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勇者エクスは逃げられない
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「なっ・・・!?馬鹿なっ・・・」
瞬間移動の魔法。
これまで問題なく使えていたはずの魔法が使えなくなり、エクスは戸惑っていた。
「瞬間移動の古代魔法。我々は知らぬ魔法でしたが、以前ラダーム城にて使って見せたのは間違いでしたね。その場に居合わせた魔術師達により、魔力の痕跡からその魔法の分析がされていたのですよ」
「えっ・・・?」
「我々勇者でもない凡人には使えぬ魔法ですが、使用を妨害することくらいは出来るようになりました。今貴方のその魔法を妨害する魔力波がこの辺一体を包んでいるので、その魔法で姿を眩ますことは出来ませんよ」
「なっ・・・!?」
「初見だったら防げませんでした。演出のためとはいえ、不用意に使うべきではありませんでしたね」
エクスは呆然としながらもシンを見やると、彼の手には魔力を放ち続けるオーブのようなものがあった。あれが瞬間移動魔法を妨害する魔力を放ち続けているのだろうと察する。
「ご機嫌よう・・・ですか。こうして逃走が不発になると、さっきの台詞がじわりますね。フフッ・・・」
緊迫した空気に不釣り合いなレイの笑いをこらえた声だけが響き、エクスは気まずくなる。
「・・・プッ」
笑ってはいけないと思いつつも、ビアンもつられて噴き出す。
「~~~~~」
芝居がかった振る舞いが裏目になって気まずくなったエクスは憤怒のあまり言葉にならない唸りを上げる。
ラダーム城のときもそうであったが、芝居がかったカッコつけた演出が何気に好きなエクスであった。だからこそ、こうして裏目に出て三枚目を演じることになることに憤りを感じていた。
「はぁ、仕方がないですね」
一旦心を落ち着けたように見えたエクスはいつの間にか剣を手に取り、溜め息交じりに呟いた。
「・・・あまり手荒なことはしたくありませんでしたが、こうなれば力づくで押し通るまで」
そう言ってエクスが剣を構えた瞬間、ゾワッと空気が変わった。
脅しではなく、本当に力づくで包囲を突破しようという気迫がエクスから感じられる。
「正気ですか?いくら勇者と言えど、国に逆らおうなどとは」
シンは冷静を装いつつエクスに訊ねるが、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「俺は自由が好きなんですよ。自由が無くなるならば、黙ってはいられません」
自由奔放な性格だとは聞いていたが、まさか王国に反旗を翻すほどとは・・・とシンは驚愕する。
かつて先代ラダーム王が言ったように、勇者の家系は縛られぬ鳥であった。奔放にやってきた結果による責任を取らぬだけの逆切れだが、それでもエクスにしてみれば今後一日とて自由が得られぬのは地獄以外の何物でもなかったのだ。
エクスは危険だ。本当に力を行使してくるだろう。
しかしシンは立場上、すんなり道を空けてやるわけにもいかない。
シンとエクスの間に緊迫した空気が流れる。
しかし、ここで空気を読まぬレイが口を開いた。
「あ、エクスさん気まずくなって無理矢理空気変えましたね」
レイが横から茶々を入れ、エクスの眉がピクリと動く。
「カッコ悪いです」
「・・・」
蔑んだ目で見つけるレイの視線に対し、エクスは無表情だった。
カッコつけが好きなエクスはレイのこの安い挑発に簡単に乗ってしまっていた。
それは苦し紛れの時間稼ぎだった。
だが苦し紛れのそれは、ようやく時間を迎え効果を発揮することになる。
「うっ・・・!?がっ・・・」
突如、エクスが体を奮わせて倒れた。
シン達が広げたとある罠にようやくエクスがかかったのである。
瞬間移動の魔法。
これまで問題なく使えていたはずの魔法が使えなくなり、エクスは戸惑っていた。
「瞬間移動の古代魔法。我々は知らぬ魔法でしたが、以前ラダーム城にて使って見せたのは間違いでしたね。その場に居合わせた魔術師達により、魔力の痕跡からその魔法の分析がされていたのですよ」
「えっ・・・?」
「我々勇者でもない凡人には使えぬ魔法ですが、使用を妨害することくらいは出来るようになりました。今貴方のその魔法を妨害する魔力波がこの辺一体を包んでいるので、その魔法で姿を眩ますことは出来ませんよ」
「なっ・・・!?」
「初見だったら防げませんでした。演出のためとはいえ、不用意に使うべきではありませんでしたね」
エクスは呆然としながらもシンを見やると、彼の手には魔力を放ち続けるオーブのようなものがあった。あれが瞬間移動魔法を妨害する魔力を放ち続けているのだろうと察する。
「ご機嫌よう・・・ですか。こうして逃走が不発になると、さっきの台詞がじわりますね。フフッ・・・」
緊迫した空気に不釣り合いなレイの笑いをこらえた声だけが響き、エクスは気まずくなる。
「・・・プッ」
笑ってはいけないと思いつつも、ビアンもつられて噴き出す。
「~~~~~」
芝居がかった振る舞いが裏目になって気まずくなったエクスは憤怒のあまり言葉にならない唸りを上げる。
ラダーム城のときもそうであったが、芝居がかったカッコつけた演出が何気に好きなエクスであった。だからこそ、こうして裏目に出て三枚目を演じることになることに憤りを感じていた。
「はぁ、仕方がないですね」
一旦心を落ち着けたように見えたエクスはいつの間にか剣を手に取り、溜め息交じりに呟いた。
「・・・あまり手荒なことはしたくありませんでしたが、こうなれば力づくで押し通るまで」
そう言ってエクスが剣を構えた瞬間、ゾワッと空気が変わった。
脅しではなく、本当に力づくで包囲を突破しようという気迫がエクスから感じられる。
「正気ですか?いくら勇者と言えど、国に逆らおうなどとは」
シンは冷静を装いつつエクスに訊ねるが、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「俺は自由が好きなんですよ。自由が無くなるならば、黙ってはいられません」
自由奔放な性格だとは聞いていたが、まさか王国に反旗を翻すほどとは・・・とシンは驚愕する。
かつて先代ラダーム王が言ったように、勇者の家系は縛られぬ鳥であった。奔放にやってきた結果による責任を取らぬだけの逆切れだが、それでもエクスにしてみれば今後一日とて自由が得られぬのは地獄以外の何物でもなかったのだ。
エクスは危険だ。本当に力を行使してくるだろう。
しかしシンは立場上、すんなり道を空けてやるわけにもいかない。
シンとエクスの間に緊迫した空気が流れる。
しかし、ここで空気を読まぬレイが口を開いた。
「あ、エクスさん気まずくなって無理矢理空気変えましたね」
レイが横から茶々を入れ、エクスの眉がピクリと動く。
「カッコ悪いです」
「・・・」
蔑んだ目で見つけるレイの視線に対し、エクスは無表情だった。
カッコつけが好きなエクスはレイのこの安い挑発に簡単に乗ってしまっていた。
それは苦し紛れの時間稼ぎだった。
だが苦し紛れのそれは、ようやく時間を迎え効果を発揮することになる。
「うっ・・・!?がっ・・・」
突如、エクスが体を奮わせて倒れた。
シン達が広げたとある罠にようやくエクスがかかったのである。
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