『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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賢者リノア

自信過剰

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トマスには戦闘経験らしいものはない。
だが、魔道具の開発技術者としては実に優秀だった。
トマスは自身が研究開発した魔道具の性能に自信を持っており、それがゴロツキと対峙してもなお保てていた彼の余裕の根拠である。
トマスは女にはだらしなかったが、魔道具の研究だけは熱心に取り組んでいた。その熱が高すぎる故に、魔道具の実験のためには、ゴロツキどもの命など奪うこと・・・いや、あらゆる犯罪を犯すことなどどうでも良いとまで考えるほどであるというサイコパスの一面を持っていた。


「実に素晴らしい魔道具が出来上がったものだ。これならば・・・」


トマスは、過剰ともいえる自信を持ち始めた。
戦闘行為によるリスクを知る前から、ゴロツキの撃退に成功してしまったことで、自身の持つ魔道具と能力に万能感を抱いてしまったのだ。


しかしそんなトマスに、冷や水をかぶせる者がいた。


「おぅ、兄ちゃん。あんまりはっちゃけないほうがいいぞ」


そう声をトマスにかけたのは、路地に屯している浮浪者だった。声からするに歳はトマスより少し年上だろうか?ぼうぼうに髭を生やしているので、そこはわかりづらいなとトマスは思った。
ゴロツキ達に意識を向けていたせいで、今の今まで存在に全く気付いていなかった。


「困ったなぁ。見られたくないところを見られちゃった」


目撃者がいたことに対して焦燥感はあったが、それでも口を封じてしまえば同じことかとトマスは浮浪者ににじり寄る。


「早合点するなよ。俺は別に兄ちゃんを憲兵に突き出すとかそんなことはしねー。今王都は見ての通り治安がよくないからな。兄ちゃんみたいなの一人一人にかまってる暇なんて憲兵には無いんだわ。被害者だってただのゴロツキだしな」


助かりたいがために言った言葉かと一瞬トマスは勘ぐるが、治安が良くないことは確かであるために、彼は結局浮浪者の言葉を信じて口封じはしないことにした。


「兄ちゃんが怖がるべきなのは、憲兵なんかよりゴウキ・ファミリーだよ」


浮浪者が言った『ゴウキ』のいう名前に、トマスはピクリと反応を示す。


「この王都で余計なことをして目を付けられれば、憲兵なんかよりずっと恐ろしい相手になるぜ。俺も元は名の通った冒険者で好き勝手やってたが、ゴウキに目を付けられてコテンパンにされてからは、あっと言う間に転落しちまったよ」


浮浪者は遠い目をしながら言った。
ゴウキと悶着のあった男だったが、今では再起する気力もなしに浮浪者に成り下がっていた。


「兄ちゃん見てると以前の俺を見ているようだ。いいな、忠告はしたぜ」


そう言って浮浪者はその場から去って行く。
トマスは薄ら笑いを浮かべながら、その背中を見送った。


「そんなに凄いやつなのか。それじゃあ、一応念には念を入れとこうかな」
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