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無欲の変態

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「魔物じじい・・・それほどの方だったのですね。恥ずかしいことに、そこまでは知りませんでした」


魔物じじいがどれだけの大人物であるかをシュウに聞いたフローラは感嘆の声を上げた。
フローラほどの情報網があれば、その気になれば知ることが出来たことかもしれないが、シュウのことにしか興味の無かった彼女は世界の様々な権力者から表向きシャットダウンされた魔物じじいについての詳細な情報は知る由もなかったのだ。


(けど、おかしい・・・)


フローラはシュウのことについては聖女の権力を使って調べ上げていた。
それはこのアンドレアの町にいた頃の対人関係についてももちろん例外ではないが、魔物じじいのような人物との交流があったという情報さえ、フローラの耳には入っていなかったのだ。
元彼女についても情報は入らなかった。そのことも併せて、フローラには拭いようのない違和感をこの時に感じていた。


「魔物じじいについては、意図的に情報がシャットダウンされているところがありますから、フローラが知らなくても無理はないかもしれません。彼の功績が知れ渡ると、とにかく様々な用件で人が訪ねて来るようになってしまうので、それが煩わしくて仕方がないらしいのです」


フローラがシュウのことを嗅ぎまわったのに、思うように情報が掴めなかったことの違和感に首を傾げているなどとは思いも寄らないシュウは、ある程度の情報統制がされている魔物じじいのことを知らなかったことは仕方がないことだよと、フォローするつもりでそう言った。


「魔物じじいの生み出す利益に群がる輩もそうですが、彼に助けられたとお礼をしたいと押しかける人も多いようで、とにかくそういうのも全て断りたいそうです。金も物も、どちらにも魔物じじいは執着しないのですよ」


そう言ってシュウがチラリと目をやると、部屋の隅に乱雑に置いてある高価そうな宝石箱や畳まれた織物が目に入る。
それらはあらゆる権力者が、魔物じじいの功績を称えて受け取って欲しいと言って持って来たものだった。
さっきの茶器もお礼の品の一つと言っていたか・・・とフローラは思い出すが、乱雑に置かれて放置されているものも、恐らく負けじ劣らずの貴重品なのだろうなと想像すると、魔物じじいがいかに富に無頓着なのかが推し量られた。


「金品にも名誉にもつられず、ただただ自分の探求心を優先し、研究したいものを研究して、世に貢献する・・・素晴らしい、私もこうでありたい・・・無理ですが」


飲む打つ買うの三拍子が揃っていたシュウには、どうにも魔物じじいは明るく見えすぎる存在らしい。
人格者と言っているのはその辺のことを言っているのだろうか?しかし、方向性が違うだけで、シュウも魔物じじいも根はとても似ているような気がする・・・と、フローラは思った。


「いつだって魔物じじいは変わりませんでした。いつだって研究、研究、また研究・・・下手すると私より長生きして、ずっと研究し続けるのだろうと、笑ってそんなことを語ったこともあったのですが・・・」


言いながら、シュウは老け込んで痩せた魔物じじいの姿を思い出したのか、表情を曇らせた。


(あぁ、シュウ様・・・)


フローラはそんなシュウを見て僅かに切なさを感じた。
シュウとは体は繋げても、心はまだ恐らく魔物じじいほど強くは繋げていない。そんな気がしたのだ。

シュウも魔物じじいも変態に属する。
変態同士の繋がりの強さは、ちょっとやそっとのもので上回ることはできないのだ・・・それをフローラは痛感した。
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