131 / 508
ゴウキ・ファミリー
王命
しおりを挟む
「・・・はぁ」
クレアは乗り合わせ馬車の荷台で揺られながら、小さく溜め息をついた。
王都に戻りゴウキを手違いで追放してしまったことを知り、奔走してどうにもならぬことを知ってからまだ3日しか経過していない。なのにクレアは今、王都から遠く離れたバルジ王国の国境に近いところへ向かっている。
(結局、時間に追われてゴウキに謝る時間すら無かった)
クレアはゴウキに謝りたいと思って彼を探すところから始めようと思っていたが、タイミング悪く緊急で王命が下されてそれどころではなくなった。
突如現れた正体不明の魔物の襲撃により、北の国境警備隊が壊滅。国境を突破して現在、周辺に点在していた国軍が結集して交戦して食い止めているという。
その正体不明の魔物の討伐というのがクレア達に下された王命だった。
「間違いなく、隣国による侵略だろう」
乗り合い馬車にはクレア達しか乗っていない。正体不明の魔物の存在は公にこそされていないが、既に人づてに噂は広まっており、今危険な北に向かおうという者はそうそういない。だから他人に聞かれることはないと思ったリフトがそう言った。
「リフト。憶測で滅多なことを言うものではないわ」
クレアがそう言って咎める。バルジ王国の国家認定されている勇者パーティーが、隣国との国交に悪影響を及ぼすような発言を迂闊にするべきではない。誰かにそんなことを発言していると知られたものなら大問題になる。
だがリフトは発言を控えることはなかった。
「けど、状況的には高確率でそうだ。むしろそれ以外に無いじゃないか。どうせまだ外交段階で調整中だから、正体不明の魔物の襲撃ということにしているんだ。別にそういう事情で戦えというのならそれはそれでいいが、せめて僕達には事前に本当のことを話してほしいものだけどね」
「リフト!」
クレアが再び咎めると、リフトはようやく黙った。
パーティーの他の誰も今のリフトに異論を挟まない。ミリアもマリスも・・・否、実のところクレアもリフトの言うことにほぼ同意見だったからだ。
バルジ王国は隣国であるディンコクと長年に渡って領土問題で揺れていた。
先代も先々代も国王はこの問題の対処を先送りしてきたために、領有権があやふやになり問題が泥沼化している箇所がいくつかあった。
今回の北の国境も元はそういった領土問題で揺れていた地域だった。小規模なれどディンコクの軍隊が侵略し、実行支配するつもりなのかもしれない。だが弱腰の国王はそれに対し表立って争うことをせず、あくまで秘密裏に国軍によって追い返すに留め、可能な限り穏便に片付けようとしているのかもしれない。
もしかしたら本当はディンコクから既に宣戦布告されているが、王家がその事実を伏せている可能性がある。
だから『侵略してきたディンコク国の軍』とは言わず、『正体不明の魔物』と呼んでいるのだろう・・・
リフトだけでなく、パーティーの誰もがそう考えていた。
(そうだとすると、今回の相手は人間か・・・)
クレアとて、人間と相対するのは初めてではない。ギルドで受けた依頼の中には山賊や犯罪者集団との戦闘もあった。実際に人を斬って殺したこともある。
だが、今回の相手はあくまで軍隊だ。軍隊は私利のために戦いを挑んでくるのではない。命令で来るだけなのだ。その相手を殺さねばならないということが、クレアの心を憂鬱にさせていた。
(相手が魔物だったら、どれだけ気が楽だったか)
クレアは今度は大きめの溜め息をついた。
ディンコクの騎士が相手でなければ良い・・・そんな願いがあったが、実際には確かに相手は隣国の騎士ではなかった。
隣国の騎士だったほうがマシだった、そんな敵をクレアは相手にすることになることを彼女はまだ知らない。
クレアは乗り合わせ馬車の荷台で揺られながら、小さく溜め息をついた。
王都に戻りゴウキを手違いで追放してしまったことを知り、奔走してどうにもならぬことを知ってからまだ3日しか経過していない。なのにクレアは今、王都から遠く離れたバルジ王国の国境に近いところへ向かっている。
(結局、時間に追われてゴウキに謝る時間すら無かった)
クレアはゴウキに謝りたいと思って彼を探すところから始めようと思っていたが、タイミング悪く緊急で王命が下されてそれどころではなくなった。
突如現れた正体不明の魔物の襲撃により、北の国境警備隊が壊滅。国境を突破して現在、周辺に点在していた国軍が結集して交戦して食い止めているという。
その正体不明の魔物の討伐というのがクレア達に下された王命だった。
「間違いなく、隣国による侵略だろう」
乗り合い馬車にはクレア達しか乗っていない。正体不明の魔物の存在は公にこそされていないが、既に人づてに噂は広まっており、今危険な北に向かおうという者はそうそういない。だから他人に聞かれることはないと思ったリフトがそう言った。
「リフト。憶測で滅多なことを言うものではないわ」
クレアがそう言って咎める。バルジ王国の国家認定されている勇者パーティーが、隣国との国交に悪影響を及ぼすような発言を迂闊にするべきではない。誰かにそんなことを発言していると知られたものなら大問題になる。
だがリフトは発言を控えることはなかった。
「けど、状況的には高確率でそうだ。むしろそれ以外に無いじゃないか。どうせまだ外交段階で調整中だから、正体不明の魔物の襲撃ということにしているんだ。別にそういう事情で戦えというのならそれはそれでいいが、せめて僕達には事前に本当のことを話してほしいものだけどね」
「リフト!」
クレアが再び咎めると、リフトはようやく黙った。
パーティーの他の誰も今のリフトに異論を挟まない。ミリアもマリスも・・・否、実のところクレアもリフトの言うことにほぼ同意見だったからだ。
バルジ王国は隣国であるディンコクと長年に渡って領土問題で揺れていた。
先代も先々代も国王はこの問題の対処を先送りしてきたために、領有権があやふやになり問題が泥沼化している箇所がいくつかあった。
今回の北の国境も元はそういった領土問題で揺れていた地域だった。小規模なれどディンコクの軍隊が侵略し、実行支配するつもりなのかもしれない。だが弱腰の国王はそれに対し表立って争うことをせず、あくまで秘密裏に国軍によって追い返すに留め、可能な限り穏便に片付けようとしているのかもしれない。
もしかしたら本当はディンコクから既に宣戦布告されているが、王家がその事実を伏せている可能性がある。
だから『侵略してきたディンコク国の軍』とは言わず、『正体不明の魔物』と呼んでいるのだろう・・・
リフトだけでなく、パーティーの誰もがそう考えていた。
(そうだとすると、今回の相手は人間か・・・)
クレアとて、人間と相対するのは初めてではない。ギルドで受けた依頼の中には山賊や犯罪者集団との戦闘もあった。実際に人を斬って殺したこともある。
だが、今回の相手はあくまで軍隊だ。軍隊は私利のために戦いを挑んでくるのではない。命令で来るだけなのだ。その相手を殺さねばならないということが、クレアの心を憂鬱にさせていた。
(相手が魔物だったら、どれだけ気が楽だったか)
クレアは今度は大きめの溜め息をついた。
ディンコクの騎士が相手でなければ良い・・・そんな願いがあったが、実際には確かに相手は隣国の騎士ではなかった。
隣国の騎士だったほうがマシだった、そんな敵をクレアは相手にすることになることを彼女はまだ知らない。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語
石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。
本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。
『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。
「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。
カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。
大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる