『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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賢者リノア

ゴウキ達の後始末

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さて、外道達の後始末が終わり、それだけで全ての日常が帰ってくるわけではない。
ゴウキにも、最後にやらなければならないことがあった。


「やるしかねぇ・・・やるしかねぇんだ。ま、しゃーねーわな・・・」


ゴウキは自室で煙草を吸いながら、虚空を見つめてそう呟いた。
かれこれ同じことを呟きながら、何時間も延々と煙草を吸い終えては新しい煙草を手に取っている。部屋は煙草の煙で充満し、灰皿には吸い殻が山になり、いよいよ捨て場に困りそうなほどになっていた。

ゴウキは一つの決心をしていた。
それは周囲からも言われていた通り、スミレやリノアとの関係をはっきりさせること。
が、その決め事を実行に移すには、それなりのエネルギーが必要なことだった。
やることは決まっている。考え直すつもりはないし、止まる気だってない。後は動くだけなのだが、これが中々動けない。

しかし、いくら煙草を吸って考えにふけようとも、いずれは時間は無くなるし、煙草だって無限にあるわけではない。
やがて煙草が切れたところで、ゴウキはハッと気が付いた。気が付けばあれこれ考えだしてから二時間が経過していることに。


「あぁ、そうだよな」


潤沢に用意したはずの煙草に限りがありいずれ無くなるように、時間もまた有限である。
こうして悩んでいる間にも、どんどん時間は無くなっていく。

そう、スミレやリノアといられる時間も。
凶行に及んで、リノアの身柄をさらったトマスのように、理不尽に奪い取られることだってある。

ゴウキは決断して立ち上がる。その表情にもう迷いはなかった。







------




ゴウキはスミレとリノアを呼び出して思いのたけをぶつけた。
要約すると

・ゴウキは二人のことを女性として好きだ。
・しかし、どちらか一人を選ぶことが出来ない。
・二人とも俺の女になってくんね?

ということだ。

どちらか一人ではない、二人とも欲しい!これがゴウキの率直な気持ちだったわけだが、ぶん殴られるのを・・・いや、ぶっ殺されるのを覚悟でゴウキはこれを言った。
ゴウキから見ても、不誠実極まりない発言だ。
貴族やらが側室やら愛人やら持つのは珍しいことではないが、平民であるゴウキがそれを望むというのは非常識なのだ。

しかし・・・


「うん、わかった・・・」


頬を赤らめ、照れくさそうに少し俯きながら言うスミレ。


「はい、わかりました」


満面の笑みでそう答えるリノア。


「・・・え?」


二人のリアクションに茫然としたのはゴウキだった。
彼が思っていた以上に、あまりにあっさり受け入れられてしまったからである。
二人が向けてくる好意については、鈍いゴウキも周囲に指摘されるまでもなくそれとなく気付いていた。よって完全拒否という回答にはならないにしても、少しばかり悶着があるだろうくらいに考えていたのだ。

それがいきなりの満額回答に、ゴウキは呆気に取られてしまった。


「・・・良いのかよ?」


野暮であることはわかっているが、思わずそう訊ねてしまうゴウキ。


「・・・アタシとリノア、どちらかには決められねーんだろ?じゃあ、もう仕方ないじゃん。それに・・・」


「私達二人がゴウキ先輩の女になれば、ゴウキ先輩の・・・ゴウキ・ファミリーに箔が付きますしね」


スミレとリノア。
どちらも王都・・・いや、国でも冒険者としてトップと呼べる逸材である強大な軍事力だ。その二人を侍らせていることは、それだけでゴウキが絶大な影響力を持つことになる。

どうせゴウキが二人どちらかを選べないのであれば、逆に両方を選ぶメリットを最大限利用するべきだとスミレ達は考え、示し合わせていたのである。


「アタシ達二人を侍らすんだ。それなりの覚悟は決めてんだろ?」


しかし、だ。
スミレ達の用意したこの道を選ぶということは、相応の男になるという覚悟を持たねばならない。
スミレの問いに、ゴウキはグッと息を飲んだ。

二人を侍らせるに値するだけの価値と、力を持った男になる・・・そして、その男相応の振る舞いをするという覚悟だ。
そこを中途半端にするのであれば、「だったら両方じゃなくどちらか選んでくれ」となる。

ゴウキにはスミレ達の言いたいことがわかっていた。
そのように振る舞うということ・・・それはこれまでと違い、完全に強者の側になるということ。
俺は元々平民だから・・・などと、甘えたことを言うことは許されない。

これはただ単純にゴウキがゴウキ・ファミリーの長として、王都の実力者として君臨するとだけの話ではない。
ゴウキがそうするということ・・・力を誇示して生きていくということは、ゴウキの幼馴染にしてかつての仲間・・・勇者クレアの方針に反する。
青い理想を掲げながらも、自分を殺し、弱者に寄り添い、あくまで他者のためのみに力を使うというクレアの力になりたいと思っていたゴウキが、今は彼女と違う道を歩もうとしている。


「わかってるよ。スミレとリノア、二人に見劣りしねぇ男になろうじゃねえか」


だが、ゴウキは意を決して言った。
スミレとリノア、二人を自分のものにするというだけの宣言ではない。
クレアとの決別をも意味する宣言だった。
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