけでなく、パーティーの誰もがそう考えていた。


(そうだとすると、今回の相手は人間か・・・)


クレアとて、人間と相対するのは初めてではない。ギルドで受けた依頼の中には山賊や犯罪者集団との戦闘もあった。実際に人を斬って殺したこともある。
だが、今回の相手はあくまで軍隊だ。軍隊は私利のために戦いを挑んでくるのではない。命令で来るだけなのだ。その相手を殺さねばならないということが、クレアの心を憂鬱にさせていた。


(相手が魔物だったら、どれだけ気が楽だったか)


クレアは今度は大きめの溜め息をついた。
ディンコクの騎士が相手でなければ良い・・・そんな願いがあったが、実際には確かに相手は隣国の騎士ではなかった。
隣国の騎士だったほうがマシだった、そんな敵をクレアは相手にすることになることを彼女はまだ知らない。
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